水辺から東京を学ぶ ― イベント学会「水辺ウエルビーイング」研究会、TOKYOミナトリエとお台場で始動

東京アクアシンフォニー」

水辺から東京を学ぶ ― イベント学会「水辺ウエルビーイング」研究会、ミナトリエとお台場で始動

イベント学会が東日本本部の事業として立ち上げる「世界都市・東京の『水辺ウエルビーイング』研究会」のブレスト合宿が、7月18日(土)から19日(日)にかけて東京臨海部で行われた。初日は青海の東京臨海部広報展示室「TOKYO ミナトリエ」の見学から始まり、お台場海浜公園とデックス東京ビーチでの散策を経て、研究会立ち上げ交流会で締めくくられた。参加ガイドによれば、18日の参加者は15人。本稿は、筆者が同行した初日の様子をまとめたものである。

水都・東京を「参加体験」で学ぶ研究会

研究会の趣旨案は、東京を、奥多摩山塊と秩父山塊、多摩川と荒川、そして東京湾に囲まれた世界都市と位置づけるところから始まる。1400万人の都民の暮らしを支える水環境の装置であり、同時に新しいウエルビーイングの動きを生み出す場でもある、という見方だ。イベント学会はこの「水辺」の最新情報を探りながら、参加体験型の学びのプログラムとして実践的に共有し、発信していくとしている。

進め方も具体的に示されている。東日本本部の主催で2026年度の本部予算を充て、発起人会で基本構成を固めたうえで、3カ月に1回程度、土曜の午後に現場視察と交流会を開く。参加費は自己負担を原則とする。中部地区本部が進める「水と流域・地球市民フォーラム」との連携や、会員の拡大、助成金や協賛の獲得にも取り組む方針である。視察先の候補として挙がっているのは、臨海副都心、首都高の地下化が進む日本橋川から神田川、隅田川にかけての水域、荒川サイクリングロードの起点となる葛西臨海公園、玉川上水、神田川と善福寺川の湧水源、多摩川下流域などだ。いずれも現時点では案の段階にある。

イベント学会水辺ウエルビーイング

ミナトリエで江戸湊から現代の東京港へ

一行がまず向かったのは、青海フロンティアビル20階にある東京都港湾局の広報展示室「TOKYO ミナトリエ」である。ゆりかもめのテレコムセンター駅に直結し、入室は無料。地上100mからの眺望に加え、江戸湊のジオラマや現在の東京港のAR画像が見どころとなっている。解説を担当したのは、一般社団法人東京都港湾振興協会総務課長の川島幸久さん。最初に立ち止まったのは、江戸時代の湊を再現したジオラマの前だった。

ジオラマが描くのは、酒問屋が並んだ新川と「新酒番船」の様子である。上方で造られたその年の新酒を江戸へ運ぶ船が一番乗りを競った催しで、先着した船には賞金のほか、荷役の優先権や、積んできた酒の値が基準になるという特権が与えられたと説明された。上方から江戸へ「下って」くる酒は重宝され、そうでないものは「下らないもの」と呼ばれた。俗に「くだらない」の由来とされる話である。

大坂から江戸まで、通常の航海は3週間から6週間かかったという。新酒番船の最速記録は58時間。荷がいっぱいになるまで出帆しない菱垣廻船では酒が傷むため、大坂の酒問屋が酒樽専用の樽廻船を仕立てた。軽くて足の速いこの船は、陸の目標物を頼りに沿岸を進む通常の航路をとらず、沖合に出て黒潮に乗った。乗り損なえばハワイ方面まで流されかねない賭けであり、川島さんは「船長さんの経験と判断が非常に大きかった」と語った。江戸の湊は隅田川の河口にあって遠浅だったため、大型船は品川沖で小舟に積み替え、運河を通って町なかへ荷を運んだ。江戸が水運の町として発展した背景である。

話は現在の東京港へと進んだ。首都圏と東日本という巨大な消費地を背後に抱える東京港は、衣類や食料品、家具、家電といった日用品を輸入する港で、コンテナの取扱量は国内最多である。貨物の重さでは自動車の名古屋港が上回るといった違いも紹介された。近年増えているのはアジア向けの貨物で、とくに東南アジアが伸びている。北米・欧州向けはこの10年ほど横ばい、中国は高止まりの状態だ。港の容量はすでに限界に近く、コンテナヤードの運用を工夫してさばいているため、中央防波堤外側コンテナふ頭の先に、さらに新しいふ頭を整備する計画がある。ただし、港湾区域の線引きや羽田空港の高さ制限があり、埋め立てができる場所は限られる。新海面処分場は廃棄物の処分場でもあるため、リサイクルや高温焼却、浚渫土の再利用で延命を図っており、残り期間は30年から50年程度との見立てが示された。20年ほど前は「あと30年」と言われていたので、延びているのだという。参加者からは処分場の寿命や貯木場の現状などについて質問が相次ぎ、予定の時間をやや超える質疑となった。

臨海副都心の街づくりについては、電気・ガス・水道・通信のほか、ごみの収集管や地域の熱供給システムを収めた共同溝が、延べ17kmほど地下に張り巡らされていると説明された。ごみは各ビルの地下から空気の力で処分場へ運ばれるため、収集車はほとんど走らない。ゆりかもめは1995年に開業した。バブル崩壊で事業者の進出が足踏みした時期を経て、現在のお台場が観光地として賑わっていることにも触れられた。防災面では、防潮扉や水門、排水機場を備え、高潮対策センターを二つ置いてバックアップとしている。東日本大震災の際、臨海副都心では液状化が起きなかったとも紹介された。

お台場海浜公園で見た噴水の「課題」

ゆりかもめでお台場海浜公園へ移動すると、バッ地理の澤内隆さん(港区観光大使、イベント学会員)が、水辺に設けられた噴水を前に解説を始めた。2026年3月28日に運用を開始した「東京アクアシンフォニー」である。東京都港湾局が手がける臨海副都心の新しいランドマークで、高さ150m、横幅250mの「世界最大級の噴水」として紹介されている。

澤内さんが強調したのは、この噴水が抱える見え方の課題だった。「曇りの時が、ちょうど水しぶきが雲の色と同化してしまう」と指摘し、スイスやシンガポール、ラスベガスの噴水が美しく見えるのは、周囲にホテルなどの構造物があるからだと続けた。お台場は「周りが何もなくて」、背景になるのは湾岸のホテル群と対岸のビルだけである。この課題は、翌19日朝のミーティングで「お台場ファウンテンの課題」として発表され、今後も研究会のテーマの一つになりそうだ。

説明は噴水にとどまらず、台場の歴史にも及んだ。台場は、ペリー来航の翌年にかけて、幕府が江川太郎左衛門の設計で品川沖に築いた砲台である。現存するのは第三台場と第六台場で、第三台場は台場公園として整備され、陣屋の跡も残る。第六台場は立ち入りができない。第三台場の守りを担った忍藩のように、築造後の維持管理は各藩の負担となり、財政を圧迫したとも語られた。正式名称を「東京港連絡橋」というレインボーブリッジも話題に上り、全長は798mで、徒歩でも渡れて橋の上から台場が見渡せる、といった豆知識が披露された。水辺の移動手段としては、東京都が推奨する6人から8人乗りの水上タクシーが紹介され、防災船着場があれば運河沿いでも利用できるという。

昭和レトロの商店街と、噴水を望む交流会

お台場海浜公園を歩いたあと、一行はデックス東京ビーチの「台場一丁目商店街」を歩いた。昭和の街並みを再現した商店街で、駄菓子店やお化け屋敷が並ぶ。案内したのは、商店街で店を営む関係者である。訪日客が多く、最近は動画サイトで買い方や食べ方が紹介されているため、外国人客が駄菓子を一つずつかごに入れて買っていく光景も珍しくないという。イベントや取材での活用を歓迎する、という話もあった。

夕方から、同ビル6階のレストラン「1129 by OGAWA」で研究会立ち上げ交流会が開かれた。窓の向こうには噴水とレインボーブリッジが見え、ショーが始まると席からは様子を見守る声が上がった。ただ、窓越しでは音楽が聞こえず、音がなければ演出の魅力が伝わりにくいという感想も聞かれた。遠くから眺める人にとっての見え方をどう考えるか、という問いは、この場でも自然に浮かび上がっていた。

乾杯のあと、参加者が順に感想を述べた。ある参加者は「学会の大会の時には、なかなか個人的に話をする機会がない」と語り、この日の交流を評価した。噴水についての意見を持ち寄り、いい形で東京都に届けたいという声も出た。一方で、炎天下の見学では日陰や休憩場所が少なかったとして、受け入れ環境への率直な指摘もあった。

近くで見る人と、遠くで見る人

この日、筆者は取材半分、記録係半分という立場で参加した。多くのイベントを取材してきて感じるのは、イベントには会場の最前列で楽しむ人だけでなく、さまざまな距離感や立ち位置の参加者がいるということだ。近くで見る人、遠くから眺める人、仕事の合間にビルの窓から見る人、車で通りかかる人。噴水は現状、近くで見て、会話を楽しみながら鑑賞する人に向けて設計されているように思える。外側にいる人にどう楽しんでもらうかを演出に組み込めば、イベントの魅力は参加していない人にも広がり、次の参加者を生むことにつながる。水辺の空間を「参加体験」の舞台と捉える研究会にとって、ここは大きなヒントになるはずだ。

初日の行程は次のとおりである。参加ガイドに記された予定であり、実際の進行とは前後した部分がある。翌19日の海の森水上競技場でのブレックファーストミーティングと東京臨海広域防災公園の見学については、後日追記する。

時間 内容
14:20 青海フロンティアビル1階ロビーに集合
14:30〜16:00 TOKYO ミナトリエ見学
16:03〜 ゆりかもめでお台場海浜公園へ移動、散策、東京アクアシンフォニー(17:00の回)
17:45〜19:45 デックス東京ビーチ散策、研究会立ち上げ交流会(1129 by OGAWA)
20:00 東京アクアシンフォニー(夜の回)
夜 タクシーで海の森水上競技場へ移動し宿泊

出典:参加ガイド(7月15日付)。

参考

東京都港湾局「TOKYO ミナトリエ」/
東京都「東京アクアシンフォニー」報道発表/
Time Out Tokyo「東京アクアシンフォニー」/
台場公園 第三台場・陣屋跡/
JAF Mate「レインボーブリッジ」/
西宮市「新酒番船」

 

田中力 MICE 研究所 代表 展示会 イベント集客は、来場者数、来場者の質、滞留時間という 集客3D理論を展開。

田中力㈱MICE研究所 代表取締役/月刊イベントマーケティング副編集長

投稿者プロフィール

田中力 ㈱MICE 研究所 代表取締役 月刊イベントマーケティング副編集長。日本展示会協会 会員交流委員会、MPI Japan Japan Chapter 役員(広報委員会)、日本イベント学会 東日本地域本部 事務局、沖縄県MICE専門アドバイザー。英国暁星国際大学卒業後、貿易・物流・小売に関わり、バイヤーのサポートとして海外展に多数参加。2015年の創刊以来、イベントマーケティング・展示会関連の取材・編集・企画にも関わる。2016年からは自社でイベント関係者向けのカンファレンスBACKSTAGEも主催。近年はイベント業界の人材課題を解決する就職フェアも実施。

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