「サステナビューティーフェス 2026」に学ぶサステナイベントのつくり方 ―EVENT CARBON SIMULATOR試験運用 第一号の舞台裏―(前編)

特集サステナビリティ実践録_1-1

音楽フェス「サステナビューティーフェス 2026」(河口湖ステラシアター)は、イベント業界横断で開発が進む「EVENT CARBON SIMULATOR(ECS)」の試験運用第一号イベントとなった。サステナブルプロデューサーとして現場の設計を担った深本南さんと、ECS運用ワーキンググループで、株式会社電通ライブ経営推進局 ネクストビジネス開発部の永川裕樹さんに、試験運用で見えた本音と実際を聞いた。

(Top Photo:築地孝典)

深本南さん(写真左)eleventh hour合同会社 代表 / 社会起業家、「サステナビューティーフェス 2026」サステナブルプロデューサーと、永川裕樹さん(写真右)株式会社電通ライブ経営推進局 ネクストビジネス開発部

深本南さん(写真左)eleventh hour合同会社 代表 / 社会起業家、「サステナビューティーフェス 2026」サステナブルプロデューサーと、永川裕樹さん(写真右)株式会社電通ライブ経営推進局 ネクストビジネス開発部

サステナブルへの取組み履歴を聴く

音楽フェスの環境対策 選択肢と見える化に変化

――深本さんのサステナビューティーフェスでのお役割、イベントでのサステナブルの取り組み履歴について教えてください

深本 2020年にサステナブルな暮らしをガイドするメディア「ELEMINIST」を立ち上げ、現在はサステナビリティに特化したプロデュースカンパニー「eleventh hour」を経営しています。企業やブランドのサステナビリティ戦略から、商品・サービス開発、イベント、PRまで、サステナビリティを生活者に「選ばれる価値」として届ける仕事をしています。

学生時代に環境団体を立ち上げ、音楽フェスの環境対策には2004年から関わってきました。当時と比べると、現在は資源循環に加えてCO2の可視化など、社会課題を解決する多様なソリューションが生まれています。それらを単体で導入するのではなく、一つのイベントの中でどう統合し、次世代型の環境負荷の低いフェスとして、来場者には楽しむだけでサステナブルな取り組みに関わってもらえる体験をどう設計し実装していけるかが私の役割だと考えています。

今回の「サステナビューティーフェス(以下SBF)」では、サステナブルプロデューサーとして、イベント全体の方針設計から、フードや物販の基準づくり、資源循環・リユース、CO2計測、最終的なカーボンオフセット、企業・大学・NPOとの連携まで、横断的に担当しました。

――20代の頃、今のような取り組みをする上で、業界の認知も技術のアクセスのしやすさもなかったと思うのですが、当時はどうされていたんですか

深本 選択肢の幅は正直かなり少なかったです。例えば、活動するボランティアのTシャツをオーガニックコットンにしようと思っても対応できる会社は数社しかなかったですし、当時環境団体として企業に協賛を相談しても、賛同していただける会社は多くはありませんでした。

リサイクルという意味での資源循環は、実は今も昔もそう大きくは変わっていません。日本は2000年から多くの自治体でアルミ缶やペットボトルの資源回収はできていましたから。ただ、それをサーマルリサイクル以外の選択肢で資源循環したものを私たちの手にまた戻ってくるような仕組みはいまに比べれば少なかったですね。実際、今回のイベントでの資源回収は、8割くらいは20年前と同じことをやっています。それも難しいことをしているわけではなく、むしろ「なぜみんなやらないんだろう」というくらい。コンポストの選択肢が増えたのが大きな違いでしょうか。

もう一つの違いは「見える化」です。私自身、この20数年ずっと携わってきたわけではないのですが、これまでゴミがどれくらい出たかをフェスごとに計量・算定してこなかったのは、ある意味で機会損失だったと思います。数値化することで新たなソリューションと出会えたり、社会課題を一緒に解決していけるプレイヤーが増えているはずなので、見える化しないと次のステップに自走できない。そこは大きな違いです。

「サステナビューティーフェス 2026」サステナブルプロデューサーとして、体験としてのサステナブルデザインを設計・実装した深本南さん

「サステナビューティーフェス 2026」サステナブルプロデューサーとして、体験としてのサステナブルデザインを設計・実装した深本南さん

サステナでの企業価値向上と イベントの領域拡大としてのサステナ

――続いて永川さんの自己紹介と、普段のお仕事についてお聞かせください

永川 私は、電通ライブで、空間のプロデュースがメインの一つとして、また今年から異動した新規事業開発の部署での仕事をしています。現在の部署では、サステナビリティに限らずイベント領域を拡張して、事業として成立させられないかを考えています。その一環として、日本イベント産業振興協会(JACE)の活動では、業界全体への貢献という意味で、この「EVENT CARBON SIMULATOR(以下ECS)」のワーキンググループに参加しています。WGでの立ち位置としては幹事会社の一つとして、全体の進行などを担当しています。

電通グループ全体でのブランディング活動としてサステナビリティを企業価値向上に生かす動きと、業界団体全体でイベント自体をより良くしていく動きの両方に関わっています。実際、イベントを通じてサーキュラーエコノミーをどう広げるか、イベントという場でどれだけ資源循環を実践できるか、といったテーマに関わることもありました。

イベント業界ではサステナに関して各社でさまざまな取組みが進められていますが、私たち電通ライブがイベント領域におけるサステナビリティの取り組みに関わり始めたのは2022年から。こうした動きに合わせ、サステナブルイベント協議会が2023年10月に立ち上がり、JACEのサステナブルに関するワーキンググループで顔を合わせるようになるなど、競合他社で連携した動きがはじまったのは2023年以降になります。

永川裕樹さんは、ECS運用ワーキンググループの幹事会社の一員として全体進行を担当。試験運用 第一号となった「SBF」の現地視察も実施

永川裕樹さんは、ECS運用ワーキンググループの幹事会社の一員として全体進行を担当。試験運用 第一号となった「SBF」の現地視察も実施

 

EVENT CARBON SIMULATOR × サステナビューティーフェス
試験運用の背景

イベント、広告・マーケ業界の 共同活動として拡大中

――ECSの特徴や開発の背景について、詳しく教えていただけますか

永川 背景からお話しすると、社会的にサステナビリティ情報の開示が求められる流れがあります。時価総額の大きい企業から段階的に開示義務化が進んでおり、CO2で言うといわゆる「スコープ3」(自社の燃料燃焼や電気使用以外の、事前に購入した製品・サービス、広告なども含む範囲)について、サプライヤー側もしっかり数値を出せるようにする必要が出てきました。

サステナビリティ情報開示義務の動き(「ECS資料より」©︎イベント業界標準カーボンカリキュレーター運用ワーキンググル―プ

サステナビリティ情報開示義務の動き(「ECS資料より」©︎イベント業界標準カーボンカリキュレーター運用ワーキンググル―プ)

その中で、さまざまな団体や企業が独自にカリキュレーター(CO2排出量などの環境負荷を数値化する計算ツール)を作る動きがあり、2023〜24年頃には指標が乱立していました。そこで出てきた課題が「計算式がバラバラ」ということ。基準や計算方法、どこまで含むかのルールが曖昧で、ユーザーからすると「頼む人ごとに測り方が違う」状態になってしまっていたんです。そこでまず基準を統一しようというのがきっかけです。

ECS開発当初の2025年には12社が集まり(当時は「開発ワーキンググループ」)、多くがJACE(日本イベント産業振興協会)のサステナビリティ委員会にも参加していたことから、そのつながりの中で開発を進めました。2025年12月17日には広告関連団体のJAAA(日本広告業協会)、JAC(日本アド・コンテンツ制作協会)、そしてJACE(日本イベント産業振興協会)の業界団体が横断的に連携し、イベント領域も含む、広告・マーケティング業界全体でのカーボン計測標準化に共同で取り組むことを宣言しています。

「EVENT CARBON SIMULATOR」はイベント業界横断で開発された、CO2排出量を算定するツール。金額ベースの概算ではなく、資材の重量・素材・廃棄方法ごとに積み上げて算出することで、環境配慮の努力を数値に正確に反映できる仕組みになっている

「EVENT CARBON SIMULATOR」はイベント業界横断で開発された、CO2排出量を算定するツール。金額ベースの概算ではなく、資材の重量・素材・廃棄方法ごとに積み上げて算出することで、環境配慮の努力を数値に正確に反映できる仕組みになっている

――「カリキュレーター」ではなく「シミュレーター」という名前にした意図はあるのでしょうか

永川 カーボンカリキュレーターという言葉自体はある種の世界標準として使われているのですが、実際にツールの名前を考えたときに、単に数値が出るだけでなく、一度概算で入力し、そこから「これをやめたら数値が下がるか」をシミュレーションできる、という特徴を込めて「シミュレーター」という名前にしました。

今年7月からは、2025年から「イベント業界標準カーボンカリキュレーター開発ワーキンググル―プ」が開発してきたものが形になり、名称も「運用ワーキング」に変わって参加企業も一部入れ替わりました。広告会社や内装会社など、新たに関心を持つ企業も増えています。ロードマップとしては、今年がテスト検証のフェーズ。使える人を限定して実際に使いながら調整し、段階的に一般提供の実現を目指しています。

実際にシステムはできていても、イベントの現場で情報を集める主催者側の苦労は、仕組みを作っている段階ではなかなか気づけない部分でもあります。使い心地も含めて一緒に考えていく必要があると感じていて、それもこの運用ワーキングの目的の一つです。

――ECSの特徴について教えてください

永川 特徴は大きく3つあります。1つ目は、『金額ベースではなく実態ベースで算出』することです。実際にCO2の排出量を測定したことがある方はわかると思うんですけど、金額に対する排出量の平均値、いわゆる原単位みたいなものがあって、それをかけて出すのが従来のやり方でした。でもそうすると、環境に配慮した塗料やスチール缶を使っていても一切考慮されず、単価が上がれば上がるほど排出量もどんどん増えていくんですよ。それだと努力が一切見えない状態になっちゃう。なので、実際の材料ベースでちゃんと精緻な数値を出していって、努力が報われる世の中を作ろうというのが1つ目です。壁を一つ作るにしても、金額ではなくて、実際どれくらいの厚みでどんな素材かというところまで含めて計算できるようにしています。

2つ目は、事前の資材制作から現場対応、廃棄まで、一連のプロセスで算出することです。本来はオフィスや倉庫、工場での稼働まで含めて、全部算出に関わってくるものなんですけど、私たちの場合は、そこは一旦置いておいて、資材を制作から、現場での使用、最後の廃棄までを対象範囲として区切っています。逆に、全体の5%以下になるようなすごく小さいもの、例えば釘とかボタンみたいなものは測らない、という粒度の線引きも一応決めながらやっています。

ECSの算定範囲(「ECS資料より」©︎イベント業界標準カーボンカリキュレーター運用ワーキンググル―プ)

ECSの算定範囲(「ECS資料より」©︎イベント業界標準カーボンカリキュレーター運用ワーキンググル―プ)

3つ目は、『算定したデータが蓄積されていくこと』です。一度概算で入力してみて、そこから「これをやめたら下がるかな」というのを試しながら、改善サイクルを構築していけるのが特徴で、データが残っていくので、Before/Afterで比較しながら、次のイベント設計に生かしていけます。

ECSの算定対象一覧(「ECS資料より」©︎イベント業界標準カーボンカリキュレーター運用ワーキンググル―プ)

ECSの算定対象一覧(「ECS資料より」©︎イベント業界標準カーボンカリキュレーター運用ワーキンググル―プ)

――深本さんは、なぜこのシミュレーターを「SBF」で採用しようと思われたのですか

深本 「SBF」のサステナブルプロデューサーとして次世代型のサステナブルイベントを実現したいという思いから、企画段階より、環境に配慮した取り組みを行うだけでなく、その結果を数値化し、レポートとして発表するところまで見据えていました。まずは省エネに努め、取り組みの効果を定量化することで、実施しない場合との差を可視化する。さらに、どうしても発生してしまう環境負荷をオフセットし、よりクリーンなフェスを目指す。そこまでを一連の取り組みとして実現したいと考えていました。

会場内で発生する資源やゴミの重量、電気使用量、来場者やスタッフ・資材の移動によるCO2排出量まで把握したいと考えていたタイミングで皆さんと出会い、試験運用のお話をいただきました。このフェスを第一号の実装の場として、ぜひご一緒したいと思ったのがきっかけです。

サステナビューティーフェスのサステナの取組み

「楽しいから、はじめよう」をコンセプトに サステナ設計

――サステナビューティーフェスとは、どのようなコンセプトのイベントなのでしょうか

深本 サステナビューティーフェスは、柴咲コウさんが経営する会社Les Trois Graces(レトロワグラース)が提唱する「サステナビューティー」という思想から生まれたフェスです。富士山の麓、河口湖ステラシアターを舞台に「楽しいから、はじめよう」をコンセプトに5月23日〜24日の2日間に渡って開催しました。

音楽を楽しみ、美味しいものを食べ、ファッションや買い物を楽しみ、河口湖の豊かな自然に触れる。その一つひとつの体験が、気づけば環境や社会に配慮した選択につながっている。サステナビリティを我慢や制限ではなく、ときめきや体験価値として届けることを目指しました。「サステナブルだから選んでください」と訴えるのではなく、「楽しい」「美味しい」「素敵」と思って選んだものが実はサステナブルだった、という設計を大切にしています。

そのために掲げたのが4つのポリシーです。1つ目は制限ではなくときめきや体験価値から自然に選ばれる「体験としてのサステナブルデザイン」、2つ目は美味しさを軸に人・地球・動物に配慮する「食からはじまるサステナビリティ」、3つ目は会場で発生するものを可能な限り資源として循環させる「資源循環とローウェイスト」、4つ目は会場の電力使用や来場者の移動まで可視化する「カーボンオフセットと環境への還元」です。この4つを企画・運営・会場設計・コミュニケーションまで一貫して反映しました。

「サステナビューティーフェス 2026」(2026年5月23日・24日、河口湖ステラシアター)<Photo:築地孝典>

「サステナビューティーフェス 2026」(2026年5月23日・24日、河口湖ステラシアター)<Photo:築地孝典>

フェスのグッズとして 横断幕をアップサイクル

――具体的にはどのような取り組みをされたのですか

深本 食については、オーガニック、フードロス削減、フェアトレード、無添加、プラスチックフリー、アニマルウェルフェア、地産地消、プラントベースなど10項目の基準を設け、2つ以上を満たすことを出店条件にしました。ただ、基準を満たすことより「美味しいから選びたくなること」を大切にしています。

ゴミを出さない設計としては、フードエリアにリユース食器・リユース箸を導入し、一部では使用済みをトイレットペーパーにリサイクルできる麻の茎をアップサイクルした食器も採用しました。来場者全員にリユース可能なアルミカップを配布し、会場に洗浄スタンドも設置しています。この結果、リユース食器だけで約13.8kg、資源循環の効果まで含めると約58.3kgの可燃ごみを事前に削減できたと試算しています(アルミカップ分の削減効果は含まれていません)。

来場者に配布されたリユースカップ。使用後は洗浄ステーションで洗って繰り返し使い、最後は記念品として持ち帰れる(Photo: Kaoru Yamada)

来場者に配布されたリユースカップ。使用後は洗浄ステーションで洗って繰り返し使い、最後は記念品として持ち帰れる(Photo: Kaoru Yamada)

資源循環では、会場内3か所にエコステーションを設置し、資源とごみを10種類に分別。運営はNPO法人と大学の学生ボランティアが担い、来場者には分別してもらうだけではなく、アルミ缶をその場で圧縮してもらうなど、より省エネな運搬ができる状態にまで協力いただきました。

また今回のフェスで象徴的なアクションが横断幕のアップサイクルです。舞台幕や横断幕は通常イベント終了後に廃棄されるのが一般的です。耐候性に優れている資源でありアーティストがパフォーマンスしている舞台で使用されたファンにとっては非常に価値がありメモリアルなものでもある。今回はキービジュアルのデザイン段階から「後日パーツごとに裁断してバッグにする」ことを前提にデザインを発注し、来場者が自分の好きな柄・パーツを選んでバッグとして購入し、後日受け取れる仕組みにしました。実施したところ好評ですべて完売。フェスにおけるサーキュラーエコノミーが実践できる時代がきたことは感慨深いものがあります。

会場の横断幕をアップサイクルしたバッグやサコッシュパーツごとに柄が選べ、来場者に好評を博した(Photo: Kaoru Yamada)

会場の横断幕をアップサイクルしたバッグやサコッシュパーツごとに柄が選べ、来場者に好評を博した(Photo: Kaoru Yamada)

 


(後編では、出店者との関係性、業務負荷の実態、計測結果の詳細、そして来年に向けた展望に迫ります)

 

特集:対話・交流から生まれるサステナビリティ実践録 一覧

「サステナビューティーフェス 2026」に学ぶ―EVENT CARBON SIMULATOR試験運用 第一号の舞台裏―(前編)

「サステナビューティーフェス 2026」に学ぶ―EVENT CARBON SIMULATOR試験運用 第一号の舞台裏―(後編)

ゲームでみえた本音の対話-「ダイバーシティイベント・ワークショップ体験会」レポート-

効率化が結果的にサステナブルになる― JACE 昭栄美術 SHOEIベイスタジオ視察 ―

 

樋口陽子 (MICE 研究所 イベントマーケティング 編集長)

樋口陽子月刊イベントマーケティング編集長

投稿者プロフィール

2003年に展示会の専門出版社に入社。12年編集業務に従事し、展示会ユーザーである出展者の立場に立った専門雑誌などを企画。​ 2015年に株式会社MICE研究所を共同創業。ビジネスイベント、体験型マーケティングを中心に主催者や企画者の声、制作の舞台裏を取材。​ 2016年から体験型マーケティングのカンファレンス「BACKSTAGE」を主催(3社共催)。​ 2020年5月からほぼ毎週、イベント・マーケティング関係者とのトーク形式のライブ配信を続けており、260回以上発信している。

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