メディアの生存戦略、AI活用とブランド構築が2本柱 -メディアイノベーションカンファレンス2026
- 2026/3/25
- イベントレポート

イードは3月18日、メディア業界の事業戦略やテクノロジー活用を議論する「Media Innovation Conference 2026~もっとメディアを楽しもう~」を東京・港区の赤坂インターシティコンファレンスで開催した。2回目の開催。生成AI(人工知能)の急速な普及など急激な環境変化に直面する新聞、出版、デジタルメディアの経営層や実務担当者が集結した。今年のテーマは「AIという現実」と「メディアはブランドだ」の2本柱で、テクノロジーとの共存やメディア独自の価値向上に向けた議論が交わされた。
冒頭、主催者を代表してイードの執行役員で「Media Innovation」運営責任者の土本学氏が挨拶した。土本氏は「メディアを取り巻く環境は非常に厳しいものがある」と業界の危機感に触れる一方で、「そうした難しい局面でも、非常に興味深いチャレンジをされている会社にたくさん来ていただくことができた」と述べた。さらに、来場登録者数が前年に比べて大幅に拡大したことに触れ、本カンファレンスが単なるノウハウの共有にとどまらず、メディア業界で奮闘する同志の交流の場として機能することへの期待感を示した。

開会あいさつに立ったイードの土本学氏
基調講演には、朝日新聞社の角田克代表取締役社長CEOが登壇し、「AI時代の新聞社経営 ~朝日新聞社が全振りするAI利活用の最前線」と題して同社の戦略を語った。角田氏は、報道機関に根強く残る現状維持の組織風土を打破するため、トップダウンで「AI全振り」という象徴的なメッセージを発信した経緯を説明した。ただし、これはすべてをAIに代替させることを意味しない。「AIと人間の役割分担の最適化」を掲げ、要約や翻訳、コモディティ化した記事の作成をAIに委ねることで、記者が本来の取材活動や深い人間関係の構築に専念できる環境を整備すると強調した。

基調講演した朝日新聞社の角田克氏(中央)と聞き手のイード土本学氏(右)
さらに角田氏は、AI時代の記者の理想像として「スーパージャーナリスト」という概念を提唱した。AIを副操縦士として使いこなして情報収集の基盤を効率的に構築した上で、自らの専門的な知見や強固な人脈といった、人間にしか生み出せない付加価値をダイレクトに掛け合わせる人材である。最新のテクノロジーを最大限に活用しつつ、人間にしか獲得できない一次情報に注力することが、今後の報道機関の生存戦略であるとの展望を示した。
基調講演に続く各セッションでも、AIの現実的な活用とブランド価値の再定義という軸で実践的な議論が展開された。全体を分析すると、情報がAIによって瞬時に大量生成される時代において、メディアの価値は情報の「合理性」と、属人性や情緒を伴う「人間性」に二極化していくという傾向が浮かび上がる。
文化放送・radikoの村田武之氏とオトナルの八木太亮氏が登壇した「音声メディアの現在地と、これからの話― ラジオ・ポッドキャスト・音声ビジネスのリアル ―」では、まさにこの点が議論された。パーソナリティの感情や人柄がダイレクトに伝わる音声メディアは「人間性」の象徴であり、若年層におけるポッドキャストの高い利用率や、熱狂的なファン(ファンダム)を通じた大型イベントの成功など、音声ビジネスの再評価が進んでいることが示された。

文化放送・radikoの村田武之氏(左)とオトナルの八木太亮氏
また、新たなプラットフォームを通じた次世代読者との接点構築も重要なテーマとなった。GeekOutの田中創一朗氏と日本経済新聞社の秦明日香氏による「Z世代から絶大な支持、次世代プラットフォームRobloxとは? メディアビジネスへの活用法を考える」では、日経新聞が若年層に人気のメタバース空間「Roblox」に仮想支局を開設した事例が紹介された。活字メディアが届きにくいアルファ世代に対し、お勉強型のコンテンツを無理に押し付けるのではなく、同じ目線でアバターを通じた交流を図ることで、新たなブランド認知を獲得した試みは、次世代の顧客接点を開拓する好例として注目を集めた。

GeekOutの田中創一朗氏(右)と日本経済新聞社の秦明日香氏
本カンファレンスの特筆すべき点は、通常は社会の事象を「取材して報じる」立場にある報道機関が自ら登壇者となったことだ。さらに、広告営業・マーケティング部門などだけでなく、記者や編集者までオーディエンスとして巻き込んだことも興味深い。これまで報道機関は自らの事業課題や内情を外部に明かすことに慎重な傾向があったが、生成AIの急激な進化という未曾有の環境変化を前に、企業や媒体の垣根を越えたノウハウの共有が求められている。メディアの人間が自ら当事者として変革の痛みをオープンにし、業界全体の生き残りに向けた「同志の交流の場」を構築した本イベントは、次世代のジャーナリズムとメディアビジネスを共創するエコシステムとして、極めて前向きな意義を持っていると言えそうだ。













