効率化が結果的にサステナブルになる ——JACE 昭栄美術 SHOEIベイスタジオ視察
- 2026/9/8
- 特集

日本イベント産業振興協会(JACE)サステナビリティ委員会は、環境・人権の両面から会員各社の方針や取り組みを調査。業界として知見を共有する活動を始め、業界全体でのサステナビリティの機運を高めている。その一環として7月16日、委員会メンバーが千葉県市川市の昭栄美術の「SHOEIベイスタジオ」を視察した。
視察には、視察には、JACE大畑琢さん、黒瀬栄さん、株式会社博展の村松加奈江さん、株式会社アートフリークの小塩俊介さん、株式会社JTBコミュニケーションデザインの石黒陽子さん、株式会社セレスポの越川延明さん、TOPPAN株式会社の松本洋伸さん、株式会社電通の竹嶋理恵さんらが参加した。案内役は株式会社昭栄美術の羽山寛幸専務が務めた。
サッカーコート5面分の拠点に、機能を集約

SHOEIベイスタジオは2019年、千葉県市川市に開設。サッカーコート約5面分にあたる8200坪の敷地に木工からサイン・アクリル、映像・音響、レンタル、電気、物流まで、幅広い機能を集約し、イベント制作をワンストップで担う。そのSDGsへの取り組みは、小学生が見学に訪れるなど、先進的なものとして地域でも知られており、施工会社の日常業務がサステナブルなイベント制作の最前線として学びの対象になっている。
視察はまず正面入り口から始まった。この入り口まわりのオブジェには、実は同社の廃材が使われているという説明があった。大阪の駅にある、日本トイレ大賞を受賞したトイレをモチーフにしたデザインで、廃材をアップサイクルして仕上げたものだという。視察団を迎える最初の一角から、すでに「捨てずに生かす」という発想が体現されていた。
羽山専務は、同社の強みを次のように説明した。「私たちの一番の強みは、ワンストップサービスです。営業、デザインからスタジオでの製作、サイン、電気・照明、音響・映像、レンタルまで、幅広い機能と専門人材を自社内に備えています。これらの部門が連携し、企画から製作、施工、運営まで一貫してサービスを提供できることが、昭栄美術の強みです」。展示会という、限られた設営・撤去期間の中でスピードと品質の両立が求められる業態において、この一貫体制が効率化を促し、結果としてサステナビリティを支える土台にもなっている。
廃材からベンチへ——循環型ディスプレイ

視察中で特に注目を集めたのが、廃材から新たな造形物をつくる「循環型ディスプレイ」だ。工場内の木工造作やイベント設営で発生した木廃材を粉砕機でフレーク状に細かく砕く。次にその材料を押出成形機で熱して溶かし、押し出しながらフィラメント状に成形する。フィラメントはネットコンベヤーで運ばれながら冷却され、ペレタイザーで扱いやすいペレット形状にカットされる。最後にこのペレットを、造形サイズ横3m×奥行3m×高さ3mという超大型のペレット式3Dプリンターに投入し、造形する。展示会ブース1小間ほどの大きさの造形物までつくれるという。
この装置を使った実例はすでに複数ある。大阪・関西万博では、飲料メーカーのペットボトルキャップと、レストランのテーブル天板を回収・粉砕した材料を使い、屋外テラス用のベンチを製作した。強度検証も慎重に行い、想定荷重を大きく上回る重量をかけても破損しないことを確認したうえで採用したという。また、国際的な医療関連展示会のブースには、3Dプリンター製作物として日本で初めて防炎認定を取得した素材を用いた床材を提供した。さらに、飲料メーカーのロゴマークをモチーフにした大型造形物や、材料メーカーの依頼による猫型オブジェの試作、バイオマスプラスチックを使用した3Dプリンター造形物の製作など、企業やブランドとの協業も進んでいる。

もっとも、この技術はまだ発展途上だという説明も率直だった。ペレット化した材料が実際に成形材料として成り立つか、3Dプリンターで安定して出力できるか、そして最終的に狙った形状に造形できるか——という3段階でつまずくことがあり、そのたびにトライアンドエラーを重ねてきたという。造形中に温度や水分量のわずかな違いで発泡してしまい失敗することもあり、材料によっては数時間かけてしっかり乾燥させてから使う必要があるなど、地道な条件出しの積み重ねで今の安定運用にたどり着いている。材料メーカーとの連携も進んでおり、業界向けの専用材料を共同開発するといった取り組みも始まっているという。
このほか、3Dプリンターに使えない廃木材についても、固形燃料化(RPF)して有効活用する取り組みを進めているとの説明があった。ベニヤ材に代わる下地材として、廃材をペレット状に固めて活用する研究も進行中だが、コスト面での課題が残っているとのことだった。

羽山専務は、この一連の取り組みを「廃棄するよりも再利用した方が、お客様へ安価に提供でき、自社の収益向上にもつながる。効率化や収益性を追求して取り組んできたことが、結果的にサステナブルにつながっている」と総括した。
会社として最初から「サステナブルに取り組もう」と旗を振ったわけではなく、廃材をもったいないと感じた現場の発想や、効率化に向けた改善の積み重ねによって、業界内でも珍しい循環の仕組みができあがったという。
サイン・アクリル工場——低臭インクと、QRコードで実現する無人カット
続いて案内されたのは、サイン・アクリル製作を担う工場エリアだ。ここでは同社が保有する加工設備の多さと種類の豊富さが強調された。
まず紹介されたのは大判インクジェット出力機で、記者会見のバックパネルなど印刷物の製作に使われている。同社はこのタイプの機械を6台保有しており、その多くに低臭タイプのインクを採用しているという。飲食店や子ども連れの来場者が多い展示会など、匂いに敏感な方への配慮が必要な現場を想定した仕様で、他社ではあまり見かけない対応だという説明だった。
段ボールパネルの活用も特徴的だ。一般的な施工会社はスチレンボードを使うことが多いが、同社では段ボールパネルを積極的に活用している。理由は「回収ができ、そのまま廃棄せずに済むから」だという。加えて、ロール状の出力機だけでなく、段ボールに直接UVインクを噴射できるフラットベッド型大判機も導入しており、従来の工程を減らし、人手のかかる作業を削減している。
特に印象的だったのが、パネルへのQRコード活用である。製作されたパネルにはすべて右上にQRコードが印字されており、この QRコードを機械が読み取ることで、パネルの形状・サイズを自動認識し、無人でカットする仕組みを実現している。板状のパネルを100枚、150枚と積み上げた状態でも、QRコードひとつひとつを認識しながら異形カットや長方形カットを自動で行えるといい、資材のムダを削減しながら、展示会業界特有の短納期・大量枚数という制約にテクノロジーで応えている現場だった。
アクリル加工については、レーザーカッターによる仕上げが紹介された。レーザーでアクリルを切断すると、切断面(小口)にばらつきが出ず、鏡面仕上げに近い状態で仕上がるのが特徴だという。最近需要が増えている、著名人やアニメキャラクターをモチーフにしたアクリルスタンドのような小物から、大型の造形物まで幅広く対応できる体制を整えている。
木工工場——FSC認証材と、端材を無駄にしない「広場」

工場エリアに入ると、まず案内があったのは製作動線の考え方だ。左側の工場で造作物を製作し、右側で表装・仕上げや出荷準備を行う分業体制となっており、製作部内のプロジェクトマネージャーと工場造作部門が、スタジオ内で連携しながら業務を進めている。
工場内は、板材や建材(割材)などを保管する資材エリアと、造作物を製作するエリアに分けられている。5S活動を基本として、作業しやすいように区画が整理されている。
板材の切断・加工には、従来のパネルソーに加えて、エア圧を利用した最新設備も導入。力の弱い人でも扱いやすく、作業の標準化につながっている。また、万能型の大型加工機では、板材の長さに合わせて歩留まりよくカットできる。特殊な形状の造作物には「NCルーター」と呼ばれる機械を使用し、直線だけでなく、複雑な形状の切り出しにも対応している。
サステナビリティの観点から興味深かったのが、リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の「3R」を基本とした取り組みだ。造作作業で発生した木材の端材を素材別・サイズ別に保管し、別の造作物に無駄なく活用するほか、木工造作物そのものを再利用する取り組みも進めている。それでも残った端材は「エコ材広場」に集め、社内で自由に利用できるようにしている。
大きな設備投資をするのではなく、日々の作業で必ず出てしまう端材を「捨てる前にストックしておく」という、地道だが継続しやすい仕組みだ。
木材の管理体制についても丁寧に説明された。同社は、展示・イベント業界の製作スタジオでは唯一となるFSC® CoC認証を取得し、認証材を適切に管理している。また、ISO9001およびISO20121に基づくマネジメント体制も整備している。FSC認証は、森林破壊や違法伐採を防ぐとともに、森林環境や地域社会、労働者の権利に配慮し、適切に管理された森林から生産・流通した木材であることを確認する仕組みである。
業界の中でここまで管理を徹底している例は他にほとんどないという。

レンタル什器の”軽量化”と、パートナー企業との資材循環
レンタル資材の保管・運用エリアでは、現場での運搬効率を高めるための工夫が随所に見られた。カゴ台車にレンタル資材をまとめて詰めて現場に運ぶことで、トラックの台数そのものを減らす取り組みが進められている。ラックやテーブルは分解・折り畳みができる仕様にすることで積載効率を高め、あわせて現場での取り回しやすさにも配慮しているという。什器の素材も、従来主流だったベニヤ板から、軽くて丈夫な素材へ切り替えを進めている。
展示会などで主に使われるシステム展示台でも改良が進み、従来はアルミの柱・梁とベニヤを使い現場で組み立てていた工程を、展示台の土台を折り畳み式にして、開いて天板を載せるだけのシンプルな形に刷新。工具を使わず接合組立ができる壁面新システムも開発し、組み立て時間の短縮とパートナー企業の作業負担軽減を両立させている。工具を使わずに接合・組み立てができる壁面システムも開発し、組み立て時間の短縮とパートナー企業の作業負担軽減を両立させている。また、物流輸送部門では、展示会の標準的なブースの高さに合わせ、2.7mの造作物を積載できる特装4tウイングトラックを独自に開発している。

人材育成の面では、新人からベテラン社員、パート社員までも含めた従業員が現場を支えており、入社後は特定の部署に固定するのではなく、他部署も経験させる形で業務の標準化・平準化を図っているとの説明もあった。発注状況などを可視化する社内基幹システムは20年ほど前から整備されており、早い段階からデジタル管理に取り組んできたことも、こうした改善を支える土台になっているようだ。
約18万点のレンタル在庫と、震災をきっかけに進んだLED化

レンタル部門が保有する商品は、固有アイテム数で約1800種類、点数にして約18万点にのぼる。SHOEIベイスタジオのほか、佐倉スタジオ、東金スタジオにも在庫を分散配置し、東京ビッグサイトをはじめとする主要会場へのアクセスを考慮した立地で回転率の高いレンタル事業を展開している。
照明設備の歴史も興味深い。同社の電気事業は、消費電力の大きい照明が主流だった時代からスタートしているが、2011年の東日本大震災後、東京電力から節電を求められたことをきっかけに、保有する照明器具の全面的なLED化を進めることになった。当時は「LEDは高くて投資できない」という声もあったというが、結果として現在は投光器 3000灯、アームスポット 2700灯、FL 2000本の他、ダウンライトなども含めると展示会で使用する照明器具約9000灯がすべてLEDに置き換わっているという。消費電力を抑えながら、多様な現場ニーズに対応できる体制を築いてきた形だ。
映像機器についても、業務用モニターを約500台保有している。よくブースで見かける43インチから50インチ程度のサイズが中心だが、家庭用テレビとは異なり、24時間つけっぱなしでも問題のない耐久試験をクリアした業務用製品が使われているという。棚にはどのメーカーのどの機材か、サイズはいくつかが一目でわかるよう写真付きのラベルが貼られ、ケーブル類も長さごとに色分けして巻かれている。現場で接続に迷わないための工夫であると同時に、機材を長く・正しく使い続けるための管理の仕組みでもある。倉庫内の温湿度管理にも気を配っており、海辺に近い立地特有の潮風による錆の発生を防ぐため、季節に応じてエアコンで調整しているとの説明もあった。映像機材は展示会のたびに出荷と返却を繰り返すため、在庫の総数自体はほとんど減らないというのも印象的な話だった。出ていくトラックと戻ってくるトラックの積載量がほぼ同じになる、という説明は、レンタル事業ならではの循環の姿を端的に示していた。管理を担うのは社員だけでなく、現場に入る協力会社のスタッフも含まれており、倉庫でも点検作業を行うことで、誰が対応しても同じ品質を保てる体制を築いているという。
女性の採用も進む、ものづくりの現場
工場案内では、造作管理・品質チェックを担当する入社4年目の女性社員が案内役を務める場面もあった。以前は木工場で働く女性社員が1~2名ほどだったが、現在は採用も進み、働きやすい環境づくりに取り組んでいるという。
同社は社員のサステナビリティに関する学びも後押ししており、エコ検定や3R・気候変動検定、サステナ経営検定といった資格取得を推進・サポートしている。環境問題やサステナブル経営についての基礎知識を、現場の一人ひとりが身につけられるようにする狙いがあるという。
「サステナブルの認識が変わった」——視察後の声

視察後の感想では、参加した会員各社から率直な驚きの声が上がった。博展の村松加奈江さんは「色々な職種を全て自社でやりきられている。レンタルやシステム部材の分野でも、普段そこに携わっていないと思いつかないような工夫が尽くされていて、それがサステナブルであると同時に、働く人の負担を減らす改善にもつながっていると感じた」と話した。JTBコミュニケーションデザインから参加した石黒陽子さんは、施工会社だからこそ実現できる開発が印象的だったとし、現場の課題を迅速に解決するための製品開発や、労力削減につながる工夫を評価した。ほかにも、自分たちの業態やスタッフの負担、コストのいずれにも無理のない範囲で取り組みを続けていることこそが、結果としてサステナブルであり続けられている理由ではないか、という声もあった。
JACE事務局の黒瀬栄さんは、20年以上の付き合いの中で抱いていたイメージが今回の視察で覆されたと明かす。「以前はどちらかというとシステム部材の施工会社というイメージが強かった。木工からスタートして、効率を考えながらいろいろな業態を取り込んで今の姿になっている、というのを知って本当に驚いた。しかも、その効率化を突き詰めた結果が、今のサステナビリティの取り組みにつながっている」。
電通の竹嶋理恵さんはまず「サステナビリティを入口にするのではなく、あくまでも効率化や収益拡大を目指して結果としてサステナビリティにつながっているというところが素晴らしい」と述べ、現場まで目的が浸透し徹底されている点を高く評価した。スタジオ見学という形で外部に取り組みを公開していることが、現場担当者のプレゼンテーション力や社員の誇り・モチベーションにもつながっているのではないかとも指摘し、こうした創意工夫や努力はもっと発注する側の企業に知ってもらうべきであり、メディア等を通じて積極的に発信していくべきだと訴えた。また、現場のリーダーに権限を渡し、効率化や収益拡大のために何ができるかを自分たちで考えて行動してもらっている点を社としてのカルチャーだと評し、主婦のパート従業員を含め女性の従業員が多く、仕事内容がわかりやすく整理されていることも従業員教育の面で見習うべき点が多いと語った。「このような取り組みはイベント制作各社にとって非常にいいお手本になるとともに、イベントそのものの価値をサステナビリティ視点も含めて向上させるものにつながる」と締めくくった。
委員会の今後——「発信すべき事例」として
JACEサステナビリティ委員会は今回の視察と並行して、環境面・人権面それぞれについて会員各社の取り組みを一覧化し、「対外的なインパクト」と「他社が参考にしやすいか(再現性・横展開の可能性)」という観点から、業界として発信すべき事例の選定を進めている。昭栄美術についてはISO20121認証の取得や実績公開に加え、健康経営方針や社内での事例共有といった人権・人材面の取り組みも挙げられている。
今回の視察で見えてきたのは、廃材の活用、什器の軽量化、LED化、QRコードによる自動化、資格取得支援など、規模も分野も異なる無数の改善が積み重なって「サステナビリティ」という言葉に結実している姿だった。「効率化や収益性向上のための工夫が、結果としてサステナブルにつながる」という同社の姿勢は、コスト意識の高い展示施工業界において再現性の高いモデルとして、今後の委員会での議論にも生かされることになりそうだ。
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