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出展のリアルを”ゲーム”で体験する――ナインアウトが仕掛けた「THE EXPO presented by Ask One」の狙い
「THE EXPO presented by Ask One」は、なぜ生まれたのか。展示会出展の戦略立案からブース運営、トラブル対応までを疑似体験できるこのシミュレーションゲームは、2026年8月4日にナインアウト株式会社が公開すると、短期間で多くの来訪者を集めた。仕掛けたのは、「顧客の声を機会に変える」というミッションを掲げ、AIインターフェース「Ask One」を提供する同社である。開発の背景には何があったのか。ナインアウト代表取締役の石野真吾氏と、Marketing マネジャーの加藤彩果氏に話を聞いた。
クリエイティブサーベイからナインアウトへ
ナインアウトは2014年、クリエイティブサーベイという社名で創業した。デザイン会社フォーデジットから分社化する形で立ち上がった同社は、アンケートやNPS計測にとどまらず、診断やクイズ、ヒアリングシートなど「顧客の声をさまざまな形で取得できるツール」として事業を広げてきた。
ナインアウト株式会社 代表取締役石野真吾さん
展示会領域で存在感を放つAsk Oneとは
Ask Oneが最初に手がけた課題も、まさに展示会現場にあった。Ask Oneのリリース当時、名刺情報はデータ化できても、対面で交わした会話の内容は後から手作業でヒアリングシートに転記するほかなく、展示会で接点のあったお客様に連絡するまで 手間がかかっていた。名刺とヒアリング情報をセットでCRMやMA に連携できるようにしたことが、Ask Oneの出発点だったという。石野氏自身、過去に 名刺管理ツールとMAを Zapierでつなぐといったデータ連携のフロー整備を手がけた経験があり、当時から数年経っても同様の課題が解決されないままだったという実感が、事業への向き合い方に影響しているようだ。「量より質」を重視する姿勢は一貫しており、名刺を手当たり次第に集めるのではなく、展示会という対面コミュニケーションの価値そのものを大事にしたいという思いを繰り返し語った。
最近では、対面での会話音声をその場で録音し、AIが要約してフォームに自動入力する機能も加わった。非構造化データだった会話内容が構造化データに変換され、CRM・SFA・MAへ連携される。製造業の展示会であれば、iPadを使って手書きの図面データの写真を そのまま取り込んで連携できるほか、学会や製薬会社の展示会では、病院名を数文字入力するだけでサジェストが表示され、選択するだけで病床数などの付随情報が 自動的に表示 される仕組みも作ることができる 。展示会の名刺とヒアリング情報さえ取得できればよいというレベルにとどまらず、顧客ごとの業務に 合わせた顧客体験を作り、それが自社システムとシームレスにつながる点が選ばれる理由になっていると石野氏はみている。
展示会で大きな成果を出している企業ほど、展示会領域においてAsk Oneの導入が進んでいる傾向があるという。 展示会出展の頻度が高いSaaS企業や製造業を中心に3年前から定着が進み、そうした既存ユーザーの評判を聞いた別の出展企業が主催者に相談を持ちかけ、導入の輪が広がっていくというケースも増えているそうだ。 商談が終わった後に「結局何を話していたんだっけ」となってしまう課題を、音声録音とAIによる自動要約という形でようやく解消しはじめている 手応えを語っていた。
主催者システムとの連携、そして自社カンファレンスでの活用
Ask Oneは出展者側だけでなく、主催者側からの連携ニーズにも応えている。展示会主催者が発行するQRコードを読み取れば同じインターフェースで受付が完結する仕組みで、といった各社のシステムとも連携が進んでいるという。従来、主催者が使うシステムと出展者が使うシステムは別々であることが当たり前とされてきたが、その垣根を越えてデータをつなげられる点をAsk Oneは強みとしている。主催者側のシステムにAsk Oneのインターフェースをパーツとして柔軟に組み合わせる、あるいはアドオンとして載せるといった柔軟な連携方法を取ることで、専用のイベント管理システムを新規導入するコストをかけずに済むケースもあるという。 印刷機との連携機能も用意されており、申込登録時にAsk Oneで発行されたQRコードをかざすだけで、対応する複合機・プリンターから受付票をその場で出力できる。また、Ask Oneが主催したカンファレンス「THE REVENUE」の受付やガイドフォーム、スタンプラリーといった一連のインターフェースも、すべて自社サービスで構築したという。展示会だけでなく、自社主催のオフラインカンファレンスやセミナー・ウェビナーのアンケート連携まで、幅広い場面でAsk Oneが使われている実態がうかがえる。 もっとも、Ask Oneは既存のイベント管理システムを置き換えることを目指しているわけではないという。日々展示会やセミナー、ウェビナーで使っているツールがそのままカンファレンス運営にも使えれば、企業側にとってのメリットは大きい。実際、セールスフォースとAsk Oneの組み合わせだけでイベント管理が完結してしまうケースも増えており、新しいサービスをわざわざ追加しなくても済むという観点で選ばれることが多いのだという。近年、主催者側からも「出展者が使っているAsk Oneと連携したい」という相談が寄せられるようになってきたという。デジタルデータをつなぎ合わせる役割としての評価が、出展者だけでなく主催者側からも高まっている様子がうかがえる。
このように事業を拡張してきた背景には、「顧客の声を機会に変える」というミッションのもと「1秒でも早く価値を届ける」という開発体制がある。ナインアウトでは、CTO配下にデザインチームとカスタマーサクセスを置きつつ、いわゆるプロダクトマネジメント専任のメンバーはあえて置いていないという。エンジニア自身が顧客のもとへヒアリングに出向き、課題を定義した上でプロダクトに落とし込む文化を、この3年ほど続けてきた結果だ。毎年全社員で全国の顧客を訪問する機会を設けているほか、機能開発のたびにエンジニアが直接ヒアリングに入ることも当たり前になっているという。。生成AIの進化とともに、AIエージェントとの対話形式でフォームを設計・作成したり、分析を行ったりできる「Headless Form」「Headless Analytics」も提供開始した。インターフェースとしての活用の幅は今後さらに広がっていくとみている。
セガXDとの提携から生まれた「THE EXPO presented by Ask One」
「THE EXPO presented by Ask One」誕生のきっかけは、もともとAsk Oneとは別のブランドで、BtoC企業向けに展開する「Fan Fan Fan」の取り組みにあった。顧客が自ら情報を提供するゼロパーティデータの収集において、海外ではゲーミフィケーションを取り入れたコミュニケーションが広がりつつある一方、国内ではいまだに簡易な診断コンテンツにとどまっているという課題意識があったという。フォーム機能の柔軟性を生かし、「Fan Fan Fan上でゲームを作れるのではないか」という発想から、2026年7月7日にゲーミフィケーションを事業の核に据える株式会社セガ エックスディー(セガXD)とパートナーシップを締結。ゲーム制作のノウハウを持つセガXDとタッグを組み、顧客コミュニケーションの変革を目指す取り組みが始まった。 もっとも、セガXDとの協業自体はBtoC企業向けのFan Fan Fan領域が主軸であり、THE EXPO presented by Ask One は、まずはナインアウト自らが自社事例としてゲーミフィケーションによるマーケティング施策を実証するために企画されたものだという。展示会は担当者が数年単位で入れ替わることが多く、業務の全体像や勘所を体験的に伝えられるコンテンツがあれば面白いのではないか──そうした発想から、ナインアウトのマーケティングを担う加藤氏に白羽の矢が立ち、Ask Oneのプロモーションを目的にしたゲーム制作がスタートした。 ゲームの入り口には名刺を撮影してAsk Oneを体験するステップが組み込まれており、展示会関係者にしか刺さらない一見ニッチなコンテンツでありながら、誰がいつゲームをプレイしたかというデータも取得できるため、マーケティング施策としても十分に機能する設計になっている点がポイントだ。「展示会あるある」を疑似体験する4フェーズ構成

ナインアウト株式会社パートナーアライアンス部GTM groupマネジャーの加藤彩果氏
ゲームの導入部では、出展担当者としての「ミッション」が提示され、急な展示会出展命令を受けて準備に奔走するというストーリー仕立てで進行する。名刺の読み取り機能もゲームの中に組み込まれており、名刺をその場で撮影すると、フォームに情報が自動反映される様子を取材時にも見せてもらった。ブースのサイズや人員配置、ノベルティの選定といった項目に加え、9つ程度の設問を通じて予算配分を検討しながら進めていく設計だ。
取材中も細部に拘りながらもゲームとして成立させるための苦労が垣間見えたが、実際の展示会現場のリアルな空気感を再現しようとした跡がうかがえる。プレイヤーの間ではすでにSNS上で結果を報告し合う動きも見られ、想定以上の反響があったという。
セガXDとの共同制作では、リアルさとゲーム性のバランスに最も時間をかけたという。リアルに寄せすぎれば質問項目が煩雑になり、ニッチになりすぎて伝わらなくなる。逆にゲームに寄せすぎれば、ただの遊びのコンテンツで終わってしまう。言葉の表現や質問数、スコアの見せ方、当日のアクシデントや予算稟議といった要素をどこまで盛り込むかまで細かく擦り合わせながら、数多くの出展実績を持つナインアウト自身の知見も反映してバランスを取ったという。
リード獲得偏重からの脱却を促すメッセージ
石野氏がゲームに込めた狙いは、単なるプロモーションにとどまらない。展示会の出展者に話を聞く中で、自社のやり方をずっと踏襲してきたがゆえに、他社のやり方と比較する機会が乏しいという声を数多く聞いてきたという。出展戦略がスコアという形で可視化されることで、紙ベースの運用を当たり前としてきた担当者に、自社の出展を見直すきっかけを提供したいという狙いがある。 もう一つの軸が、リード獲得数を追うことだけを目的化しがちな展示会運用への問題提起だ。実際には既存顧客が多く訪れる大手製造業の展示会のように、既存顧客への体験価値の提供こそが重要な会社もあり、展示会のゴールは業界や企業によって異なる。それでもゲーム内で商談を軸に据えているのは、各社にとっての展示会の目的を考えるきっかけになればという思いの結果だと石野氏は説明する。展示会は来場者・出展者・主催者の三者が「Win-Win-Win」である場にしていかなければ、業界自体が発展していかないのではないか──石野氏はそう危機感を語る。 展示会の効果測定については、長らくCPL(Cost Per Lead)のような単純な指標に頼らざるを得なかった会社も多いという 。「何百枚でいくらだ」という指標は分かりやすい一方、それだけでは態度変容やロイヤリティの向上といった、本来の展示会が持つ価値を測れない。ナインアウトが掲げる「あらゆる顧客接点で人とデジタルをなめらかに繋ぐAIインターフェース」という理念も、こうした言葉にしにくい価値をどう可視化するかという問題意識に根ざしている。同社は業界の発展に寄与したいとの思いから、一般社団法人日本展示会協会(日展協)にも加盟している。ゲーム実況、業界イベントへの展開も視野に
今後は、ゲームをテーマにしたライブ配信企画のほか、ゲーム実況への挑戦も構想中だという。誌面で紹介した無料の体験用QRコードも用意しており、実際にプレイしてもらいながら業界内での認知を広げたい考えだ。
今回のプロジェクトは、広告費を一切かけず、プレスリリースの発信のみで多くのプレイヤーを集めたことが、ナインアウト自身にとっても大きな学びになったという。ゲーミフィケーションという手法を自ら実践してみたことで、想定以上の即効性を実感したというのが実感のこもった振り返りだった。
AIによる最適化が当たり前になる時代だからこそ、人が心を動かされ思わず一歩を踏み出す瞬間の価値は、これまで以上に高まっていく。──この問題意識のもと、ホワイトペーパーやウェビナーとは異なるアプローチで展示会担当者にリーチしようとする今回の取り組みは、展示会業界そのものが「体験」の場であるという文脈とも重なる。ナインアウトが自ら実践してみせた今回のゲーミフィケーションが、BtoBマーケティングの新たな手法としてどこまで広がりを見せるか、今後の展開に注目したい。
「THE EXPO presented by Ask One」は2026年8月4日に公開された、スマートフォン・PCのWebブラウザで誰でも無料でプレイできるシミュレーションゲームだ。提供はAsk One、制作はFan Fan Fan、ゲーム監修は株式会社セガ エックスディーが担い、いずれもナインアウト株式会社が展開するAIインターフェース事業の一環に位置づけられている。展示会出展の戦略立案から3日間のブース運営、トラブル対応までを一気通貫で体験できる内容は、単なる販促コンテンツの枠を超えて、業界の課題そのものを可視化する試みとしても興味深い。ホワイトペーパーでもウェビナーでもない「遊びながら学ぶ」形式のコンテンツが、展示会・イベント業界のマーケティング手法としてどこまで定着していくかが、今後の展示会の在り方を左右しそうだ。













