MICE施設は“未来の出島”  駅直結と都市の魅力で中規模会議誘致へ

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MICEとは

江戸時代に世界との唯一の窓口となっていた出島。長崎市ではその出島を中心に国際貿易の拠点として活況を極めたように、再び経済発展の拠点として未来につなげようと、経済界を中心にMICE施設の建設に期待が集まっている。

 

観光が好調なうちに
交流産業の充実を目指す

旧グラバー住宅からオランダ坂を下ると、ビルと見違えるような巨大客船が停泊しているのが見える。低い汽笛が響くと、出港時間ぎりぎりまで買い物をした若いカップルが両手に大きな袋抱えて船着き場まで急ぐ。クァンタム・オブ・ザ・シーズ号は、上海を母港とし、全長約350m、総トン数約17万トン、旅客定員 4,180人、乗組員 1,500人のクルーズ客船だ。

長崎の国際観光ふ頭には、このような大型クルーズ船がおよそ3日に一度、年間130回以上も停泊し、多数の観光客を長崎に連れてくる。これが長崎の最近の姿だ。

今、長崎の観光産業には心地よい風が吹いている。平成24年10月の「世界新三大夜景」の認定に始まり、27年7月には「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録された。その構成資産23施設のうち、長崎には端島(軍艦島)をはじめ8つの資産がある。また、来年には、国宝の大浦天主堂を含む「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の世界遺産登録が期待されており、まさに追い風だ。行政においても、長崎さるく(長崎弁でぶらぶら歩くという意味)に始まる観光資源磨きから、国際観光受入のための環境整備、まちぶらプロジェクト(まちなかの賑わい再生)など、官民一体となった取り組みが着々と進んでいる。

好調な一般観光と対照的なのが長崎のMICE、いわゆるビジネス観光だ。平成26年の実績では、過去最高の約631万人の年間観光客のうち、スポーツを除くコンベンションの参加者は約16万人と伸び悩んでいる。その原因と考えられるのが誘致体制と施設の不足だ。会議やイベントが開催できる大きな屋内施設は、長崎ブリックホールや長崎県立体育館くらいしかない。ブリックホールには2,000席の劇場型ホールはあるが、展示場がなく、会議室も5室のみ。県立体育館も90%を超える高い稼働率で、さらなるイベント利用は難しい。この状況では、参加者の多い学会・大会などは複数会場に分散開催とならざるを得ず、主催者の負担増加や参加者の不便を強いている。また、地元企業開催の大きなイベントも屋外での開催がほとんどなのが現状だ。

事実、長崎市の調査でも、学会などの開催地検討の際に、長崎市は主会場や分科会会場、宿泊施設、駐車場などの施設面の不備から、最初から検討対象外となっている場合が多いということがわかっている。

このような状況を背景として、平成23年8月、長崎市内の産学官金で組織する「長崎サミット」において、MICE施設の建設が提言され、事務局となった長崎市は、27年3月、長崎駅西側の敷地約2万3千㎡を取得した。
(ただし、土地の購入にあたり、市議会からMICE施設の建設費用や採算の見通し、市民への説明不足などに対する懸念が指摘され、交流人口をより拡大させる施設のあり方の再検討が要請されている。)
中規模会議の誘致を狙う
計画段階からPCOが参画
これまで検討されてきたMICE施設の計画はどのようなものだろうか。

建設予定地は平成34年に新幹線が開通予定の新しい長崎駅の西側約2万㎡と、隣接地の保留地約3,300㎡。29年には県庁舎、県警本部庁舎も隣接地に移転する再開発エリアだ。

Ph2施設ブロックパーツ図メインホール(3,000㎡)、展示ホール(3,000㎡)、多目的ホール(1,500㎡)、会議室(計3,000㎡)、駐車場(300台)から構成され、それぞれ分割可能な利用形態を提供することで、様々な規模のMICEに対応し、稼働率を向上させることが想定されている。これにより、5,000人以上の大型会議を除く国内のほとんどの学会を開催できる規模となり、身の丈に合ったMICEのボリュームゾーンを狙う戦略だ。西日本では神戸、福岡に続く機能と規模を備えたMICE施設となる。

また、ホテル(200~300室、ハイクラス)を併設することで、駅横という立地(在来線、新幹線駅に隣接しホテルを併設する施設は九州初)を生かしながら、学会、会議、展示会、イベントなど869件の開催、利用者数延べ59万人を見込み、年間の総消費額77億円、経済波及効果123億円と試算している。

運営形式は、展示棟、MICEセンター棟、会議室、駐車場等を公設民営とし、指定管理者の下で利用料金制度による独立採算とすることが狙いだ。(ホテルは民設民営)

このMICE施設については、計画当初から施設運営と会議誘致を担う会議等の運営専門事業者(PCO)の大手3社、日本コンベンションサービス、コングレ、コンベンションリンケージのアドバイスを受けながら、運営者の意見を反映した利用者目線での検討が進められてきた。
市民・議会の理解がカギに
長崎市では、MICE施設建設への市民の理解を得るために、MICEの必要性や経済波及効果、市の財政状況、施設の採算性などについて、平成26年度に市内37か所でフォーラムや説明会を実施している。
民間においても、平成26年8月に経済界を中心に約60団体が「長崎MICE誘致推進協議会」を立ち上げ、27年5月、NPO法人コンベンション札幌ネットワークの藤田理事長を迎え、「MICE誘致は事業拡大のチャンス」と題し講演会を開催したほか、9月にはMICE施設建設促進の啓発ステッカーを作成し、市内のタクシーに掲示。長崎商工会議所においても、9月に日本コンベンションサービスMICE都市研究所の廣江所長を迎え、「長崎のビジネスに与える MICE の効果とは何か?」と題して「MICE推進セミナー」を実施するなど、経済界を中心に民間の動きも活発化してきている。
長崎の魅力活かし
ふたたび出島の時代へ
長崎市の人口はこの30年間で50万人から43万人に減少、30年後にはさらに10万人減ることが予測されている。なかでも生産年齢人口、年少人口の減少が顕著で、街の活性化が喫緊の課題となっている。これは長崎市だけでなく、多くの地方都市が抱える問題でもある。
その対策として、インバウンド観光による交流人口の増加に期待を寄せる都市も少なくない。
一方で、インバウンド観光は、為替レートや国際関係などの不確定要素に左右されるという側面もある。その点、MICEは比較的安定性が高く、ターゲットが明確のためマーケティング戦略による誘致策が打ち出しやすいというメリットがある。また、MICEの開催地としては、会場と宿泊、飲食と開催前後の近隣観光(アフターコンベンション)をオールインワンで行なうことができるコンパクトシティが海外ではトレンドとなっている。
世界遺産や自然など豊かな観光資源がコンパクトに集約した長崎市のポテンシャルは世界的にも高い。現在、長崎市は市議会からの要請を受けて、交流人口をより拡大させる施設のあり方について再検討を行っており、地方創生という時代の中で地方の生き残りをかけた検討が続けられているが、持てるポテンシャルを最大限に発揮し、確実な発展へとつなげるためには、MICEの積極的な誘致は必要。その環境整備において、交流の拠点となる「未来の出島」としてMICE施設の建設は不可欠だ。

京都がCOP3の開催を契機に、環境と言えば京都とされ「Do you KYOTO?(環境によいことをしていますか)」という使い方で海外での認知が進むなど都市ブランドを確立した。
20世紀には戦争により世界の行方を決めていたが、21世紀は国際会議で平和的に国際問題を解決する時代。現在、地方都市でMICE施設の建設が進むが、各地の歴史や産業を背景に、特色を活かしたMICE開催も期待される。
平和都市として国際的にも知名度が高い長崎市は、国際会議の場としてふさわしいロケーションになるのではないだろうか。

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