イベントマーケティングの分類。6つの分類軸とマトリクス思考

「イベントマーケティング」という言葉を聞いて思い浮かべるものは、人によって驚くほど違う。ある人は大規模な展示会への出展を思い浮かべ、別の人は少人数のセミナーを思い浮かべ、また別の人はSNS連動のポップアップ企画を思い浮かべる。同じ言葉を使っていても、実は全く別の施策について話しているというすれ違いは、この分野の会議で頻繁に起きている。

このすれ違いが生まれる理由は単純だ。イベントマーケティングには「分類の軸」が複数あり、多くの人が無意識のうちにそのうちの一つだけを基準に話しているからだ。ある人は手法(展示会かセミナーか)を基準に、別の人は目的(認知拡大かリード獲得か)を基準に、また別の人は規模(大規模か小規模か)を基準に、それぞれ違う軸で「イベントマーケティング」を語っている。異なる軸を基準にした発言同士は、表面上は対立しているように見えても、実際には全く矛盾していないことがある。

この記事では、手法・目的・参加形態・開催形式・主催形態・規模という複数の分類軸を整理し、自社の施策が全体の中でどこに位置するのかを把握できるようにする。単なる用語整理にとどまらず、複数の軸を掛け合わせて自社の施策を棚卸しする実践的な手順まで扱う。

この六つの軸は、既存の手法一覧や目的一覧をなぞるためのものではない。むしろ、既に個別に整理されている手法や目的といった要素を、どのような座標軸の上で組み合わせて捉えればよいかという、いわば「軸そのものの地図」を提供することを目指している。個々の要素の詳細よりも、要素同士の関係性を見渡す視点を持ち帰ってもらうことが、この記事のねらいだ。

なお、六つという数は絶対的なものではない。企業によっては予算規模や開催地域といった、ここに挙げていない軸が重要な意味を持つこともあるだろう。この記事で示す六つの軸は、多くの企業に共通して当てはまる基本形として提示するものであり、自社に固有の軸があれば、それを七つ目、八つ目として追加していく発想も歓迎したい。

なぜ一つの軸では分類しきれないのか

「展示会は手法だ」「認知拡大は目的だ」という言い方自体は正しい。しかし実務の会話では、この「手法」と「目的」という異なる次元の言葉が、しばしば同じ並びで語られてしまう。「うちは展示会と、あとは認知拡大もやっている」という発言は、実は比較対象が噛み合っていない。展示会は手法の名前であり、認知拡大は目的の名前だからだ。展示会という手法を使って認知拡大という目的を達成することもあれば、同じ展示会という手法でリード獲得という別の目的を狙うこともある。

この混同は、社内の企画会議で深刻な行き違いを生むことがある。ある担当者が「今年は展示会をやめて、セミナーに切り替えよう」と提案したとき、それが手法の話なのか、目的の話なのかが曖昧なままだと、議論が噛み合わない。本当に変えるべきなのは手法なのか、それとも目的の設定の方なのか。この切り分けができていないと、同じ堂々巡りの議論を毎年繰り返すことになる。

さらに厄介なのは、軸の混同が起きていること自体に、当事者が気づきにくいという点だ。会議の場で「展示会かセミナーか」という手法レベルの議論をしているつもりが、実は参加者の一人は「認知拡大かリード獲得か」という目的レベルの話をしている、というすれ違いは、外から見ていても気づきにくい。双方が同じ言葉(展示会、セミナーなど)を使っているように見えて、実際には全く異なる次元の判断基準で発言しているため、議論が噛み合わないまま時間だけが過ぎていく。

この種のすれ違いを解消する最も簡単な方法は、会議の冒頭で「今はどの軸について話しているか」を明示的に確認する習慣を持つことだ。「これは手法の話か、目的の話か」と一言確認するだけで、以降の議論がその軸に沿って進むようになり、無用な堂々巡りを避けられる。単純な工夫だが、複数の軸が存在するという前提を共有していなければ、そもそもこの確認自体が発想に上らない。

複数の軸を意識する効用は、単に頭の整理にとどまらない。ある施策を「手法軸ではA、目的軸ではB、規模軸ではC」というように多次元で捉えられれば、自社のイベント施策全体を俯瞰したときに、どの軸で偏りが生じているかが見えてくる。例えば「手法はすべて展示会」「目的はすべて認知拡大」「規模はすべて大規模」という偏りがあれば、そこに手を打つ余地があることに気づける。逆に、軸を意識せずに「イベントをたくさんやっている」という量的な安心感だけで判断してしまうと、実は同じ軸の組み合わせを繰り返しているだけで、施策としての多様性を欠いているという事実に気づけないまま時間が過ぎていく。

この分類軸の整理は、新しく担当者になった人材への引き継ぎにも役立つ。「うちのイベント施策」とひとことで説明されるより、六つの軸に沿って体系立てて説明された方が、新任担当者は全体像を早く理解できる。属人化しがちなイベント企画のノウハウを、軸という共通言語に落とし込むことは、組織としての再現性を高める効果も持つ。

特に、長年同じ担当者がイベント企画を担ってきた組織では、なぜその手法・その規模・その参加形態を選んでいるのかという判断基準が、担当者個人の経験則の中に暗黙的に蓄積されていることが多い。担当者の異動や退職に伴い、この暗黙知が失われてしまうリスクは常に存在する。六つの軸に沿って過去の判断を明文化しておくことは、こうした知識継承のリスクに備える意味でも有効だ。

手法軸による分類 六つの代表的な形式

まず手法という軸から見ていく。イベントマーケティングとはで整理した通り、代表的な手法は六つに大別できる。

展示会・見本市への出展は、業界の専門展示会に出展し、来場者との対面接点を作る手法だ。自社展示会・プライベートショーの開催は、自社主導で会場を用意し、招待客に向けて製品・サービスを展示する手法になる。セミナー・カンファレンス・ウェビナーは、専門知識や業界トレンドを発信し、見込み顧客を教育・育成する手法だ。体験型イベント・ポップアップは、商品やブランドの世界観を体感してもらうことを主眼とする手法である。スポーツ・エンタメイベントへのスポンサーシップは、既存の大規模イベントに協賛し、ブランド露出と体験機会を得る手法だ。ユーザーコミュニティ・ファンダムイベントは、既存顧客・ファン同士が交流する場を設計し、コミュニティの結束を強める手法になる。

これら六つの手法は、それぞれ得意とする目的、適した参加形態、想定される規模が異なる。展示会出展は比較的多様な目的に対応できる汎用性の高い手法である一方、自社展示会やユーザーコミュニティイベントは、既存顧客との関係を前提とする分、汎用性よりも特定の目的への特化度が高い。手法を選ぶ際には、この汎用性と特化度のバランスを意識しておくと、後の目的軸との掛け合わせがスムーズになる。

六つの手法のうち、複数を組み合わせて実施するケースも実務では珍しくない。展示会出展の会期中に、自社ブース内で小規模なミニセミナーを開催する、スポンサーシップを提供しているスポーツイベントの会場内に自社の体験型ブースを設置する、といった具合に、一つの機会の中で複数の手法を重ね合わせる設計も可能だ。この場合、手法軸は単一の値ではなく、複数の値を同時に持つものとして捉える必要がある。

手法そのものの詳細な特徴は既にピラーページで扱っているため、ここではこの六分類が「手法軸」という一つの分類軸に過ぎないことを押さえておきたい。次に見る目的軸と組み合わせることで、初めて実務上の意味を持つ整理になる。手法だけを見て「うちはこの手法をやっている」と満足してしまうと、その手法が今の自社にとって最適な目的に紐づいているかどうかの検証が抜け落ちてしまう。

 

目的軸による分類 五つの目的との交差

イベントマーケティングの目的で詳しく扱った通り、目的は認知拡大・リード獲得・関係深化・社内コミュニケーション・行動変容の五つに大別できる。この目的軸は、手法軸とは独立した、別の次元の分類だ。

重要なのは、一つの手法が複数の目的に対応しうるという点だ。展示会出展は、認知拡大にもリード獲得にも使える手法であり、実際の現場では両方を同時に狙うことも多い。逆に、同じ「認知拡大」という目的でも、展示会出展で狙うこともあれば、スポンサーシップで狙うこともある。手法と目的は、それぞれ独立した軸でありながら、自由に組み合わさる関係にある。

この交差関係を図式的に捉えると、六つの手法×五つの目的で、理論上は30通りの組み合わせが存在することになる。もちろんすべての組み合わせが等しく現実的というわけではなく、社内コミュニケーションという目的に展示会出展という手法を当てるのは無理があるように、相性の良し悪しは組み合わせによって異なる。それでも、自社が普段選んでいる組み合わせが、この30通りのうちのごく一部に偏っていないかを意識するだけでも、施策の幅を広げるヒントになる。

特に見落とされがちなのが、ユーザーコミュニティ・ファンダムイベントという手法と、行動変容という目的の組み合わせだ。この組み合わせは、既存のコミュニティ活動を「なんとなく続けている」状態から、「参加者の具体的な行動をどう変えたいか」を明確にした運営へと引き上げる余地を持つ。手法としては既に実施しているが、目的軸との掛け合わせを意識してこなかった、という組み合わせがないか、あらためて点検してみる価値がある。

この交差を意識せずに「うちは展示会をやっているから認知拡大はできている」と考えてしまうと、実際には展示会という手法を使いながらリード獲得という別の目的を優先すべきだった、というズレに気づけない。手法を選ぶ前に目的を定め、その目的に対してどの手法が最適かを検討する、という順序が本来は望ましい。多くの現場では、この順序が逆転し、「来年も同じ展示会に出る」という手法の決定が先にあり、目的はその後付けで語られがちだという点は、目的の記事でも触れた通りだ。

参加形態による分類 オープン参加と招待制

三つ目の軸は、誰が参加できるかという参加形態だ。オープン参加型は、事前登録さえすれば誰でも参加できる形態で、業界の主要展示会や公開セミナーがこれにあたる。リーチの広さが最大の強みで、まだ接点のない潜在層にもアプローチできる。

招待制は、対象者をあらかじめ絞り込み、招待した相手だけが参加できる形態だ。既存の優良顧客向けカンファレンスや、決裁者クラスを対象にしたラウンドテーブルなどがこれにあたる。参加者の質をコントロールしやすく、一人当たりの接客密度を高めやすいという強みがある反面、リーチできる母数は限られる。

参加形態には、この二つの中間形態も存在する。例えば「一定の条件(業種・役職など)を満たす人だけが申し込める」という半オープン型や、「まずはオープンに申し込みを受け付け、定員を超えたら選考する」という段階的な絞り込み型などだ。純粋なオープン型と純粋な招待制の二択で考えるのではなく、その間のグラデーションの中でどの位置を選ぶかという発想を持つと、より柔軟な設計ができる。

参加形態を選ぶ際には、対象者に「選ばれた」という感覚を与えられるかどうかも、副次的だが軽視できない効果を持つ。招待制のイベントは、招待されたという事実そのものが、参加者にとって一種の特別感を生む。この特別感は、単なる情報提供以上の心理的な価値を持ち、参加後のロイヤルティにも影響を与える。オープン参加型では得にくいこの効果を、目的次第では積極的に活用する価値がある。

この軸は、目的軸と強く連動する。認知拡大を狙うならオープン参加型が合理的であり、関係深化を狙うなら招待制の方が効果を発揮しやすい。手法軸・目的軸に参加形態軸を重ねることで、「展示会(手法)で、認知拡大(目的)を、オープン参加(参加形態)で狙う」というように、施策の輪郭がより具体的になる。参加形態を安易に決めてしまうと、本来招待制で密度を高めるべきだった施策をオープンにしすぎて薄まってしまったり、逆に本来オープンで広くリーチすべきだった施策を過度に絞り込んでしまったりする失敗につながる。

実務では、一つの大きなイベントの中に、オープン参加ゾーンと招待制ゾーンを併設するという設計も見られる。展示会全体はオープン参加としつつ、その中の一角に招待制のVIPラウンジを設ける、といった構成だ。参加形態という軸も、イベント全体で単一の値を取るとは限らず、一つの施策の中で複層的に使い分けられるものだという理解を持っておくと、より柔軟な企画が可能になる。

開催形式による分類 リアル・オンライン・ハイブリッド

四つ目の軸は、開催形式だ。リアル開催は、実際の会場に人が集まる従来型の形式で、体験の密度という点で最も強みを発揮する。オンライン開催は、ウェビナーや仮想展示会のように、インターネット上で完結する形式で、地理的制約なく参加者を集められる。ハイブリッド開催は、その両方を組み合わせ、会場での体験とオンラインでの配信を同時に提供する形式だ。

この軸については、イベントマーケティングとオンラインマーケティングの違いで扱った、体験の密度とリーチの広さのトレードオフがそのまま当てはまる。リアル開催は密度を、オンライン開催は広さを取る形式であり、ハイブリッド開催はその両立を狙う代わりに、企画・運営の難易度が上がるという特性を持つ。

ハイブリッド開催については、単に「リアル会場を用意しつつ配信もする」という足し算的な発想では、どちらの参加者にとっても中途半端な体験になりやすいという実務上の課題がある。会場参加者向けのプログラムと、オンライン参加者向けのプログラムを、それぞれ独立して設計し直す発想の方が、結果的に双方の満足度を高めやすい。開催形式の選択は、単なる技術的な判断ではなく、目的軸・参加形態軸との組み合わせで決まるべきものだ。招待制で関係深化を狙うイベントであれば、多少コストがかかってもリアル開催を選ぶ価値があるし、オープン参加で認知拡大を狙う情報発信であれば、オンライン開催の方が費用対効果に優れることが多い。

また、開催形式は一度決めたら固定というものでもない。同じイベントを、初年度はリアル開催で始め、規模の拡大に伴って翌年からハイブリッド開催に移行する、あるいは逆に、オンラインで小さく始めた勉強会が定着したことを受けてリアル開催に格上げする、といった形式そのものの見直しも、事業の成長段階に応じて検討する価値がある。

主催形態による分類 自社開催か、他社イベントへの参加か

五つ目の軸は、そのイベントを自社が主催するのか、それとも他社が主催するイベントに参加者・出展者として加わるのかという主催形態だ。

自社開催は、自社展示会・自社セミナー・ユーザーコミュニティイベントのように、企画から運営まですべてを自社でコントロールする形態だ。プログラム構成、会場の世界観、参加者の招待基準まで、細部にわたって自社の意図を反映できる。反面、集客・会場手配・運営のすべてを自社リソースで賄う必要があり、負担は大きい。

他社イベントへの参加は、業界の主要展示会にブースを出す、大規模カンファレンスにスポンサーとして協賛する、といった形態だ。集客や会場設営といった負担の多くを主催者に委ねられる一方、プログラム構成や来場者層は主催者の設計に依存し、自社でコントロールできる範囲は限られる。

この二つの中間には、共催という形態もある。複数の企業が費用と労力を分担しながら一つのイベントを共同で主催する形式で、単独では実現しにくい規模のイベントを、リスクを分散しながら実施できるという利点がある。ただし、共催する相手企業との間で目的やブランドイメージのすり合わせが必要になり、単独開催にはない調整コストが発生する点には注意が必要だ。

共催という形態は、業界内での協力関係を構築する副次的な効果も持つ。競合関係にある企業同士が、業界全体の発展という共通の大義のもとで共催イベントを実施するケースもあり、これは単なるコスト分担にとどまらず、業界内でのポジショニングを再定義する機会にもなり得る。

こうした共催関係を築くうえでは、どの企業と組むかという相手選びが、施策の成否を大きく左右する。単に費用を折半できる相手ではなく、目的軸(何を目指すイベントか)について認識をすり合わせられる相手であるかどうかが、共催を成功させる前提条件になる。

この軸は、企業の予算規模やリソース状況と強く関係する。自社開催は初期投資と運営負荷が大きいため、一定の顧客基盤とリソースを持つ企業に向いており、他社イベントへの参加は、限られたリソースで露出を得たい企業にとって現実的な選択肢になる。企業の成長段階が進むにつれて、他社イベントへの参加が中心だった施策構成から、徐々に自社開催の比重を高めていくという移行は、多くの業界で見られる典型的なパターンだ。

この移行のタイミングを見誤ると、二つの失敗パターンが生まれる。一つは、まだ顧客基盤が薄い段階で無理に自社開催に踏み切り、集客が伴わず閑散としたイベントになってしまうケースだ。もう一つは逆に、既に十分な顧客基盤があるにもかかわらず、他社イベントへの参加に頼り続け、自社の世界観を存分に表現する機会を逃し続けてしまうケースだ。自社の現在地を定期的に見直し、主催形態の軸を適切なタイミングで切り替えていく判断力が求められる。

この見直しの判断材料としては、既存顧客からの紹介や口コミによる新規接点の割合、業界内での自社の認知度に関する定性的な手応えなど、複数の指標を組み合わせて総合的に見ていく必要がある。単一の指標だけで主催形態を切り替える判断を下すのは早計であり、複数年にわたる傾向を見ながら、じっくりと判断していく姿勢が望ましい。

規模による分類 大規模イベントと小規模イベント

六つ目の軸は、イベントの規模だ。大規模イベントは、数千人から数万人規模の来場者を集める形態で、業界内での露出・権威性の獲得に強みを持つ。「この業界の主要プレイヤーである」という認知を、規模そのものが後押しする効果がある。

小規模イベントは、数十人から数百人規模のクローズドな勉強会や交流会のような形態だ。一人当たりに割ける時間と密度が高く、深い関係構築に向いている。大規模イベントでは埋もれてしまうような個別の疑問や関心にも、丁寧に対応できる。

規模を考えるうえで見落とされがちなのが、「規模の大小は、参加者一人ひとりにとっての体験の質と、必ずしも比例しない」という点だ。大規模イベントであっても、動線設計やスタッフの接客の工夫次第で、来場者一人ひとりが特別扱いされていると感じられる体験を作ることはできる。逆に小規模イベントであっても、企画が練られていなければ、参加者にとって退屈な時間になってしまうこともある。規模はあくまで母数の話であり、体験の質を保証するものではないという点は、混同しないよう意識しておきたい。

大規模イベントの中に、意図的に小規模な体験を埋め込むという設計も可能だ。大規模展示会のブース内に、事前予約制の少人数向け個別相談スペースを設けるといった工夫は、規模という軸を単純な二択ではなく、一つのイベントの中に複数の規模感を共存させるという発想の表れだ。規模軸についても、他の軸と同様、単一の値に固定されるものではなく、一つの施策の中で使い分けられるものだという理解を持っておくとよい。

規模の選択は、目的軸・参加形態軸との組み合わせで判断すべきものだ。認知拡大を最優先する段階では大規模イベントへの出展が合理的だが、既存顧客との関係深化を優先する段階では、あえて規模を絞った招待制の小規模イベントの方が効果を発揮しやすい。

中規模という第三の選択肢も忘れてはならない。数百人から千人程度の規模は、大規模イベントほどの露出力はないものの、小規模イベントよりも幅広い層にリーチでき、なおかつ一定の密度も保てるという、両者の中間的な特性を持つ。地域単位・業種単位で対象を絞った中規模カンファレンスなどが、この位置づけにあたる。大規模か小規模かの二択ではなく、この中規模という選択肢も含めた三段階で考えると、より柔軟な規模設計が可能になる。

六つの軸は互いに独立しているか

ここまで六つの軸を順に見てきたが、これらの軸は完全に独立しているわけではなく、実務上はいくつかの組み合わせが特に相性が良く、逆に無理のある組み合わせも存在する。

例えば、大規模かつ招待制という組み合わせは、実現のハードルが高い。招待制で参加者の質をコントロールしようとすればするほど、対象者リストは絞り込まれ、必然的に参加人数は減っていく。数万人規模でありながら完全招待制、という設計は、よほど広範な招待対象リストを持つ企業でなければ現実的ではない。

逆に、小規模でありながらオープン参加という組み合わせも、注意が必要な組み合わせだ。定員に限りがある小規模イベントをオープン参加にしてしまうと、想定より多くの申し込みが集まった場合に、急遽選考や抽選を行わざるを得なくなる。小規模で密度の高い体験を狙うのであれば、参加形態も招待制や事前選考型にしておく方が、企画と実際の運営の整合性が取れる。

こうした軸同士の相性を意識しておくことで、「理論上は成立するが実務上は無理のある組み合わせ」を避け、より現実的な施策設計に近づけることができる。

同様に、自社開催かつ大規模という組み合わせも、相応のリソースを要する組み合わせだ。自社ですべてをコントロールしながら数千人規模の集客を実現するには、集客力のあるコンテンツや登壇者、そして相応の広報活動が必要になる。この組み合わせを実現できている企業は、多くの場合、既に相当の顧客基盤やブランド力を持つ企業に限られる。自社の現在地を踏まえずにこの組み合わせを目指すと、企画倒れに終わるリスクが高い。

分類を掛け合わせるマトリクス思考

ここまで六つの軸(手法・目的・参加形態・開催形式・主催形態・規模)を見てきたが、実務で最も価値を持つのは、これらを単独で見るのではなく、掛け合わせて一つの施策を捉える視点だ。

例えば「新製品を、認知拡大目的で、オープン参加の、リアル開催の、他社主催の展示会に、大規模な形で、出展する」という一文は、六つの軸すべてを一度に言い表している。この解像度で施策を言語化できれば、なぜその施策を選んだのか、他の組み合わせと比べてどう違うのかが明確になる。

逆に、この解像度を欠いたまま「今年も展示会をやる」とだけ決めてしまうと、目的軸・参加形態軸・規模軸のどれもが前年踏襲のまま固定され、環境や自社の状況が変化しても施策が更新されない、という硬直につながりやすい。マトリクス思考とは、六つの軸それぞれについて「今回はどちらを選ぶか」を毎回意識的に選び直す姿勢のことだ。

このマトリクスは、複数のイベント施策を一覧化する際にも役立つ。自社が現在実施している、あるいは検討している施策を、六つの軸に沿って一行ずつ書き出していくと、どの軸に偏りがあるかが視覚的に見えてくる。手法はすべて展示会、目的はすべて認知拡大、規模はすべて大規模、という偏りが見つかれば、それは意図的な選択なのか、それとも単に前例を踏襲しているだけなのかを、あらためて問い直す機会になる。

実際の一覧表をイメージすると、列に六つの軸(手法・目的・参加形態・開催形式・主催形態・規模)を並べ、行に個々の施策名を並べる形になる。この表を埋め終えたとき、特定の列(軸)の値がすべて同じ言葉で埋まっていれば、それは組織としてその軸のバリエーションを持てていないことの表れだ。逆に、ある軸だけが施策ごとにばらばらの値を取っていれば、その軸については既に多様性が確保されていると判断できる。列ごとの値の分布を眺めるだけで、軸ごとの多様性の有無が一目で分かるようになる。

マトリクスを社内で共有する際には、一覧表という形式そのものにも価値がある。個々の担当者がそれぞれ異なる施策を担当している組織では、自社全体としてどのような組み合わせの施策が実施されているかを俯瞰する機会は意外と少ない。マトリクスを作成し共有するプロセス自体が、部門を超えた施策全体の可視化につながる。

分類軸の変遷 時代とともに増えてきた軸

六つの軸は、最初からこの形で存在していたわけではない。歴史的に見ると、イベントマーケティングの分類軸は時代とともに増えてきたという経緯がある。

かつて、イベントマーケティングといえば手法軸だけで語られることがほとんどだった。展示会に出るか出ないか、という二択に近い判断で予算が決まっていた時代には、目的軸を明示的に切り分ける必要性は薄かった。しかしデジタルマーケティングが台頭し、施策ごとの投資対効果が比較されるようになると、目的軸を明確にしないと他の施策と比較できない、という圧力が働くようになった。目的軸の重要性が語られるようになったのは、比較的最近の変化だ。

開催形式軸についても同様の経緯がある。オンライン開催・ハイブリッド開催という選択肢自体が一般化したのは、2020年代に入ってからのことであり、それ以前はリアル開催が当然の前提で、開催形式という軸そのものが意識されていなかった。今では、企画の初期段階で開催形式を検討することが当たり前になっている。

こうした変遷を踏まえると、今後も新しい軸が加わっていく可能性は十分にある。例えば、生成AIの活用度合い(AIを活用した個別最適化を行うか、従来型の一律運営かなど)が、将来的には独立した分類軸として意識されるようになるかもしれない。分類軸そのものを固定的なものと考えず、時代の変化に応じて更新していく柔軟性を持つことも大切だ。

サステナビリティへの配慮度合いも、今後独立した軸として扱われる可能性がある領域の一つだ。会場や資材の環境負荷への配慮を、単なる運営上の一検討事項として扱うか、企画の根幹に位置づけるかによって、イベントの設計思想は大きく変わってくる。現時点ではまだ既存の軸(手法や目的)の中に埋め込まれて語られることが多いが、社会的な関心の高まりとともに、独立した分類軸として扱われるようになっていくことも考えられる。

自社の施策を分類してみる実践的な進め方

理論の整理を踏まえて、実際に自社の施策を棚卸しする手順を示す。

まず、現在実施している、あるいは検討しているイベント施策を、思いつく限りすべて書き出す。展示会出展、社内キックオフ、顧客向けセミナー、スポンサーシップなど、規模の大小を問わず、思い出せる限り列挙する。この段階では取捨選択をせず、思いつく限り網羅的に挙げることを優先する。

次に、書き出した施策それぞれについて、六つの軸(手法・目的・参加形態・開催形式・主催形態・規模)を一つずつ当てはめていく。目的軸については、複数の目的が混在している場合、主目的を一つに絞って記入する(この絞り込み方はイベントマーケティングの目的で詳しく扱っている)。一人で判断が難しい項目があれば、実際にその施策を担当しているメンバーに確認しながら埋めていくとよい。

すべての施策に軸を当てはめ終えたら、一覧表として俯瞰する。手法軸の欄がすべて同じ言葉で埋まっていないか、目的軸の欄に偏りがないか、参加形態軸がすべてオープン参加になっていないか、といった観点で表全体を見渡す。偏りが見つかった箇所こそが、来年度以降の施策見直しの出発点になる。

この棚卸しは、一度作って終わりにするのではなく、年に一度、予算編成のタイミングなどで見直す定例作業として組み込むことが望ましい。事業のステージや市場環境が変われば、最適な軸の組み合わせも変わっていく。棚卸し表を継続的に更新していくことで、施策全体が固定化せず、状況の変化に応じて柔軟に組み替えられる状態を保てる。

棚卸し表は、社内のイベント予算全体を説明する際の資料としても転用できる。経営陣に個々の施策を一つずつ説明するのではなく、一覧表を見せながら「この軸は手厚く、この軸は手薄」という説明ができれば、限られた説明時間の中でも施策全体の意図を効率的に伝えられる。棚卸しの手間は、こうした副次的な用途を通じて、単なる自己満足の整理作業以上の価値を持つようになる。

最後に、見つかった偏りに対して、意図的に別の軸の値を試す施策を一つ加えてみることを検討する。展示会一辺倒だった手法軸に、小規模な招待制セミナーを加えてみる、認知拡大一辺倒だった目的軸に、既存顧客向けの関係深化施策を加えてみる、といった具合だ。すべてを一度に変える必要はなく、六つの軸のうち一つか二つを意図的に動かすだけでも、施策全体のバランスは大きく変わってくる。

この棚卸しと見直しのプロセスは、一人の担当者だけで完結させるよりも、関係する複数のメンバーを巻き込んで行う方が効果的だ。一人の視点では気づけない偏りも、複数の視点を持ち寄ることで見えてくることがある。また、棚卸し表を関係者全員で共有すること自体が、六つの軸という共通言語を組織に浸透させる機会にもなる。

分類軸を使い分けることが特に重要になる場面

六つの軸を意識した整理が、単なる思考の整理を超えて実務上の価値を発揮する場面がいくつかある。

一つは予算交渉の場面だ。経営陣に来年度のイベント予算を説明する際、「昨年と同じ規模で」という説明では、なぜその規模・その手法・その目的の組み合わせを選んだのかという根拠が伝わりにくい。六つの軸に沿って「今年は関係深化を目的に、招待制の小規模イベントの比重を高める」というように説明できれば、予算配分の意図が明確に伝わり、経営陣の納得も得やすくなる。

二つ目は、複数の部署がそれぞれ独自にイベント施策を持っている組織における、全社的な棚卸しの場面だ。マーケティング部門、営業部門、人事部門がそれぞれ独立してイベントを企画していると、気づかないうちに似たような組み合わせの施策が重複していたり、逆に特定の組み合わせが完全に手つかずのまま放置されていたりする。六つの軸を共通言語として各部署の施策を並べることで、こうした重複や空白が可視化される。

この全社棚卸しは、部署間の縦割り構造が強い組織ほど価値を発揮する。マーケティング部門が認知拡大目的の展示会出展を計画している一方で、人事部門が採用ブランディングを目的にほぼ同じ展示会への出展を独自に検討している、といった重複は、部署が分かれているために気づかれないまま並行して進んでしまうことがある。六つの軸に沿った一覧化は、こうした部署間の見えない重複を洗い出す機会にもなる。

三つ目は、新しいイベント施策を提案する場面だ。「なんとなく面白そうだから」という理由だけで新しい施策を始めてしまうと、既存の施策群の中でその新施策がどう位置づけられるのかが不明確なまま進んでしまう。六つの軸に沿って新施策の位置づけを説明できれば、それが既存施策の穴を埋めるものなのか、それとも既存施策と重複するものなのかを、提案の時点で判断できる。

分類軸を組織の共通言語にする

最後に、ここまで見てきた六つの軸を、単発の分析で終わらせず、組織の共通言語として定着させることの意義に触れておきたい。

多くの組織では、イベント施策に関する会話が、担当者ごとの感覚的な言葉遣いに委ねられている。「今回はしっかりめのイベント」「がっつり系の展示会」といった曖昧な表現は、話者の頭の中にあるイメージを共有する助けにはなるが、他の担当者に正確に伝わるとは限らない。六つの軸という共通の語彙を組織内に定着させることで、こうした曖昧な感覚的表現に頼らずに、施策の意図を正確に伝え合えるようになる。

この共通言語化は、一度の説明会や資料配布だけで浸透するものではない。企画書のフォーマットに六つの軸の記入欄をあらかじめ設けておく、施策の振り返り会議で必ずこの軸に沿って評価する、といった形で、日常業務の中に軸を組み込んでいくことで、徐々に組織全体の語彙として根付いていく。

定着の度合いを測る簡単な目安として、担当者以外のメンバーが、ある施策について六つの軸のうち少なくともいくつかを自然に言い当てられるかどうかを見てみるとよい。「あのイベントは招待制の小規模なやつだったよね」という会話が担当者以外の口からも自然に出てくるようになれば、共通言語としての定着が進んでいる証拠だ。

まとめ

イベントマーケティングは、手法・目的・参加形態・開催形式・主催形態・規模という、少なくとも六つの異なる軸から分類できる。これらの軸は互いに独立していながら自由に組み合わさるものであり、一つの軸だけで施策を語ろうとすると、実務上の混乱やすれ違いを生みやすい。

分類そのものは目的ではなく、自社の施策が全体のどこに位置し、どこに偏りがあるかに気づくための道具にすぎない。六つの軸を意識的に組み合わせ、時には意図的に別の組み合わせを試すことこそが、毎年同じ施策を繰り返すだけの状態から抜け出す第一歩になる。そして、この軸を個人の頭の中だけにとどめず、組織全体の共通言語として育てていくことが、属人化を防ぎ、施策の再現性を高める土台になる。

イベントマーケティングという手法そのものの全体像については、イベントマーケティングとはの記事で詳しく解説している。目的別のKPI設計についてはイベントマーケティングの目的で、オンライン施策との使い分けについてはイベントマーケティングとオンラインマーケティングの違いで、それぞれ詳しく扱っているので、あわせて参考にしてほしい。

こうした施策の実例は、月刊イベントマーケティングの事例・インタビュー記事でも数多く紹介している。

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