連載・となりのサステナ「第1回 環境編・昭栄美術」 気づけばサステナ。効率化の先にあった現場の工夫

連載「となりのサステナ」では、イベント業界で進むサステナビリティの取組みについて、JACEサステナビリティ委員会協力のもと、環境・人権の両面から、各社の具体的な事例を紹介。アプローチの多様さと再現性を読み解くことで、「うちでもやれるかも」のきっかけの一つとなる、そんな視点をお届けする。

連載のはじまりに紹介するのは、株式会社昭栄美術のISO20121認証取得の背景とサステナビリティへの取組みの現在地だ。業界標準規格を、どう自社運用に落とし込んだのか。7月、JACEサステナビリティ委員会による視察ツアーで共有された現場のリアルをもとに、効率化の積み重ねがどのようにサステナビリティにつながっていったのかをみつけたい。

「効率化や収益性を追求し取り組んできたことが、結果的にサステナブルにつながっている」

昭栄美術専務取締役の羽山寛幸さんは、同社の製作拠点「SHOEIベイスタジオ」(千葉県市川市)を視察に訪れたJACEサステナビリティ委員会のメンバーに、サステナビリティへの取組みの軸にあるものを率直にこう語った。その背景にあるのは、自社サービスの強みである顧客視点と、それを支える現場の環境づくりだという。

SHOEIベイスタジオ

株式会社昭栄美術の製作拠点「SHOEIベイスタジオ」。サッカーコート約5面分の敷地に、制作の機能を集約する(写真提供:昭栄美術)

効率化や収益性の追求とサステナブルの取組み

昭栄美術のサステナブルの取組みは、効率化や収益性の追求とともに現在も続いている。その原点や内容を紐解いてみる。

企画から物流まで、ひとつの拠点に

昭栄美術は、展示会やイベントの空間づくりを、営業・デザインから製作、施工、運営までワンストップで手がけるディスプレイ会社だ。2019年に開設したSHOEIベイスタジオは約8200坪の敷地に、木工、サイン・アクリル、映像・音響、レンタル、電気、物流の機能を集約している。CSRの基本理念には、ディスプレイ業を通じた社会への貢献と、社員のしあわせの両立を掲げる。品質・環境面では、ISO9001、ISO20121、FSC® CoC認証を軸に、仕組みとして取組みを回している。

これまで千葉県内に点在していた各拠点を集約し、「SHOEIベイスタジオ」に統合管理を図ることで、さらなる品質向上と効率化を実現した。対外的なメリットとしては、顧客の窓口を一本化したことによる時間とコストを大幅に削減。社内では、営業部と製作現場の距離が縮まり、ダイレクトに意見や要望を伝えられることで円滑で高度なコミュニケーションができるようになった。また、広大なスペースを活用し、イベント本番前にブース等の大規模な仮組や検証を行えることで、施工精度と顧客満足度が向上したという。

ワンストップ化による輸送回数・移動距離の削減

現場での作業時間・工数を削減するため、展示物などを極力ベイスタジオで制作。そのままの状態で現場に搬入させるには、従来の4トントラックでは高さが足りなかったため、イベント業界の標準の高さ 2,700mmに合わせたトラックを自社で開発している。これにより、作業員の数が最小限に抑えられ、作業員の移動によるCO2排出量や、人件費の削減を実現している。

ISO20121を「回し続ける仕組み」に

ISO20121は、2012年、ロンドン夏季オリンピックを契機に発行された「イベントの持続可能性に関するマネジメントシステム(Event Sustainability Management Systems)」の国際規格だ。イベントが環境・社会・経済に与える影響を把握し、継続的に改善していくための枠組みを定めている。

昭栄美術が同規格を取得したのは2020年4月。ただ、その下地はずっと前からあった。2002年に品質マネジメントの国際規格ISO9001をいち早く取得し、KPI管理と改善のサイクルを回し続けてきた。ISO20121の取得後は、部署ごとに数値目標を立てて施策の実現度を計測し、その状況を工場内に掲示。他部署の取組みも参考にしながら改善を重ねている。

羽山さんは2022年の本紙取材で、「話題だからはじめたのでは続かなかったと思う」と振り返っている。コスト削減や働きやすさのために以前から続けてきたことを、継続的に改善するための道具として規格を使う。SDGsという言葉が浸透したことで、取組みの意味は「部材の使い回し」から「顧客のCSRへの貢献」へと広がり、加速したと話す。

「捨てる前にとっておく」から、循環型ディスプレイへ

具体的な取組みは、日々の作業の延長線上にある。木工場では造作で出た端材を素材別・サイズ別に保管して別の造作物に生かし、それでも残ったものは「エコ材広場」に集めて社内で自由に使えるようにしている。大きな設備投資をせずに始められる、地道だが続けやすい仕組みだ。サイン工場では、回収でき、そのまま廃棄せずに済む段ボールパネルを積極的に採用している。

一歩進んだ取組みが、廃材を新たな造形物に再生する「循環型ディスプレイ」だ。木廃材などを粉砕・溶融してペレット化し、横3m×奥行3m×高さ3mまで造形できる大型のペレット式3Dプリンターで出力する。大阪・関西万博では、回収したペットボトルキャップとレストランのテーブル天板を原料に、屋外テラス用のベンチを製作した。一方で、材料として成り立つか、安定して出力できるか、狙った形状に造形できるかという3つの段階でつまずくことがあり、温度や水分量のわずかな違いで失敗する場合もある。発展途上であることも、同社は隠さない。

昭栄美術,循環型ディスプレイ

「JAPAN SHOP 2024」の昭栄美術出展ブースでは、大型のペレット式3Dプリンターや廃材のアップサイクルを活用した「循環型ディスプレイ」による空間デザイン・施工を紹介

外部からの要請が転機になった例もある。2011年の東日本大震災後、東京電力からの節電要請をきっかけに、照明器具のLED化に着手した。当時はパートナーから「高くて投資できない」という声もあったため自社で電気事業をスタートし現在は展示会で使う照明器具約9000灯がすべてLEDに置き換わっている。2022年には、SHOEIベイスタジオの屋上に太陽光発電設備を設置した。年間使用電力量の約3割をまかなう想定で、当初の目的は使用電力量の削減だったが、結果としてCO2排出量の削減にもつながっている。

視点:現場が「自分で考える」文化

視察で参加者が注目したのは、設備そのものより、それを動かす人と組織だった。あるメンバーは、20年以上の付き合いの中で抱いていた「システム部材の施工会社」のイメージが覆されたと話し、効率化を突き詰めた先に今のサステナビリティがあることに驚いたという。また、サステナビリティを入口にせず、効率化や収益拡大を目指した結果としてつながっている点を評価した参加者もいた。その参加者は、現場のリーダーに権限を渡し、何ができるかを自分たちで考えて動いてもらう社風にも着目していた。

実際、同社では入社後に複数の部署を経験させて業務の標準化を図るほか、エア圧を利用した加工設備など、力の弱い人でも扱いやすい機器を導入している。工場案内では、造作管理・品質チェックを担う入社4年目の女性社員が説明役を務めた。木工場の女性社員は以前1〜2名ほどだったが、現在は採用が進んでいるという。さらに、サステナビリティ関連の資格取得を後押しし、2026年現在、エコ検定31名、3R・気候変動検定9名、サステナ経営検定14名が取得している。

実践のヒント:再現性を読み解く

まず「時期」。ISO9001の取得(2002年)からISO20121の取得(2020年)まで約18年。発注状況などを可視化する社内基幹システムも約20年前から整備してきた。認証は突然の挑戦ではなく、長年の改善活動の延長にあった。

次に「工数・コスト感」。端材のストックやエコ材広場は、大型投資なしで始められる。一方、3Dプリンターによる再資源化は設備と試作の積み重ねを要し、廃材を固めてベニヤ材に代わる下地材にする研究では、コスト面の課題も残る。できることから段階的に取り組むのが現実的だ。

そして「成果」。照明約9000灯のLED化を実現したほか、約18万点のレンタル在庫も出荷と返却を繰り返しながら循環している。羽山さんによれば、廃棄より再利用の方が顧客に安価に提供でき、自社の収益向上にもつながるという。

環境だけでなく、人権面でも

昭栄美術では、環境面のほか、人権面での取組みにも力を入れる。SHOEIベイスタジオの外壁いっぱいに飾られた「カラフルモデル懸垂幕プロジェクト」もその一つ。2025年、障がいのある人の社会参加を支援する株式会社華ひらくが世界自閉症啓発デーに合わせて開いた「カラフル写真コンテスト」に、撮影会場としてベイスタジオを提供した。自閉症や発達障害のある子どもたちが“カラフルモデル”として参加し、その笑顔をもとに同社がイラストを制作、懸垂幕に仕立てた。テーマは「純度100%の笑顔」だ。連載では、環境面だけでなく、こうした人権面でのサステナビリティの取組みも紹介する予定だ。

SHOEIベイスタジオの外壁に掲げられた懸垂幕。撮影会での子どもたちの笑顔をもとにイラストを制作した(写真提供:昭栄美術)

となりから持ち帰る:入口は、いつもの本業にある

大きな設備投資や特別なスローガンがなくても、現場の工夫や日々の効率化の積み重ねが、そのままサステナビリティにつながっていく。昭栄美術の歩みは、そう教えてくれる。 「うちでもやれるかも」と思えるヒントは、遠くの理想ではなく、すでにあるいつもの本業のなかにある。あなたの「となり」の現場にも、きっとその種はあるはずだ。

【企業情報・リンク】

株式会社昭栄美術 https://www.shoei-bijutsu.co.jp/

サステナビリティへの取組み https://www.shoei-bijutsu.co.jp/sustainability/

【次回予告】

次回は「環境編」として、株式会社アートフリークの取組みを紹介する予定だ。

【マネできる、となりのサステナ術】

  • 【考え方】サステナを目的にせず、自社がすでに追っている目標(効率化・コスト削減など)とつなげる
  • 【土台づくり】品質管理やKPI管理など、既存の改善活動を取組みの土台に位置づけ直す
  • 【最初の一歩】大きな投資の前に、端材を「捨てる前にとっておく」小さな仕組みから始める
樋口陽子 (MICE 研究所 イベントマーケティング 編集長)

樋口陽子月刊イベントマーケティング編集長

投稿者プロフィール

2003年に展示会の専門出版社に入社。12年編集業務に従事し、展示会ユーザーである出展者の立場に立った専門雑誌などを企画。​ 2015年に株式会社MICE研究所を共同創業。ビジネスイベント、体験型マーケティングを中心に主催者や企画者の声、制作の舞台裏を取材。​ 2016年から体験型マーケティングのカンファレンス「BACKSTAGE」を主催(3社共催)。​ 2020年5月からほぼ毎週、イベント・マーケティング関係者とのトーク形式のライブ配信を続けており、370回以上発信している。

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