「つくる・つなぐ・うける」を横断する場へ——Inter BEE 2026が映す、放送・映像技術とイベント現場の新しい接点
- 2026/10/30
- Interview

11月18日(水)から20日(金)までの3日間、幕張メッセで「Inter BEE 2026」が開催される。62回目を迎える同展は、テレビ局向けの放送機器展を源流としながら、近年はソフトウェアやクラウドを活用したソリューション、体験型の企画へと領域を広げてきた。コロナ禍以降、動画配信は企業や個人にとっても身近なものとなり、イベント制作会社や企業の配信・プロモーション担当者が会場を訪れる理由も増えている。放送・映像のプロの技術は、イベントの「うける(体験)」の現場にどう降りてくるのか。
主催の一般社団法人電子情報技術産業協会の吉田俊さん(ブランドコミュニケーション部長)、運営を担う一般社団法人日本エレクトロニクスショー協会の小田佳代子さん(事業部長)、下川将照さん(Inter BEE プロモーションリーダー)、鈴木絵里香さん(Inter BEE セールス&オペレーションマネージャ)に、今年の見どころと会場の歩き方を聞いた。
3万5,000人の来場を目指す
今年の会場は、幕張メッセの展示ホール2〜8と国際会議場。前年と同規模での展開となり、出展者数も前年の1,079社並みを見込む。来場者については、前年の登録来場者数3万4,072人を上回る3万5,000人を目標に掲げる。
主催者の一般社団法人電子情報技術産業協会の吉田俊さん(ブランドコミュニケーション部長)は「実際に機器に触れて体験することには、オンラインだけでは得られない価値がある。メーカーの垣根を超えてさまざまな製品や技術を比較できる」と、リアルの場ならではの価値を強調する。

一般社団法人電子情報技術産業協会
ブランドコミュニケーション部長 吉田 俊さん
運営を担う一般社団法人日本エレクトロニクスショー協会の小田佳代子さん(事業部長)も、来場者の層や関わり方が多様化しているとして、コロナ禍以前の来場者数への回復だけでなく来場の質の変化に目を向ける。

一般社団法人日本エレクトロニクスショー協会
事業部長 小田 佳代子さん
専門性を軸に広がる来場者の裾野
吉田さんは、Inter BEEの来場者層の変化についてこう語る。
「Inter BEEは放送・映像・音響などの専門性を軸としながら、技術の活用領域が広がるのに伴い、来場者の裾野も広がっている」
背景にあるのは、コンテンツを届ける担い手の変化だ。かつて映像の制作・伝送は、放送局などのメディア事業者が中心となって担っていた。しかしメディアの多様化に加え、コロナ禍以降は企業が自ら配信を手がけ、スタジオを持つ例も珍しくなくなった。Inter BEEにとっての潜在的な来場者は、この数年で大きく増えている。
展示の中身も変わりつつある。ハードウェアを実際に見て体験できることはInter BEEの伝統的な強みだが、近年はソリューション企業の出展が大きく増えた。吉田さんは自動車業界のソフトウェア・デファインドになぞらえ、「機器の更新だけでなく、ソフトウェアの更新で機能がアップデートされる流れが、この業界にも入ってきている」と説明する。
教育・公共、イベント・広告へ——来場者の変化
「Inter BEE 2026 Vision」では、「うける(体験)」や、企業・教育・公共分野への広がりを打ち出している。小田さんは、学校でプロジェクターを使うのが当たり前になり、大学では授業配信が一般化している状況を例に挙げる。
「これまで個別の『点』として存在していた技術が、ソリューションによって結びつき、『面』へと広がってきている。オーディオビジュアルの技術がこうした幅広い分野に展開していることを、来場者に体感頂きたい」
来場者の業種にも変化は表れている。施設や広告・イベント・興行など、従来の放送・映像分野にとどまらない幅広い業種の関係者が来場している。小田さんは「これまであまり接点のなかったエンタメ関連の方々が、さまざまなソリューションを探しに来ている」と手応えを語る。
編集部が会場を歩いた実感としても、施設関係者の顔ぶれは、オペレーションを担う技術系の担当者に加え、マネジメント層が目立つようになってきた。映像・配信技術の導入を具体的に検討する段階に入った来場者が増えていることがうかがえる。
「外注先」から「共につくる相手」へ
出展者の側にも変化がある。吉田さんは、ベンチャーやコンテンツ系スタートアップが集まる企画、制作・コンテンツ側の人々が集まるエリアに加え、「テレビ局が自社の技術やソリューションを外部に提供する動きも広がっている」と話す。
「製品を売る・買うという関係にとどまらず、ユーザーとベンダーが課題を共有し、共に解決策を考える場面が増えている。『これいいですね、じゃあそれください』という従来の商談だけではなくなってきた。ソフトウェアの時代は、ユーザーが何をしたいのか、どんな課題を持っているのかが出発点になり、それに合ったものを提供側が提案していく」(吉田さん)
企業のイベント・プロモーション担当者のあり方も変わってきた。コロナ禍の初期、多くの企業は社内にリソースもナレッジもなく、オンライン化を外部に頼るしかなかった。吉田さんは、主催団体自身もオンライン記者会見やオンライン展示会を外部の力を借りて実施した経験を振り返り、「だんだんノウハウを積み上げてくると、こういうことはできないか、と自分たちで考えるようになった」と話す。外部に丸ごと任せるのではなく、自ら知識をつけ、最新動向を捉えたうえで発注先と向き合い、一緒に作っていく——。制作から伝送、体験までをハード・ソフトの両面から網羅するInter BEEは、そうした学びの場としても機能しているという。
主催者は「小間の提供者」から「デベロッパー」へ
吉田さんは、展示会主催者の役割の変化にも目を向ける。「展示会主催者は、単に小間を提供するだけでなく、業界の課題や可能性を見据え、新たな価値を生み出す場を開発する、いわば『デベロッパー』へと進化してきている」と語る。
一方で、ソリューションの価値は、パネル展示だけでは十分に伝えきれないこともある。そこで主催者が体験型の企画を提案し、出展者が展示スペースを確保するだけでなく、企画に参画する形を増やしている。「INTER BEE EXPERIENCE」のような体験型企画には、各社が技術を持ち寄って参加する。
「Inter BEEがどういう場で、ここに集うことでどのような価値が生まれるのかを、出展者と来場者の双方に発信していく。主催者・運営者の役割はそう変わってきている」(吉田さん)

前回のInter BEE会場全景
イベント・体験の現場に降りてくるメディア技術
ロケーションベースエンターテインメント——特定の場所でのXR体験
特別企画「INTER BEE IGNITION×DCEXPO」は今年、「『現実世界』へ踏み出すAI」をテーマに掲げる。その関連企画として、主催者企画のロケーションベースエンターテインメントを展開する。特定の場所でVRデバイスを着けて、歩いた先々の位置に応じて仮想空間を体験できるもので、小田さんは「最新のXR体験ができる」と期待を寄せる。空間を移動しながら体験を重ねる設計は、イベントや展示空間での応用を考えるうえでもヒントになりそうだ。
スピーカー体験「X-Speaker」——中小規模空間の音響を体感
例年、大型のイベントホールでライブイベントを想定した大型スピーカーを展開してきたスピーカー体験は、今年は会場事情により国際会議場の国際会議室に場所を移す。据え置き型など中小型のシステムを中心にデモンストレーションを行う予定だ。小田さんは「コンサートというよりは、ライブスタジオのような中小規模のイベントを想定した体験ができる」と説明する。カンファレンスルームや小規模イベントスペースを運営・企画する読者には、実務に直結する体験となりそうだ。
次世代ワイヤレスマイク「WMAS」——国内では貴重な実演
ホール2では、ラジオマイクの周波数利用効率を高める新技術「WMAS(ワイヤレス・マルチチャンネル・オーディオシステム)」の音響性能に関するデモ展示を行う。一般社団法人日本エレクトロニクスショー協会の下川将照さん(Inter BEE プロモーションリーダー)によれば、国内で同技術に対応する製品を扱う企業はまだ限られている。
最新のワイヤレスマイク技術の音響性能を体験できる貴重な機会となる。関連する基調講演も予定されており、デモと講演を組み合わせて理解を深められる。対象はラジオやスタジオ関係者にとどまらず、イベントの集客や運営に携わる人まで幅広く想定している。

一般社団法人日本エレクトロニクスショー協会
Inter BEE プロモーションリーダー 下川 将照さん
MoIPの遠隔制作実証——展示会を「試す場」に
ホール3ではもう一つ、放送局や通信会社などによるコンソーシアムが、東京・名古屋・大阪の設備とパブリッククラウドを連携させる遠隔制作の実証を行う。
前年までの「INTER BEE DX × IP PAVILION」を刷新し、今年は「INTER BEE MoIP」として展開する。放送局の制作現場でIP化やソフトウェア化への対応が進むなか、その可能性を具体的に検証する企画だ。
吉田さんは、主な対象は放送局の制作・技術担当者だとしたうえで、「Inter BEEが単に機器を展示するだけでなく、実際に技術を試し、その可能性を検証する場へと進化していることを感じてほしい」と話す。ユーザーとベンダーがともにつくる姿を実地で見せる試みは、展示会を主催・運営する立場の読者にとっても、展示会の新しい使い方を考えるヒントになりそうだ。会場では、各社の担当者が実証の様子を説明する予定だ。
イベント企画・広告代理店・興行関係者に見てほしいポイント
イベントに携わる読者に向けても、それぞれ見どころを挙げた。
下川さんは、マーケティング技術を扱う「メディアビジネス」エリアを紹介しつつ、「イベント企画に関わるプロの方なら、すでに知っている技術もあると思う。それとは別に、Inter BEEには映像・音響・照明といろいろな技術が集まっているので、普段接点のない分野にも目を向け、今後のマーケティングに生かしてほしい」と話す。
一般社団法人日本エレクトロニクスショー協会の鈴木絵里香さん(Inter BEE セールス&オペレーションマネージャ)が挙げるのは、エンターテインメント部門の大型LEDディスプレイやライティング製品、そして音響部門のイマーシブ空間だ。大型LEDは海外メーカーを中心に年々進化しており、「イベントでも映像技術を駆使した展開が増えている。仕事でイベントを実施する時のいい素材になれば」と期待する。ホール4を中心とするエンターテインメント部門では、照明や映像の演出を体感できるよう会場の照明を落とし、実際の演出表現を体験することができる。

一般社団法人日本エレクトロニクスショー協会
Inter BEE セールス&オペレーションマネージャ 鈴木絵里香さん
吉田さんは、特定の展示を推すのではなく、楽しみ方そのものを提案する。「全コンテンツが全員を対象にしているわけではない。テレビ局の人ですら、全部が自分たち向けとは思わないはず。良い意味で選んでもらっていいし、一方で、普段は接点がないけれどせっかくだから聞いてみよう、見てみよう、という歩き方をしてもらえるとうれしい」と話す。
コンファレンスも機器の話から、コンテンツそのもの、「テレビの次のテレビの形」を語るセッションまで多層的だ。「対象がある程度限られているからこそ、広く見てもらうとインプットできるものが多い。会期3日間をフルに活用していただきたい」(吉田さん)
そのきっかけの一つとして挙げたのが、会期2日目のINTER BEE IGNITION × DCEXPO 企画セッション「イノベーティブネットワーキング」(11月19日17:45〜19:15 / 展示ホール4 特別企画オープンステージ)だ。先端的な映像表現技術やテクノロジーが集まるINTER BEE IGNITION×DCEXPOでネットワーキングをオープンに開催するもの。出展者や来場者によるオープンマイクピッチ等を実施予定だ。時間は、閉場後になるが、参加登録者は自由に参加できる。
AI検索で「見たいリスト」をつくる 滞在時間を有効に過ごす工夫も
AI検索をアップデート
来場者の回り方を変える仕掛けとして、今年は出展者とコンファレンスを横断して探せるAI検索を拡充した。前年は出展者検索のみだったが、対象を広げた。
下川さんは導入の狙いを「限られた時間の中で、来場者に必要な情報を効率よく見つけてもらうため」と説明する。公式サイトの情報量は膨大で、すべてに目を通すのは現実的ではない。2〜8ホールと国際会議場にまたがる広い会場を、情報がないまま回れば迷いやすい。
「負担を少なくすることで、また来年も行こうと思ってもらえるInter BEEにしたい」(下川さん)
検索対象はInter BEEの出展者・コンファレンス情報に限定されており、外部の情報は表示されない。下川さんは、来場の2週間前から3日前を目安に活用し、「見たいもの」のリストを作っておくことを勧める。
回遊と滞在を促すVisitor Service
ロケ弁グランプリ、コーヒーマルシェ、スタンプラリーなど、来場者の交流や会場内の回遊を促し、滞在体験を充実させる企画も展開する。
編集部は以前、会場のスタンプラリーをきっかけにマイクの体験コーナーを訪れた。パソコン内蔵マイクと高性能マイクとでは、届く声の質や情報量がまったく異なることを改めて実感した。配信が当たり前になったイベント現場において、音の品質は見過ごせない要素だ。

スタンプラリーで回遊した際に新たな発見だった「マイク体験」のコーナー
小田さんは「展示会場を歩き回るのは疲れるし、気になっていてもきっかけがないと行きづらい。コーヒーマルシェで普段行かないエリアに足を運び、こんなブースがあるんだと知るきっかけになれば」と期待する。こうした参加型の企画を通じて、若い世代を含む来場者に「Inter BEEはこんなこともやっている」と知ってもらうことも狙いだ。コーヒーマルシェは一人でも楽しめる企画として位置づけている。
一方、Streamer Loungeは仲間と利用したり、来場者同士が知り合ったりする場として設計されていると、鈴木さんは話す。Inter BEEに来場するYouTuberなどがここでつながるケースもあるといい、もともとは会場を回りながら撮影・配信してもらう拠点として始まった。鈴木さんは「ぜひ配信にも参加してほしい」と呼びかける。テーブルごとに小さなコミュニティが生まれ、つながりが広がっていく光景は、Inter BEEらしい楽しみ方の一つといえる。

Streamer Laungeコーナーは、生配信や編集作業として利用できる
専門展の集客は「誰が、何を語るか」
取材の終盤、話題はコンファレンスの登壇者選びにも及んだ。Inter BEEでは、登壇者の知名度が必ずしも集客につながるわけではない。一方で、ローカル局の幹部が登壇するセッションやIP技術をテーマにした企画が満員になることもある。「大切なのは、誰が何を語るのか。その人だからこそ語れる知見があり、参加者自身の関心や課題と結びつくテーマであることが、足を運ぶきっかけになる」と吉田さん。
次世代の担い手の育成も視野に、学生や若い来場者のロールモデルになる30代以下の現役配信者や実務家の登壇の可能性も探る。次回に向けては、来場者に「来てほしいYouTuber」を投票してもらい、Streamer Loungeでの配信と組み合わせるといったアイデアも挙がった。
「『Inter BEE』は、僕たち、私たちの展示会と思ってくれている人が確実にいる。変化を伝えていきたい」と、開催に向けてチーム一丸となって準備を進めていた。
開催概要
名称:Inter BEE 2026
会期:2026年11月18日(水)〜20日(金)
会場:幕張メッセ(展示ホール2〜8、国際会議場)
主催:一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)
運営:一般社団法人日本エレクトロニクスショー協会
入場:無料(全来場者登録入場制)
公式サイト:https://www.inter-bee.com/ja/





















