福岡発 “花とみどり”の新しいMICEへの挑戦〜「Fukuoka Flower Show Pre-Event」イベントレポート〜
- 2025/5/19
- イベントレポート

福岡市が目指す「花とみどりあふれるまちづくり」の一環として、2026年春の「Fukuoka Flower Show」を見据えた「Fukuoka Flower Show Pre-Event」が、2025年3月23日から27日まで福岡市植物園にて開催された。
市民や関係者に向けて、花やみどりの魅力を身近に感じてもらうことを目的とした本イベントは、業界の活性化に加え、新たな担い手の発掘や市民活動の広がりにもつながる重要な機会となった。新たなMICEの一つとしても注目される同イベントをレポートする。
特別エリア・一般エリアと多彩なコンテンツで展開
「Fukuoka Flower Show Pre-Event」の5日間の開催中、会場となった福岡市植物園内は「一般エリア」と「特別エリア」の構成で展開された。
一般エリアでは、ロサンゼルスや台北、ロンドンなどでも活躍している福岡市出身のアーティスト鹿児島睦さんによるインスタレーション作品展示や、香りによるブランディング・CIを手掛けるアットアロマ株式会社の企画・運営で移動式蒸留装置「mobile aroma lab(モバイルアロマラボ)」を活用した天然アロマの蒸留デモなどが行われた。

鹿児島睦さんによるインスタレーション作品展示

移動式蒸留装置「mobile aroma lab(モバイルアロマラボ)」
特別エリアでは、国内外の著名なガーデナー3名をメンターに迎え、その技術的なアドバイスを受けながら制作する人材育成型の『ガーデンコンテスト』や、植物園の新たなシンボルとなり、季節ごとに変化する植栽デザインや、ステージとしても活用可能な365 日楽しめる『シンボルガーデン』、CFSの植物の品種コンテストである「Plants of the Year」で2023年に最優秀賞を受賞しキービジュアルのモチーフにもなっている『「アガパンサス・ブラックジャック」の日本初公開』、『「趣味の園芸」コラボ企画 ベランダガーデンモデル展示』、福岡の食を代表するレストランが出店する『飲食・物販』など、多彩なコンテンツが用意された。

季節ごとに変化する植栽デザインやステージとしても活用可能で、365日楽しめる「シンボルガーデン」

ベランダガーデンモデル展示

特別エリアでステージイベントや飲食を楽しむ来場者
また、特別エリア内では特別ステージが設けられ、各日トークショーやビジネスシンポジウム、フラワーセールやステージイベントも実施するなど、幅広い層へのアプローチする内容となっていた。

エリアマップ(公式webサイトより)
理想の都市景観をイメージした ガーデンコンテスト作品
「街のなかでお花見をしている時のような高揚した気分や、安らぐ気持ちをもっと味わえる風景が街中に増えていったら…そんな想いを込めてつくりました」
ガーデンコンテストで選ばれた3作品のうち、「はなみはなみち HANAMI HANAMICHI」の作庭者feb-garden代表藤井宏海さんのコメントからは、イメージするつくりたい街の情景を表現した言葉が印象的だ。藤井さんは、英国で100年以上の歴史と伝統のある「Chelsea Flower Show」を視察した経験があり、その際にみたイギリス人の緑地に座り、芝生に寝転がる自然と共生する街の景色と日本のお花見の景色に、日常的に自然を楽しむ姿の共通点を見出して着想した作品と話す。
また、作品ごとにメンターによるアドバイスがあり、藤井さんのメンターとなったガーデン・デザイナーのリオン・クルーガさんからはさまざまな環境に配慮したサステナブル思考や、庭がまるで長年ここにあるような景色をつくるための野花の取り入れ方、落ち葉で土を覆うなどの細やかな技術を学び、世界標準となっている作庭のトレンドも取り入れることができたと話す。
「例えば、オオイヌノフグリなど雑草と言われてしまうような野草を使用することに悩んでいたけれど、意外に『いい発想だね』と反応していただいて、その視点は後押しになった」
と安心しながら自信を持って作庭を進められたという。

ガーデンコンテスト3作品のうちの一つ「はなみはなみち HANAMI HANAMICHI」。会期中に桜が咲くように作庭されている

「はなみはなみち HANAMI HANAMICHI」作庭者:feb-garden代表藤井宏海さん
植物園 “みんなが来て楽しむ 幸せな憩いの場”へ
キービジュアルのイラストレーションを担当した三反栄治さんは、ボタニカルアート作家として福岡で活躍する。キービジュアルにも描かれた「アガパンサス・ブラックジャック」は「Fukuoka Flower Show Pre-Event」で日本初公開された品種のため、写真資料や英国のサイトを何十枚もみながら魅力を表現したとイラスト化するまでの苦労を話してくれた。

キービジュアルのモチーフ「アガパンサス・ブラックジャック」。「Fukuoka Flower Show Pre-Event」で日本初公開された
実際のアガパンサス・ブラックジャックを前にして三反さんは、にこやかにこう話す。
「私は花それぞれに持つ個性を、写真のように精巧に写すだけではなく、綺麗に、そして幸せな絵を描こうと思いながら引き出すんです」
ボタニカルアートのアプローチは、植物やその分類を解説するため緻密で精細さを記録する学問的側面があるが、三反さんのイラストには自然や植物の生きとし生ける輝き、リズム、調和を表現するアート的側面とも両立していて、とても魅力的だ。会場となった福岡市植物園のエントランスやエリアを囲うグラフィックシートにも大きく展開され、アイキャッチになっていた。
三反さんに「福岡フラワーショー プレイベント」の開催について聞くと、「植物園の役割としては本来、第一に植物の種の保存、次に教育から始まっていますが、近代化された植物園のあり方は変わってきています。植物に興味のある人だけでなく、個人の癒しの場やみんなで楽しむ、幸せな憩いの場へと変化しているんです。イベントを通じてオープンに体験できる機会となり、専門家や造園家の方と話したり、つながることで『庭園やろうかな』『苗を買って帰ろう』という人がどんどん増えて広がると思います」と裾野拡大に期待する。
会期初日には、三反さんが講師を務める「ボタニカルアートワークショップ」 の企画も用意されており、「植物をじっくりみて、さまざまな発見をしてほしい」とスケッチブックを持って観察する姿がみられると嬉しいと語った。

キービジュアルのイラストレーションを担当した三反栄治さん
多角的な目的をもつイベント
「Fukuoka Flower Show Pre-Event」は、こうした花やガーデン文化の定着による市民生活の質向上のほかにも「観光・MICE推進、社交・ビジネスの場づくりなど多岐にわたる」と主催者である福岡市の三浦哲昭さん(福岡市住宅都市みどり局一人一花推進部課長(フラワーショー担当))は、多角的な目的をもつイベントだと説明する。

主催者の福岡市・三浦哲昭さん
参考にしているという世界最高峰の国際的フラワーショーである英国の「Chelsea Flower Show」には、世界各国から集まったトップデザイナーによる世界最高レベルのガーデンが並び、受賞者には世界中から仕事がくるビジネスの場にもなっている。それは、園芸業界だけでなく、エクステリアや関連する産業への波及効果につながるものであり、「Fukuoka Flower Show」の開催に向けて期待をかける。
国際的なフラワーショーへと育てていくことを目指しており、来年度以降は海外観光客の誘致も視野に入れ、英語表記の充実、人気のお花見シーズンを意識した3月の開催など、インバウンド対応も意識しているという。
産業振興・人材育成のBtoBと、地域の魅力発信と市民参加型のBtoCの役割を担う“花をテーマとしたMICE“にチャレンジした「Fukuoka Flower Show」は、福岡市が2018年に始動し、市民・企業・行政が一体となって進める一人一花(ひとりひとはな)運動をさらに推進する取組みとなる。
「Fukuoka Flower Show 2026」の日程も2026年3月22日から26日に決定。“日常の豊かさ”や“つながり”を育む場として、会場だけでなく街全体へと広がる“花とみどりのムーブメント”、“新たな国際MICE”としての今後の展開にも注目したい。
「Fukuoka Flower Show Pre-Event」
会 場:福岡市植物園内
日 程:2025年3月23日(日)~27日(木)10:00~21:00(最終日は17:00まで)
概 要:
・一般エリア(動植物園入園料で入場可能なエリア):飲食・物販、各種イベント、ライトアップ等
・特別エリア(動植物園入園料のほかに、入場チケットが必要なエリア):シンボルガーデン、ガーデンコンテスト、ベランダガーデン、レストラン・カフェ、物販、ライトアップ等