「サステナビューティーフェス 2026」に学ぶサステナイベントのつくり方 ―EVENT CARBON SIMULATOR試験運用 第一号の舞台裏―(後編)
- 2026/9/16
- 特集

前編では、EVENT CARBON SIMULATOR(ECS)誕生の背景と、サステナビューティーフェスが掲げた4つのポリシーについて聞いた。後編では、現場での試験運用のリアルと、そこから見えてきた課題・数字、そして来年に向けた展望に迫る。
(Top Photo:Kaoru Yamada)
サステナの取組みの舞台裏
参加者・スタッフ・アーティスト 全員でゴミ・資源の分別に協力
――「SBF」での表には見えないサステナの取組みでの工夫や、出店者との関係性についても教えてください
深本 バックステージ用のお弁当は、コスト的に容器まで環境配慮しきれなかった分、蓋と容器を綺麗に分けて積むことでゴミ袋に入れる量を減らし、廃棄回数・CO2の削減につなげました。生ゴミも堆肥化するため、食べ残しを分別してもらう取り組みをスタッフ・アーティストにも協力してもらっています。
会場内のゴミ計測も特徴的な取り組みです。通常、出店者のゴミは有料引き取りか持ち帰りが一般的ですが、今回はアルミ缶や生ゴミを含め資源循環できるものは回収したいという考えから、あえて「置いていってください」と伝え、レコテック社のシステムで店舗ごとの排出量をデータ化しました。出店者からはリユース食器を導入していたことも重なり、他イベントと比較して圧倒的にゴミが少なかったと喜んでくださいました。バックステージも10種類の分別に協力いただき出店者と同じように計測していただきました。

エコステーションでは、ゴミと資源10種類に分別。アルミ缶入れの前には「空き缶つぶし器」も設置され、参加者自ら資エネの実践体験を積極的に行っていた
永川 「ECS」の運用WGで現場視察をしたのですが、こうした取り組みが徹底できているのは、普段からの深本さんと出店者の関係性によるところが大きいと感じました。深本さんが会場を歩くと、出店者の皆さんが自然と声をかけ、差し入れを渡すような場面をたくさん見ました。「深本さんが言うなら」という信頼関係があるからこそ、ゴミの分別や計測にも義務的ではなく前向きに協力してもらえているのだと思います。
深本 本番勝負のライブ感のあるイベントでは、すべてを予測した綿密な計画と打ち合わせができるわけではありませんので波長が合う方々と組めたことは大きな支えになりました。ESGやTNFDがどうこうという机上の話ではなく、サステナブルな社会を目指し、いっしょに現場で、新しい試みにも前向きに取り組んで実践してくれる仲間がいるかどうかは、数値化できない、もっとも大事なことだと思っています。
ECS試験導入でみえたイベント現場の実際
分散する算出データ 必要なのは情報収集のための運用フロー
――「ECS」運用を実際にしてみて、重量ベースによる高精度な算定は、どれくらい大変でしたか
深本 イベントをつくり上げるステークホルダーは、それぞれ目指すゴールが異なります。音楽チームは素晴らしいステージを提供すること、飲食チームは安全でおいしい食事を届けること。サステナビリティに関する共通認識はまだ十分ではなく、環境負荷を算定する意義も浸透していません。そのため、算定に必要な工程を増やすことも容易ではありません。
今回は可能な範囲で情報を集めました。今後は、より精度の高いデータ収集に向け、既存業務にもう一工程を組み込むための業務設計を考え、関わる皆さんに次世代型フェスのあり方をどう伝え、共通認識を育んでいくかが課題です。
永川 本当は全部計測したかったのですが、私たちがチームとしてジョインした時期の関係もあり、現場でまさに準備に追われているステージ制作会社に「この項目を出してください」とはとても言えるタイミングではありませんでした。今回取りきれなかった情報は今後の課題として残しつつ、逆に「どうすれば無理なく情報を集められる仕組みにできるか」を含めて検討していきたいと考えています。

「ECS」のシステムの選択方法(「ECS資料より」©︎イベント業界標準カーボンカリキュレーター運用ワーキンググル―プ)
――実際にどこまで計測できたのでしょうか
永川 会場の電気使用量やスタッフ・来場者の移動については、深本さん側でアンケートを取っていただいていたので計測できました。スタッフの移動は車の台数などが把握できていたので、そこも算出しています。
計測結果について
経済合理性と コストバランスの難しさ
――計測結果と、そこから見えたポイントを教えてください
永川 来場者由来の移動だけで約53トンのCO2が排出されたという結果になりました。移動手段(ガソリン車、バス、電車、新幹線、飛行機、徒歩・自転車など)ごとの内訳も算出しています。今回は車での来場が多く、車での移動と電車での移動では、同じ距離でも排出量に大きな差が出ます。バス利用への転換など、来年以降の改善余地の一つだと考えています。スタッフの移動分は合計で約10トン、会場の電気使用量は約1.6トン。改めて、移動が最も大きな負荷になっていることが数字として明確になりました。
永川 来場者数は非公表ですが、割合としてガソリン車の利用が多かったことは示せます。今後、公共交通機関の利用を促す施策ができれば、来年以降のイベントで効果が出るはずです。また、主催者側の資材輸送も、集積して1台にまとめることで走行距離を減らせる可能性があります。全体のCO2排出量の総計は開示予定で、オフセットについても現在協議中です。
――今回計測してみて、現場の肌感覚と数字は一致していましたか、それとも乖離がありましたか
深本 河口湖という立地上、車での移動が多くなることは見込んでいたため、ガソリン車によるCO2排出量が全体の約70%を占めたことも想定の範囲内でした。一方で、今回は鉄道やバスとの連携により、環境負荷を少しでも軽減できました。机上の空論にとどめず、経済合理性とサステナビリティの両立、さらに現場で必要となる作業工程や工数を見極めながら、どこまで環境負荷の低いフェスを実現できるのかを実地で検証できたと考えています。
■「SBF」来場者の移動手段別CO2排出量

来場者の移動によるCO2排出量は約53.5トン。ガソリン車が全体の74%を占め最大の排出源に。飛行機は利用者が少ない一方で負荷が大きく、電車は環境負荷が低い
それでも、まず「何が数値化できて何が数値化できないか」を気負わずに試せたのは良かったです。数値という武器を持ったことで、次はそれをどう削減するか、どうお客様の感動や驚きに変えていけるかを楽しみにできるようになりました。今まで定性的だったサステナビリティを定量化していけることに、可能性とワクワクを感じています。
サステナブルイベントの未来
トレーサビリティは人が動かす パーパスモデルでの人材・チームを
――ECS試験運用では、時間管理やコストの面も含めた課題感について教えてください
深本 私の観点からすると、出店者の皆さんとの合同説明会のような、和やかに顔を合わせられる場を大事にしたいと思っています。普段、他のイベントではオンラインで3〜4時間ほどかけて出店者同士が互いを紹介し合う場を必ず設けているのですが、そこから店舗同士のコラボレーションが生まれることもあります。当日会ったときに「あのときの人だ」となれる関係性があると、みんなが同じ目標に向かうファミリーのような感覚になれる。トレーサビリティはシステムが動かすものではなく、結局は人の心が動かすものだと思っているので、次はそうした関係構築の場をもっと実験してみたいです。

永川 同感です。取り組みをコストと感じるかどうかは、結局は会社の考え方次第なところがあります。社会的な背景もあって「お金を払ってでもやらなければ」という動きが出てきていますが、深本さんのように「当たり前だからやる」という空気ができれば、コストと捉えずに取り組んでもらえる部分も増えると思います。クライアント・プロダクション側の双方が「やった方がいい」と思える状態をどう作るかが、まず一番大事だと感じています。
ビジネスモデルは損得勘定で動く部分が大きいですが、今は「パーパスモデル」、つまり目的意識を共有した人たちが同じゴールに向かって汗をかく、という働き方がスタンダードになりつつあります。サステナビリティもまさにそういう領域で、深本さんのようなコアとなる人・チームがいるかどうかが大きいと感じています。

――最後に、ECS試験運用の第一号を経て、見えてきた次のステップを教えてください
永川 できれば早い段階からサプライヤーの皆さんに集まっていただいて、CO2排出量をどう下げられるかを一緒に話し合える場を作りたいです。また、シミュレーターとしては「測る」部分はできてきているのですが、「どう下げるか」の知見はまだまだこれから。今回に限らず色々な現場でご一緒しながら、知見を貯めていけるといいなと思っています。
深本 作る工程から使う工程までのサプライチェーン全体が見える化していく時代は、そう遠くないと思っています。今回のサステナビューティーフェスは、ゼロを1にするスタートに立てたと感じていて、その1というのが皆さんに計測いただいた数字そのものです。この数字を次はどう下げていくか、新たなプレイヤーとの出会いにワクワクしながら期待しています。継続していくためには企業協賛も欠かせないので、私たちの活動に共感し、同じように「楽しいから、はじめよう」というコンセプトでものづくりをしている企業の皆さんに、ぜひ参画いただけたら嬉しいです。

2026年8月4日収録
関連情報
「SUSTAINABLE BEAUTY FES 2026(サステナビューティーフェス 2026)」開催概要
会期:2026年5月23日(土)・24日(日)の2日間
会場:河口湖ステラシアター(山梨県南都留郡富士河口湖町船津5577)
出演アーティスト:全10組
– 5月23日(土):AI、家入レオ、川崎鷹也、Ms.OOJA、LITTLE(KICK THE CAN CREW)
– 5月24日(日):柴咲コウ、ナオト・インティライミ、miwa、MORISAKI WIN(森崎ウィン)、山本彩
フード・物販出店:計14店舗
– FOOD(9店舗):アサヒ ゴールド、PIZZA GTALIA DA FILIPPO、penta CRAFT NATURAL ENERGY、Restaurant SAI 燊、REUNION、UTSUNOMIYA BASE、もったいない食堂、KURKKU FIELDS、SOYSCREAM!!!
– SHOP(5店舗):環境省、HUIS −ハウス−、オフィシャルグッズ、MES VACANCES、浜松市役所
総合プロデューサー:柴咲コウ
サステナブルプロデューサー:深本南(社会起業家)
主催:Les Trois Graces
制作:ALIVE
Official Sponsors:アサヒ ゴールド、株式会社明治
Co-create Partner:龍谷大学
EVENT CARBON SIMULATOR【運用ワーキンググループ所属会社一覧】※五十音順
・株式会社アートフリーク https://artfreak.co.jp/
所在地:東京都中央区日本橋茅場町2丁目12-10 PMOEX日本橋茅場町9F
代表者:代表取締役 駒田 卓也
・株式会社泉宣宏社 https://www.izmi.bz/
所在地:東京都荒川区西日暮里6-22-6
代表者:代表取締役社長 奥 晋太朗
・株式会社ADKクリエイティブ・ワン https://www.adkco.jp/
所在地:東京都港区虎ノ門1丁目23番1号 虎ノ門ヒルズ森タワー
代表者:代表取締役社長 森永 賢治
・株式会社ジールアソシエイツ https://zeal-as.co.jp/
所在地:東京都中央区銀座1丁目19-7 JRE銀座一丁目イーストビル8F
代表者:代表取締役 社長執行役員 永門 大輔
・株式会社JTBコミュニケーションデザイン https://www.jtbcom.co.jp/
所在地:東京都港区芝3-23-1 セレスティン芝三井ビルディング 12階
代表者:代表取締役 社長執行役員 藤原 卓行
・株式会社丹青社 https://www.tanseisha.co.jp/
所在地:東京都港区港南1丁目2番70号 品川シーズンテラス19F
代表者:代表取締役社長 小林 統
・株式会社テー・オー・ダブリュー https://tow.co.jp/
所在地:東京都港区虎ノ門四丁目3番13号 ヒューリック神谷町ビル3F
代表者:代表取締役社長 村津 憲一
・株式会社電通ライブ https://www.dentsulive.co.jp/
所在地:東京都港区東新橋1-8-1電通本社ビル内
代表者:代表取締役社長執行役員 中邨 正人
・株式会社トーガシ https://www.tohgashi.co.jp/
所在地:東京都中央区新富2-14-4 住友新富ビル2F
代表者:代表取締役社長 吉田 守克
・株式会社乃村工藝社 https://www.nomurakougei.co.jp/
所在地:東京都港区台場2丁目3番4号
代表者:代表取締役 社長執行役員 奥本 清孝
・株式会社博報堂プロダクツ https://www.h-products.co.jp/
所在地:東京都江東区豊洲5-6-15 NBF豊洲ガーデンフロント
代表者:代表取締役社長 橋本 昌和
・株式会社フジヤ https://www.fujiya-net.co.jp/
所在地:京都市中京区東堀川通丸太町下ル7-4
代表者:代表取締役社長 永田 智之
・株式会社マッシュ https://www.mash-japan.com/
所在地:大阪市北区豊崎5-6-10 商業ビル7F
代表者:代表取締役 間藤 芳樹
・株式会社ムラヤマ https://www.murayama.co.jp/
所在地:東京都江東区豊洲3-2-24 豊洲フォレシア
代表者:代表取締役社長 八木 元
・株式会社レイ https://ray.co.jp/
所在地:東京都港区六本木6-15-21 ハークス六本木ビル
代表者:代表取締役社長 磯部 陽一
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