[BACKSTAGE Report]Session9「地域から日本とアジア、世界を変える為にイベントが出来ること」

8月30日に開催されたイベンターのための夏フェスBACKSTAGEでは、「イノベーション」が大きなテーマとなったが、Session8「海外テクノロジーイベントの最新トレンドを見通す」と今回紹介するSession9を合わせて読むことで、日本にも海外でトレンドとなっているテクノロジーイベントのような、未来のイノベーションが生まれ育つ場としての地域イベントが、近いうちに誕生することを予感させる。(「月刊イベントマーケティング」10月31日発行号掲載)

 

Session9「地域から日本とアジア、世界を変える為にイベントが出来ること」

[登壇者]

日本経済新聞社 デジタルビジネス局シニアプロデューサー 戸井精一郎さん

札幌「No Maps」実行委員会 伊藤博之さん

福岡「明星和楽」実行委員会 村上純志さん

神戸「Comin’ Kobe Interactive」実行委員会 舟橋健雄さん

「SXSW」アジア事務局のサカモトハルヒコさん

 

SXSWをロールモデルに展開図る

札幌、福岡、神戸の地域イベント

Session9「地域から日本とアジア、世界を変える為にイベントが出来ること」のテーマは地域イベント。直前のSession8において、海外では地域イベントが大きな盛り上がりをみせていることが紹介されたが、近年、日本でも地域ムーブメントの核となるようなイベントが立ち上がってきている。このセッションでは、Session8でも話題となったアメリカ・テキサス州オースティンのクリエイティブビジネスイベント「SXSW(サウスバイサウスウエスト)」と、このSXSWをロールモデルとして展開している3つの日本の地域イベントを取り上げ、イベントの魅力や可能性について展望した。

日本経済新聞社 デジタルビジネス局シニアプロデューサー 戸井精一郎さん

パネラーは、札幌「No Maps」実行委員会の伊藤博之さん、福岡「明星和楽(みょうじょうわらく)」実行委員会の村上純志さん、神戸「Comin’ Kobe Interactive」実行委員会の舟橋健雄さんに加え、「SXSW」アジア事務局のサカモトハルヒコさんが登壇した。モデレーターは、日本経済新聞社 デジタルビジネス局シニアプロデューサー 戸井精一郎さんが務めた。

「SXSW」アジア事務局 サカモトハルヒコさん

サカモトさんは「SXSWはオースティンの街中900mに渡って展開していて、渋谷で言うとビックカメラからアパホテルまでくらいの距離感」であることを紹介。さらに「非常にたくさんのプログラムが行われており、例えばカンファレンスのセッション数は約2000、登壇するスピーカーの人数は約4500人。特筆すべきは取材に来るメディアの多さで、8500人のメディア関係者が世界中から訪れた」と語った。

札幌「No Maps」実行委員会 伊藤博之さん

その後、日本における3つの地域イベントの紹介となり、トップバッターとして札幌「No Maps」の伊藤さんが同イベントの概要を説明した。同イベントは今年10月10日から16日まで、クリエイティブ産業の活性化と他産業への波及を目的に初開催される予定で、自治体の産業政策としての側面が強いのが特徴。Film(国際コンペティションなど)、Music(ライブイベント)、Interactive(人工知能カンファレンスや展示会など)の各テーマをクロスさせながら、コンテンツミックス型コンベンションとして展開していくことを明らかにした。

福岡「明星和楽」実行委員会 村上純志さん

続いて、村上さんが福岡市天神一帯を舞台に展開している、テクノロジーとクリエイティブの祭典「明星和楽」を説明。2011年から開かれていて、今年11月の開催ですでに6回目を迎える。「明星」にはスターを生み出す、「和楽」にはみんなで楽しく、という意味が込められている。これまでロンドンと台北でも開催した実績を持つ。

神戸「Comin’ Kobe Interactive」実行委員会 舟橋健雄さん

最後に、舟橋さんが2017年5月6、7日に神戸で開催予定の「Comin’ Kobe Interactive(CKB)」を紹介。これは、音楽+映画+IT+生活に関する多彩なコンテンツで構成されるイベントだ。舟橋さんは「神戸は“残念なまち”だ」と言う。震災で賑わいが壊滅し、その後、素晴らしい取り組みや人材が現れたものの、今でもバラバラのまま。市内に大学は多数あるが、卒業生は市外の企業に就職し、新たな産業もなかなか出てこない。舟橋さんは「今の神戸に必要なのは“つながり”と“若者”だ」と強調。そこで“神戸をひとつの大家族に”をキャッチフレーズにCKBを開催し、神戸のさらなる魅力を創出していく考えだ。

 

イベントが育つにつれて変わる

参加者の意識にどう対応するか

 

戸井さんの「イベントの収支は儲かっていますか?」という問いかけに、明星和楽の村上さんは「儲かってはいない。でも参加者からイベントを続けてほしいという声が寄せられているのは、何かが生まれているからだと思う」と話す。

サカモトさんは「イベントが立ち上がった当初は理念で人が集まるが、イベントが育ってくると違ってくる。SXSWの場合、オースティンを良くしようと思って参加している人は意外と少ない。例えばあるボランティアの参加目的は、音楽イベントに無料で入れることだ。イベントが成熟してきたら、参加者に支払う対価についてもよく考える必要が出てくる」と話した。

戸井さんが「集客はどうやっているのか?」と質問すると、No Mapsの伊藤さんは「地方イベントで東京と同じことをやるのは意味がない。例えば、北海道は土地が広いので、それを活かす企画を立て訴求していくことが集客につながると考えている」と話した。

最後に、サカモトさんから「SXSWの期間中、オースティンの住民の多くは市外へ出て行ってしまう」と興味深い発言があった。「地域イベントだからといって“地域”を重視し過ぎないほうがいいかもしれない」ともアドバイスした。

“地域セントリック”に偏ることなく、地元と来街者双方がメリットを享受できるような企画・運営を行っていくことも、地域イベントの発展には欠かせない視点になっていきそうだ。

日本にもSXSWのような、未来のイノベーションが生まれ育つ場としての地域イベントが、近いうちに誕生することを予感させるセッションであった。

 

▽関連記事

Session8「海外テクノロジーイベントの最新トレンドを見通す」


執筆者

蓬田修一


株式会社M&Cメディア・アンド・コミュニケーション代表取締役。編集者・ライターとして、これまで約2000人の経営者や企業のマーケティング担当者らに取材。マーケティング専門誌『販促会議』などに執筆多数。書籍制作・記事執筆のほか、企業のマーケティング支援も行う。美術とマーケティングをテーマにしたウェブ媒体を運営し、美術展や文化財の取材に年100回足を運ぶ。高校国語の漢文教材も制作。全国漢文教育学会会員。趣味は音楽。オヤジロックバンドで、作曲、ギター、キーボード担当。妻とボサノバユニットを組んで演奏。

関連記事

ページ上部へ戻る