実はエナジードリンクの発売記念イベントではなかった――「Ehtel -“Release”- Party」に仕掛けられた謎解きとストーリー
- 2026/8/10
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実はエナジードリンクの発売記念イベントではなかった――「Ehtel -“Release”- Party」に仕掛けられた謎解きとストーリー
渋谷ストリームホールで開催中の「Ehtel -“Release”- Party- Produced by SWAG」。以前の記事’( https://www.event-marketing.co.jp/ehtel-releasse-party )では、架空のエナジードリンク「Ehtel」の発売記念パーティーというコンセプトのイベントとして紹介した。しかし、実際に会場に足を運んだ来場者やSNS上の感想を追っていくと、単なるドリンクのお披露目イベントでは終わらない、もう一つの顔が見えてくる。
会場に広がるメディアアート空間の奥には、謎解きとも考察とも呼べる仕掛けが張り巡らされ、その先には「なぜこのドリンクのイベントが開催されているのか」という隠されたストーリーが用意されている。制作・演出を手がける株式会社SWAGの志満津勇馬氏に、このイベントに込めた設計思想と、開幕から1カ月あまりで見えてきた来場者の広がり方について聞いた。
メディアアートとインスタレーション、そこに物語を掛け合わせる

「Ehtel -“Release”- Party」は、架空のエナジードリンク「Ehtel」を軸に、音と光による空間演出、インタラクティブなコンテンツ、そして謎解き的な考察要素までを一つの体験に融合させたイベントだ。企画の出発点には、他のイベントと似たものにはしたくないという独自性へのこだわりがあったと志満津氏は明かす。物語と、メディアアートやインスタレーションといった自社のクリエイティブを組み合わせ、テクノロジーとクリエイティブを活かせるものを一つのイベントとして融合させる方向性は、企画の割と早い段階で固まっていたという。
物語への没入を大事にしようとすればするほど、主催側が「謎解きイベントです」と公言してしまうことの矛盾に突き当たったという。謎を隠し持ってる側が、謎があるよって大っぴらに言うのって、本来だったらやらないよね――そうした発想から、ドリンクのリリースパーティーという入り口の奥に、実は別の世界が広がっているという構造そのものが企画の核になった。エリアの数や体験内容を詳細にアピールすることはあえて避け、なぜ詳細に公開しないのかという問い自体をストーリーの一部に組み込む設計にしたという。
もっとも、この「隠す」という選択には葛藤もあった。一度全部出してしまうと、もう出さない側には戻れなくなると、制作メンバーと話し合いを重ねたといい、志満津氏自身、最初はバランス的に世界観を守りすぎたかなという感覚もあったと率直に語る。全部を大っぴらなイベントとして見せてしまえば、隠された要素が面白かったという体験の作り方には二度と戻れなくなる――その一線を最後まで守り抜いた結果、周りの人が語る言葉からうっすらと輪郭が見えてくる、というくらいの広め方を目指したという。全てのお客さんが望む形に合わせるのか、それとも主催側が楽しんでほしい形を提供するのか。志満津氏は、その両方のバランスを取りながらも、全ての人を満たすものを提供するというより、一部の人に深く刺さるものを広げていきたいという思いがあったと話す。

SNSで見えてきた、狙い通りではなかった広がり方
開幕から2週間あまりが過ぎた時点で志満津氏に聞いたところ、想定していたよりも時間はかかっているものの、狙い通りの広がり方をしている実感があるという。全体の来場者数についてはもう少し伸びてほしいという本音もにじませつつ、特徴的なのは、SNSのプラットフォームによって反応がまったく異なる点だという。ストーリーや考察の面白さを評価する声はX(旧Twitter)に集中しており、感想を文字情報としてつぶやいてくれる比率がInstagramやTikTokよりもはるかに高い。それを見かけた次の人がまたレビューを残し、それをさらに別の人が見る――そうした口コミが口コミを呼ぶ広がり方が、Xを中心に起きているという。当初からこの層はメインターゲットの一つではあったものの、ここまで明確な広がり方をするとは正直予測しきれていなかったといい、現在は改めてXを中心とした広告媒体へのアプローチに力を入れているそうだ。
一方で、メディアアートやインスタレーションといえば本来Instagram的な映え文化と親和性が高いはずだが、今回はむしろその逆の現象が起きていると志満津氏は指摘する。写真を撮って自撮りを上げるという文化がもしかしたら徐々に薄れていっているのではないかという実感があり、そもそも「映える」という価値観自体が、ここ数年で少しずつ文化として廃れてきているのではないかとも語った。一部のインフルエンサーは別として、一般の来場者が自分の体験を誰でも見られる場所に発信するという行動自体が以前ほど活発ではなく、映え目当てで来場する層の伸びは想定よりも鈍化しているという。ちょうど取材前日にも広告の出し方を見直す打ち合わせをしたばかりだといい、コンテンツの中身を少しずつ解禁しているにもかかわらず伸びが鈍っている現状を、文化そのものの変化として受け止めている様子がうかがえた。
謎解きが好きな来場者からのレビューでは、メディアアート的な体験をしながら謎解きができるという新しさに加え、謎解き部分がおまけではなく相応にボリュームを持って作り込まれている点を評価する声が多いという。リッチな体験ができた、お金がかかっていそうなイベントだった、といった感想が寄せられていることに、物語とインスタレーションを掛け合わせた形をうまく提供できているという実感を得ているそうだ。もっとも、全ての情報を開示していない以上、どこに面白さを感じるかは人によってばらつきが出る。志満津氏はこの点について、作り手側が全て説明すれば受け取り方は均一になるだろうが、それぞれの来場者が自分なりに理解できた分だけ楽しむという構造そのものを、ある意味で狙い通りだったと捉えている。
表の顔と裏の顔――おすすめの楽しみ方
会場を訪れる客層は大きく二つに分かれる。何も知らずに当日ふらりと訪れる層と、しっかり時間を決めて予約を取る層で、体感としてはおおよそ半々だという。志満津氏がすすめる楽しみ方は、まず一周目はメディアアート鑑賞として、音と光の空間そのものを深く考えずに味わうこと。そのうえで二周目に考察・謎解きの視点で回ると、一つひとつのコンテンツに表の顔と裏の顔があることに気づき、見え方が一変するという。一周目はメディアアート目線、二周目はストーリーに没入した状態でコンテンツを見る目線――この順番で回ると、断片的にではあるが「これはこういう意味だったのか」という気づきが生まれ、そこからさらにストーリーを深掘りしたくなる、という流れを理想としているそうだ。もっとも謎解き部分を必ずやってほしいわけではなく、ライトにメディアアート空間だけを楽しむ来場者も歓迎だと強調した。
ストーリーに深く入り込んだ客ほど滞在時間は長くなる傾向にあり、一周してウェブサイトをチェックし、ヒントを見ながらもう一周、さらに三周目で見落としがないかを隅々まで探す、という回り方をする来場者も少なくない。RPGのゲームクリア後にもう一度ダンジョンへ戻って宝箱を全部探しに行く、というような感覚で楽しむ来場者もいるという。当初のアンケートは「60分以上」を最大区分としていたが、想定より長時間滞在する客が多く、現在は「65〜75分」「75〜90分」「90分以上」という区分に変更して再調査している。それでも90分以上と回答する来場者が多く、謎解きのボリュームを用意した意図が結果として表れている形だ。志満津氏は、ちゃんと全部楽しもうとしてくれる方が思ったよりも多い、と手応えを語る。この背景には有料イベントであることも影響しているとみられる。無料であればどのタイミングでも気軽に抜けられてしまう感覚があるのに対し、有料であることが、体験を最後まで堪能しようという心理につながっているようだ。
謎解きの存在に「気づいてもらう」ための工夫
このイベントで最も難しいのは、謎解き要素があること自体を、事前に何も知らない来場者にどう伝えるかだったという。開幕当初はドリンクのイベントだと思って訪れる来場者が大半を占め、隠された仕掛けに気づいてもらうハードルは高かった。しかし開幕から時間が経つにつれ、X上の口コミを見て謎解き的な要素があるらしいと知った状態で来場する客が徐々に増え、そうした客がヒントのある場所で立ち止まって考え込む姿を見て、周囲の来場者が何をしているのだろうと興味を持ち始める、という自然発生的な連鎖も生まれ始めているという。もっとも、この経路で謎解きの存在に気づく来場者の割合はまだそれほど多くはなく、会場内で同時に滞在する人数が増えるほど、こうした「他人の振る舞いから気づく」効果は起こりやすくなるとみられ、集客そのものとも密接にリンクした課題だという。

運営側でも、受付での案内や、ドリンクを受け取る際にウェブサイトの再チェックを促す仕掛けなど、世界観を壊さない範囲でヒントを出す工夫を重ねてきた。全く気づかなさそうな来場者にはあらかじめ軽くヒントを添えて案内し、それでも気づかないまま一周してしまった来場者には、ドリンクを受け取るタイミングで「ウェブサイトはちゃんと見ましたか」と一声かけ、館内の看板などに記載された番号をウェブ上の資料に入力すると大きなヒントが表示される仕組みも用意しているという。志満津氏がこだわったのは、謎解き好きの来場者にとって残念な難易度にはしたくないという一点だ。難易度自体は下げずに、気づけない方たちにはどういう方法で気づいてもらえるかを模索し続けているといい、謎解きの存在に気づいてもらうところまでを丁寧に設計し、そこから先はあえて突き放す、というバランス感覚で運営されている。オープン以降もこのバランス調整は続けており、来場者が増えるお盆の時期にはまた状況が変わるかもしれないとも話していた。
プレスでさえ仕掛けに乗ってしまう
内覧会では、報道関係者にストーリーの資料やシナリオを事前に渡していたといい、ドリンク「Ehtel」がフィクションであり、劇中に登場する架空のメーカー「UKAB Lab」が実在しないことも、資料を読めば把握できる状態にしていた。しかし実際には、一部メディアからファクトチェックの過程で、完全にドリンクブランドのPRとして記事化しようとしている旨の連絡が来たこともあったといい、プレスの方たちにもうちょっとうまく伝えきれていなかった、と志満津氏は振り返る。プレスに対しては本来、内容を理解したうえで書いてもらったほうがありがたい一方、理解しすぎてしまうと仕掛けそのものを説明されてしまいかねないという、もう一つのジレンマもあったという。
もっとも、これも仕掛けの一部として捉えられなくもない。プレスの方ですら、その導入の部分にある意味引っかかってくる――志満津氏はそう表現する。仕掛けてる部分にうまく乗っかってもらえているという感覚がある以上、一般の来場者が同じように受け取るのも自然な流れだと捉えているようだ。とはいえ、認知を広げる初動の難しさは想像以上だったといい、いっぱい人を集めることがゴールではないと、動員数だけを追わない姿勢を改めて語った。内覧会の頃と比べると、今はストーリーの核心に触れない範囲であれば、メディアに対してそれほど神経質に気を使ってもらわなくても大丈夫だという手応えも語られた。
「謎解きです」と言えないストーリー構成
このイベントを象徴するのが、謎解きは謎だぞ、とは言わないよねという発想だ。劇中では、モニター映像に登場する「桐村」という男性が、実は人体実験に関わった内部の人間でありながら、来場者に警告を発するために裏側で情報を公開していた、という設定になっている。このストーリー構成にした以上、公式側から謎解きがありますと明言することはできない。守ろうと思うと、一般のドリンクイベントを装い続けるしかない、というのが志満津氏の言う「ストーリー構成のところでの苦しみ」の正体だ。仮に「みんなでこの謎を解いてほしい」というストーリーにしていれば、それを言うだけで謎解きイベントだと分かってもらえただろうが、そうした予定調和的な作りはなるべく避けようと決めていたという。
複雑で難しい仕掛けであることは志満津氏自身も自覚しており、それでも、点と点がつながったときの面白さや、実際に体験した人の話が少しずつ広がっていく中で「そういうことだったのか」と気づいてもらえることこそが理想だと語る。謎解きだと最初から言ってしまった時点で、半分は答えを明かしてしまうようなものだ――そうした感覚があるからこそ、あえて存在そのものを隠し、口コミの中でじわじわと輪郭が見えてくる設計にこだわったという。
今回の取材を通じて見えてきたのは、「ドリンクのリリースパーティー」という表向きの体験の奥に、来場者それぞれの気づき方や深掘り度合いによって異なる顔を見せる、多層的な仕掛けが張り巡らされているという事実だ。会場を一周しただけで帰る客もいれば、90分以上かけてすべての謎を回収しようとする客もいる。その振れ幅こそが、このイベントが目指した「じわじわと口コミで広がる」体験設計の成果と言えるだろう。今後の横展開・縦展開については、志満津氏も模索を続けている段階だといい、その行方は改めて追いたい。






















