
「AP赤坂グリーンクロス」内覧会レポート(2)では、AP赤坂グリーンクロスを運営するTCフォーラムの最上直生さんと、サステナブルイベント協議会を代表して電通ライブの大高良和さんに、イベントにおけるサステナブル実装のあり方について語っていただいた。(2025年7月16日収録*所属・肩書、内容は取材当時のもの、聞き手:編集部樋口陽子)

大高 良和さん
株式会社 電通ライブ
第1ビジネスクリエイションユニット ユニット長補
(役職は取材当時)

最上直生 さん
株式会社TCフォーラム
コミュニケーションデザイン部
ブランディングディレクター
「なぜ選ぶか」に答えられる会場へ
――APイノゲート大阪は「サステナブルな空間」をコンセプトに掲げています。その背景にあった課題意識から聞かせてください
最上 コロナ禍を経て、会場に求められる条件が大きく変わりました。以前は「駅から近い」「面積がある」「価格が安い」が三大条件でしたが、コロナ禍後、わざわざリアルで集まることを選ぶ人たちは、それ以上のものを求めています。「なぜこの会場を選んだのか」という問いに答えられる会場にしなければ選ばれない ——それがブランドディレクターとして社内に訴え続けてきたことです。
2024 年 9 月にオープンした AP イノゲート大阪の場合は「クリエイティブな空間でユニークな発想を」をテーマにコンセプト設計をしました。今回、AP 赤坂グリーンクロスでは
「サステナブルに配慮したインテリアと心地良さ」をコンセプトに据えました。お客様から「ペットボトルではなくボトル缶は使えますか」「サステナビリティにどう取り組んでいま
すか」と聞かれる場面が増えており、サステナブルへの配慮が会場選びの基準として徐々に浸透してきているという実感があったからです。
――AP赤坂グリーンクロスのオープニング内覧会ではサステナブルに配慮した施設で、サステナブルイベント協議会によるセッション・ワークショップが展開されたのは印象的でした
最上 AP赤坂グリーンクロスの「サステナブルで心地よい空間」というコンセプトを、来場者が自然と感じ取り、会話のきっかけになるような内装デザインにしています。例えば、余剰となったトナカイの餌を再活用した「ノルディックモス」をエントランスに採用するなど、ストーリー性のある素材選びをしています。


AP赤坂グリーンクロスのエントランス。サステナブルな素材「ノルディックモス」も採用されている
施設担当者が説明しやすく、サステナビリティ(以下サステナ)を軸に対話が生まれるように工夫しています。 サステナブルイベント協議会さん(以下協議会)によるトークセッションやワークショップもコンセプトを体感いただく好機となりました。

AP赤坂グリーンクロスのオープニング内覧会で行われたサステナブルイベント協議会によるワークショップ
大高 第一に感じたのは、ビジネスエリアからの行きやすさ、駅直結のアクセスの良さでした。サステナイベントを実施する際、要となるのが会場選択です。というのも、人の移動は環境負荷の大きな要因となっていて、電車でのアクセスが良い点は提案のしやすいポイントです。
また、それ以上に印象的だったのは、空間のデザインです。オランダやスウェーデンのような洗練されたデザイン性と、控えめながら意図を感じさせる演出との両立も、日本のサステナブルデザインにおいて重要だと感じました。
最上 それが伝わってうれしいです(笑)。「聞かれたらこうですよ」くらいがちょうどいい。デザインとして美しいから選んで、実はサステナブルでもある——その順番が大事だと思っています。
大髙 スウェーデンでは国民が子どもの頃からサステナビリティを自然と実践しているので、特別意識もしていませんでした。日本はこれから意識を醸成していく段階にある。だからこそ「サステナブルだけどダサい」ではなく、「かっこいいでしょ、実はサステナブルなんです」という提案の仕方が有効で、この会場はまさにその体現例になっていると感じます。
「競合同士が仲良くなる」 サステナビリティが生む特別な力学
――オープニング内覧会ではワークショップだけでなく、講演でイベント業界全体での協業の重要性についてお話しいただきました。協議会の設立経緯についても教えていただけますか
大高 協議会は2023年に5社で集まったのがはじまりです。それまでは各社バラバラにサステナブルな取り組みをしていましたが、1社では限界があって、集まってみようとなったのですが、各社が競合関係にあり、最初はなかなか本音が出なかった。「アイデアがあれば自社でやればいい」という様子見の雰囲気も正直ありました。
そこで一度ビジネスの話は脇に置いて、「まずは業界全体でサステナの裾野を広げ、その後に競争を」と共通認識を持てたことで、一気に連帯感が高まりました。

AP赤坂グリーンクロスのオープニング内覧会では、サステナブルイベント協議会5社による講演「人の心を動かし実現するサステナブルなイベントの未来」も行われた
最上 「サステナブル」という言葉には、競合関係を超えて人を動かす不思議な力があるんですね。
大髙 そうなんです。「サステナブルだからみんなでやろう」と言うと、普段ではあり得ない組合せで連携できますし、会社の上層部も協力してくれます。ビジネスの論理とは違うベクトルで、人が動く印象がありますね。
現在は12社共同でカーボンカリキュレーターの業界標準化を進めています。カーボンカリキュレーターについては、各社が個別にツールを作ると同じイベントでも計算結果が2倍近く違ってくるケースもあるというのが課題でした。スタートラインを統一し、その上でのCO2排出量の可視化と削減に向けた競争をしていこうというのが現在のフェーズです。
最上 イベントごとにサステナへの対応策を表明して、選ばれるイベントとして主催者の皆さんも模索しているんですね。会場も、“あり方”を明確にしなければ選ばれない時代です。会場ならではの視点で提案を行い、イベント企画に対してもサステナへの取組みなど、ソリューションを提供していくことが求められていると感じています。
会場ができることとは
――会場側とイベント会社のコラボについて、今後どんな形が考えられますか
大髙 例えば、先ほどお話ししたカーボンカリキュレーターが完成した際には、AP赤坂グリーンクロスさんに最初に採用していただきたいと思っています。「この会場で実施されるイベントはすべて業界標準のカリキュレーターでCO2を計測する」というレギュレーションを会場側が立てることで、普及のスピードが一気に変わります。イベント業界で決めたルールを試し、広げる場は会場なんです。ツールを作るのはわれわれでも、広げるには会場さんの力が不可欠です。
最上 スペースを持っているからこそイベントを実施される皆さんに言えることがあると思っています。会場側が「ただ貸す」だけでは行き詰まります。実施されるイベントコンテンツに対しても意見や提案のできる立場として協業できたら、という思いがあります。また、運営側と会場側の距離が縮まっていないと、やりたいイベントの実現が遠回りになる。会場側も、主催者や運営会社の方に歩み寄れる知識を持たなければいけないと感じています。
大高 電通ライブではVENUE LINK(べニューリンク)という会場検索サイトを運用していまして、今後イベント関係会社さん同士のコミュニケーションの場、まさに今回のテーマであるコラボの強みを活かすコンテンツも計画中ですので、サステナに配慮した会場づくりを行っているAP赤坂グリーンクロスさんとも一緒に考えていきたいです。
最上 主催者との距離を縮め、歩み寄る姿勢や対話の場づくりが、これからの会場運営には求められますね。
「サステナブルラボ」構想——会場が実証実験の場になる
――AP赤坂グリーンクロスという新拠点に、今後期待することを聞かせてください
大髙 イベントは実証実験がしやすい場です。CO2を吸収する塗料を壁に試してみる、サステナブルな飲料を提供して反応を見る——そういったトライアルを継続的に行える場として、サステナをコンセプトにしているAP赤坂グリーンクロスのポテンシャルは非常に高い。一過性のイベントで終わらず、会場と一緒に長期間続けられるのが強みです。スタートアップ企業がここで実証実験できるような仕組みや「サステナブルラボ」として位置付けるのも面白いと思います。
最上 実証実験できる場所、「サステナブルラボ」というのは、いいアイデアですね。エントランスや共用部の一角を、一定期間サステナブルな製品を試せる展示・体験スペースとして活用する。会議のついでに立ち寄れる、帰り際に話題になるような場所にしたいです。会議室は印象に残りにくいですが、「行くたびに何か実験している」という特徴があれば、それ自体がコンテンツになります。
大髙 定期的にエントランスだけ見に来たくなるような場所、いいですね。会場がサステナビリティのハブになっていく——それがイベント業界全体に波及することを期待しています。
最上 以前、APイノゲート大阪のロビーにアーティストの作品を置いたところ、研修で何日か滞在されていた社長がその作品を気に入り、別荘に置きたいとおっしゃったというような前例もありました。会議目的で来た人が予期せぬ出会いをする——その偶発性こそ、スペースが持てる最大の価値だと思っています。
サステナビリティというテーマで、同じような出会いが生まれる場を作っていきたいですね。

株式会社TCフォーラム最上直生さん(写真左)と株式会社 電通ライブの大高良和さん(「AP赤坂グリーンクロス」エントランス前にて)
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