230項目をどう「自分ごと化」する? ジールアソシエイツに学ぶ、現場発サステナブルチェックリストの作り方(1)

SDGsやサステナビリティへの取り組みが企業に求められるなか、「何から始めればいいかわからない」と悩む企業は少なくない。

一般社団法人日本イベント産業振興協会(以下、JACE)サステナビリティ委員会では、イベント業界のサステナビリティ推進を目的に、「イベント・MICE関係者のための使いやすいサステナビリティガイドブック」(以下、ガイドブック)と「サステナブルイベント・MICEチェックリスト」(以下、チェックリスト)の活用を提唱している。

ガイドブック・チェックリストは、2025年大阪・関西万博を機に、JACEを含む業界6団体(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会、一般社団法人日本イベント産業振興協会、一般社団法人日本コンベンション協会、一般社団法人日本ディスプレイ業団体連合会、一般社団法人日本展示会協会、公益財団法人大阪観光局)によって制作され、2024年9月に発表された。

大阪・関西万博以降、各種イベントでの活用を推進しているが、実際、230項目という網羅的な内容は心強い反面、項目の多さに「どこから手をつければよいかわからない」という声も委員会には届いていたという。

今回、JACE会員企業であり同委員会にも参加する株式会社ジールアソシエイツ(以下、ジールアソシエイツ)では、このチェックリストを自社用にカスタマイズし、実際の企画業務にどう落とし込むかを検証する取り組みが行われた。7月30日、模擬企画会議とJACEサステナビリティ委員会メンバーとの意見交換会の2部構成で実施された取組みをレポートする。

1. プロジェクトの目的――「自社らしいサステナビリティ」を見つける

ジールアソシエイツがこのプロジェクトに着手した目的は、230項目という膨大な選択肢の中から「自社らしいサステナビリティの定義」を見つけることにある。

– サステナビリティを実際のイベント企画にどう落とし込むかを明確にする

– 取り組みを自社のパーパス「楽しいを創る」と連携させる

– 最終的に「自社独自のサステナビリティ行動指針」を確立する

単なるチェックリストとしてではなく、企画立案時に活用できる社内プランニング・ツールとして位置づけ、自社の企画力向上と提案力の強化につなげることを目指している。

取締役専務執行役員の照井秀浩さんは、当初チェックリストの用意を求められた際の率直な反応をこう振り返る。

「正直『えっ』と思いました。ただ、当社のサステナブル関連のコンサルタントに相談したところ、前向きなアドバイスをもらえて、まずは弊社なりに最低限のことからやっていこう、というトライアルになりました」(照井さん)

サステナブルチェックリスト活用プロジェクトについて経緯を説明するジールアソシエイツ取締役専務執行役員の照井秀浩さん

サステナブルチェックリスト活用プロジェクトについて経緯を説明するジールアソシエイツ取締役専務執行役員の照井秀浩さん

2. 部門横断・幅広い年代のプロジェクトメンバーで構成

全社的な取り組みにするため、営業、マーケティング、クリエーティブ、プロダクトの各部門から、20代〜60代という幅広い年代のメンバー5名が選出された。ベースになったのは、同社が日頃から開催している社内勉強会だという。

「今回選ばれたのは、弊社で社内勉強会の企画、運営をやっているメンバーがほとんどなのです。社内勉強会の内容は企画の作り方から部材のことまでさまざま。そのメンバーに『このチェックリスト、使えるかな』と話をしたところ、僕と同じような印象を持っていて。じゃあ、このリストを自分たちらしくしてみよう、というところから始まりました」(照井さん)

■ジールアソシエイツのプロジェクトメンバー

– 照井 秀浩さん(取締役 専務執行役員)

– 福島 美月さん(営業統括本部/新規顧客メイン)

– 難波 大叶さん(マーケティング局/ブランディング担当)

– 佐藤 昌栄さん(クリエーティブ局/一級建築士、内装・店舗設計担当)

– 知念 太郎さん(プロダクト局/安全管理委員)

「自社らしいサステナビリティ」をみつける51プロジェクトのメンバー。(写真左から)難波さん、福島さん、知念さん、照井さん、佐藤さん

「自社らしいサステナビリティ」をみつけるプロジェクトのメンバー。(写真左から)難波さん、福島さん、知念さん、照井さん、佐藤さん

3. 230項目からの厳選! チェックリスト作成プロセス

230項目をそのままイベントの現場で使おうとすると、「圧倒的な量」が心理的なハードルとなる。そこでメンバーは、リストを「やらなければならない強制項目」ではなく「ビュッフェ形式のように選べるもの」として捉え直し、以下のステップで項目を絞り込んだ。

ステップ1:コンサルタントの助言を採用

知念さんは、絞り込みのきっかけになった一言をこう明かす。

「最初は項目が多く、正直しんどいな、と思いました。でも実は、当社のコンサルタントが、チェックリストを作成する際のプロジェクトメンバーの一人でもあって、『これはどんな会社でも、どんな部分でも使えるように網羅的に作られているのです。全部やる必要はないのですよ』という一言で救われました。私も古い人間なので、ISOのような認証制度を想像していたのです。初年度は30項目、次年度は50項目とコンサルが入って監査され、段々ステップアップしていく……そういうもののために作られたのかと最初は身構えていました」(知念さん)

ステップ2: 独自のポイント制で評価

全ての項目ひとつひとつを、自社のパーパス「楽しいを創る」への適合度と重要度という2つの軸でメンバー各自が点数化。当初は5段階での評価も検討したが、最終的には運用しやすい3段階に落ち着いたという。

「最初はちょっと『自社らしさ』をパーパスに照らし合わせて考えていたのですが、それでも230項目からの絞り込みはなかなか難しくて。議論する中で、うちの武器である『企画』にフォーカスを当てると、サステナビリティを武器として使えるという方向で絞り込んでいけるという感覚がありました」(難波さん)

営業の立場から日々多くの案件・クライアントに接する福島さんは、判断基準をこう説明する。

「いろんなお客様とやり取りしているからこそ、自分が話している中で感じた『らしさ』とか、いろんな案件を見ているなかでの『らしさ』みたいなものを考えながら選んでいます」(福島さん)

クリエーティブ局の佐藤さんは、自社の業務範囲に照らして現実的な絞り込みを優先したという。

「うちの会社の守備範囲を考え、イベントの仕事であまり担当しない領域は、割と遠慮なく外してしまって、まずは量を減らして身の丈に合ったものにすることを優先して選びました」(佐藤さん)

ステップ3 現場で使える項目数に絞り込み

点数化の結果、上位の項目には自然と高得点が集まった。照井さんと知念さんは、その絞り込みの決め手をこう振り返る。

「5人でつけた点数の合計が、高い項目では14点でした。その14点というラインが結構多くて、逆に13点、12点はそれほど多くなかった。それで、似たような項目は統合しつつ、『これは14点に届かなかったけれど、やっぱり入れるべきだよね』というものは格上げしていって、最終的に50項目くらいがちょうどいいだろう、という形になりました」(照井さん)

230項目から自社らしさの適合度と取組みとしての重要度の2軸で50項目まで絞り込まれたチェックリスト

230項目から自社らしさの適合度と取組みとしての重要度の2軸で50項目まで絞り込まれたチェックリスト

知念さんは、この過程で個人的に強く推した項目についても明かしている。

「実は私はJACEの別の活動で、イベントカーボンシミュレーター(ECS)の運用ワーキンググループに参加していまして、削減目標を掲げるところまではうちではまだ難しいと思うのですが、『測ってみる』ことだけは入れさせていただきました」(知念さん)

最終的に「継続して取り組みやすい30〜50項目程度」を妥当なラインとし、自社のリソースや案件の実績に応じて今後も柔軟に見直していく方針だという。

絞り込みの過程で見えてきたのは、世代による意識の違いだった。

「50項目を見ていて面白かったのが、DE&Iに関する項目が非常に多かったこと。年配のメンバーは『まだ先の話なんじゃないか』という反応もありましたが、若手は『もっとやるべきだ』とチェックした点数がかなり高かった。若い世代の方が、この領域への感度が高いのかもしれません」(照井さん)
*注:DE&I  Diversity、Equity、Inclusion。さまざまな人がイベントに参画できて、楽しむための取り組み

知念さんも、その世代間ギャップを認めつつ、選定プロセス自体の意義を強調する。

「うちは大規模な生産設備を持つ会社ではないので、正直、資源循環系の項目はあまり選べていないのです。一方、営業もいればクリエーティブもいる、年代もばらけているメンバーで平均を取りながら選んできたので、変な偏りのない選び方に落ち着いたのではないかと思います」(知念さん)

4. チェックリストを企画にどう活かす?――模擬企画会議で検証

完成した50項目のチェックリストは、実際の現場でどう機能するのか。メンバー5名が架空の案件をもとに検証する模擬企画会議を実施した。

模擬企画会議では活発な意見交換が行われた

模擬企画会議では活発な意見交換が行われた

【サンプル案件】

ABC市政府観光局主催『ABC市・魅力発見フェア2026』(仮題)

– イベント概要:カジノを含むIR施設がある「ABC市(海外都市)」の、カジノ以外の多様な魅力(歴史・食文化・安全な観光環境など)を伝える観光PRイベント

– ターゲット・会場:秋葉原のオタク文化に関心のある層をターゲットに、同エリアのイベントスペース(約900㎡)で実施

– 企画の中心課題:ABC市の魅力を体感できる「体験型コンテンツや展示」の考案

– 構成要素:メインステージ、体験型コンテンツ(展示・フォトスポット等)、関連団体の出展ブース(9コーナー)、キッチンカー等の飲食コーナー

この案件に対し、各メンバーがチェックリストと照らし合わせて事前にチェックを済ませた上で、当日はディスカッション形式でアイデアを出し合った。

✔︎サステナビリティを「企画の切り口」に

まず出てきたのは、サステナビリティを制約ではなく企画の武器として使うという発想だ。

「ABC市について調べてみたら、カジノ以外にも、国としてサステナブルな活動をしていたり、食の分野でも取り組みが進んでいたりすることがわかりました。こうした意外な一面を訴求すれば、安全や信頼のイメージにもつながりますし、サステナビリティを強みとして打ち出せるのではないかと思いました」(難波さん)

福島さんは、ターゲットであるオタク文化層の感性を踏まえ、あえて振り切った見せ方を提案した。

「普段はあまり意識しないようなことを、あえて『サステナブルすぎるABC市』というくらいの見せ方で展示として提供することで、共感を呼べるのではないかと思いました」(福島さん)

知念さんは、クライアントである政府観光局側の視点から補足する。

「自国では当たり前だと思っていることが、実は海外の人にとっては魅力的なPRポイントになる、というのはよくある話です。ABC市はIR都市として、サステナビリティの整備や目標設定も進めているのですが、日本人はそのことをほとんど知らない。そこにギャップがあります」(知念さん)

このやりとりを受け、難波さんはギャップの伝え方について次のようにまとめた。

「実はABC市はサステナビリティを推進していて、このイベントでもごみの削減などに取り組んでいる――そうしたギャップを来場者に伝えることが、魅力訴求にもクライアントの説得材料にもなると思います」(難波さん)

✔︎多様性(DE&I)への配慮

チェックリストの絞り込み段階でも項目数が多かったDE&Iは、企画の随所で議論の中心となった。

「日本で働く外国人も増えていますし、宗教的な価値観もさまざまです。ターゲットを日本人だけに絞りすぎないようにしたい」(福島さん)

照井さんも、バリアフリーの視点が50項目の中で大きな比重を占めていたことに触れ、「誰もが会場を使いやすくする」という観点を全体設計に組み込む方針を確認した。多言語対応についても、照井さんから実務的な提案が出た。

「日本語・英語・韓国語・中国語(北京語・広東語)……と表記を増やしていくと、あっという間にサインが煩雑になってしまいます。だからこそピクトグラムで対応する、という考え方が大事だと思います」(照井さん)

✔︎資源の有効活用とコスト削減の両立

クリエーティブ局で内装・店舗設計を手がける佐藤さんと、プロダクト局の知念さんからは、施工面での具体的なアイデアが相次いだ。

「エコやリサイクルだけを突き詰めれば、装飾を全部やめてシンプルな仕様にすればいい、という話にもなりかねません。でもそれでは、デザイナーの表現の自由を奪ってしまう。そこで注目したのが、クロスを貼らずに面材へ直接塗装する、中国の施工会社で見られる手法です。色も自由に選べますし、パネル自体を各都市の会場で使い回す“リユース”がしやすくなります。例えば秋葉原でやったものを博多でも使う、という形です」(知念さん)

佐藤さんは、設計段階からの木材活用と分解・再利用を前提とした什器設計の重要性を語る。

「木工を多く使う方針にできれば、デザインの自由度は高まるが、資材の廃棄につながりやすい。イベントって、最後にせっかく作った造作や什器を壊してしまうことが多いんです。すごくもったいないと感じていて。そこで、最初から分解や再利用を前提とした設計を組み込んでいきたいと思っています」(佐藤さん)

照井さんも自身の経験から、既存什器のリース活用に言及した。

「グリッドシステムやトラスといった、われわれがよく使う仕組みはリースできるものも多い。うまく活用していくのも一つのアイデアだと思います」(照井さん)

✔︎AIを活用した多言語での安全管理

安全管理委員でもある知念さんからは、海外の施工会社が現場に入る前提での安全対策について提案があった。

「出店ブースが9つあると、おそらく施工は海外の業者さんが担当することになります。感覚も日本の職人さんとは違いますから、送り出し教育が重要になる。安全管理シートは今のところ日本語版しかありませんが、今はAIを使えば中国語でも韓国語でも簡単に翻訳できます。事前にクライアント経由で出店者に渡して遵守してもらう、というところまでやっておくことも重要ですよね」(知念さん)

模擬企画会議では、サンプルのイベントに対して具体的な企画アイデアが話された

模擬企画会議では、サンプルのイベントに対して具体的な企画アイデアが話された

リストの運用ルール――「まず自由に企画し、後から照らし合わせる」

一連のディスカッションを経て、佐藤さんはチェックリストの実務的な運用方法についても提言した。模擬企画会議では実際に「先にリストを見てから企画を考える」やり方も試したが、うまくいかなかったという。

「今回、先にこれを見て、一度頭に入れてから企画を作っていくというやり方でやってみたんですけど、慣れていないせいか、なかなかスムーズにいかなかったんです。一度これを忘れて、まず普通にいつも通り企画を作って、それに対してこれがどう当てはまるかを後付けしていく方が、しっかりしたサステナブルな提案になるのじゃないかと感じました」(佐藤さん)

知念さんも、デザイナーである佐藤さんならではの視点として、この気づきに同意する。

「50項目に絞ったとしても、先にチェックリストありきで企画を考えると、縛られている感じが強くなってしまうようです。クリエイターである佐藤の実感は、まさにそこだと思います」(知念さん)

「最初からリストに縛られて企画を考えるのではなく、まずは自由に企画をつくり、その後にリストと照らし合わせて修正・改善していく――そういう流れの方が、効果的に活用できると思います」(佐藤さん)

5. 今後の展望――現場からボトムアップで作る行動指針

ジールアソシエイツでは、サステナビリティに関する基本方針を定め、すでにさまざまな取り組みを進めている。今後は、これまでの取り組みをさらに深化させ、より実効性のある、自社らしいサステナビリティのあり方へと高めていきたいと考えている。照井さんは、その進め方について次のように語る。

「大切にしているのは、トップダウンで押し付けるのではなく、現場からつくっていくという考え方です。まずはサステナビリティを分かりやすく知るためのカードゲームのような、誰もが参加・実践できる身近な活動から始めて、そこで得られた体験や気づきを一つひとつ積み重ねていく。それらを今の方針や行動指針に反映しながら、より実践的で自社らしいものへと磨き上げていきたいと考えています」(照井さん)

もう一つ照井さんが繰り返し口にしたのは、230項目という「量」の多さが先に伝わってしまうことへの危機感だ。

「本当にビュッフェ形式で選べます、と発表してはいたのですが、それを受け取った側はどうしても『量』に圧倒されてしまう。面倒くさいという印象が先に立ってしまう。そこをどう払拭していくかが、今回のような取り組みを広げていく上でのポイントになるのだろうと感じました」(照井さん)


次のページでは、模擬企画会議を視察したJACEサステナビリティ委員会メンバーによる意見交換会のようすを紹介する。

>>230項目をどう「自分ごと化」する?ジールアソシエイツに学ぶ、現場発サステナブルチェックリストの作り方(2)へ

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樋口陽子 (MICE 研究所 イベントマーケティング 編集長)

樋口陽子月刊イベントマーケティング編集長

投稿者プロフィール

2003年に展示会の専門出版社に入社。12年編集業務に従事し、展示会ユーザーである出展者の立場に立った専門雑誌などを企画。​ 2015年に株式会社MICE研究所を共同創業。ビジネスイベント、体験型マーケティングを中心に主催者や企画者の声、制作の舞台裏を取材。​ 2016年から体験型マーケティングのカンファレンス「BACKSTAGE」を主催(3社共催)。​ 2020年5月からほぼ毎週、イベント・マーケティング関係者とのトーク形式のライブ配信を続けており、260回以上発信している。

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