青・黄・赤、3段階のヘルメット着用義務――インテックス大阪 安全大会2026レポート

青・黄・赤、3段階のヘルメット着用義務――インテックス大阪 安全大会2026レポート

展示会場という「一つの現場に多くの会社、多くの人が集まる」特殊な空間で、ヘルメットは誰が、いつ、どこまで被るべきものなのか。8月4日、インテックス大阪で開かれた「安全大会2026」には、来場者数は341名、協賛は66社とともに過去最多となった。東京国際フォーラムやAichi Sky Expoといった新たな施設も名を連ねた。2017年の初開催から9回目を迎えたこの大会で語られたのは、9月から始まるヘルメット着用ルールの試験運用を軸に、主催者・施工者・施設という三者それぞれの現場感覚のズレをどう埋めていくか——その率直なやり取りだった。

丸一日をかけて行われたこの大会には、午前から午後にかけて5本のオープンセミナー、そして15時から始まる本編に、来賓紹介、開会挨拶、2本の基調講演、パネルディスカッション、業界団体の委員長挨拶、実務者向け講演、安全標語の表彰、そして安全宣言まで、実に多くのプログラムが詰め込まれていた。本稿では、その一日を最初から最後までできるだけ丁寧にたどっていく。

開会に先立つ5つのセミナー

本編に先立ち、会場では希望者向けのオープンセミナーが5本用意されていた。ひとつは午前中に開催された業界ビギナー向けの「会社組織内での人的コミュニケーション思考」(NPO法人日本舞台技術安全協会)、そして実務者向けに13時から2会場で並行開催された「フォークリフト安全講習」(トヨタL&F近畿株式会社)と「事故ゼロで創る展示会」(サクラインターナショナル株式会社)、「保護帽の正しい装着方法」(株式会社 谷沢製作所)、「“困っていない今”だからこそ変える ― 電動リフトでつくる効率と安心の現場」(株式会社 レンタルのニッケン)だ。

システムパネルの構造を知る——「事故ゼロで創る展示会」

このうち、システムディスプレイ部材の実演を交えた「事故ゼロで創る展示会」を担当したのは、サクラインターナショナル生産本部製作管理部の竹下勇治さんと、同部の岸本沙耶さん。展示会場で日常的に組み立てられているシステムパネル(アルミフレームによる組み立て式の壁材)について、その仕組みと施工上の注意点が、実際の組み立て実演とともに語られた。

竹下さんはまず、システムパネルという工法そのものの成り立ちから説明した。もとはドイツで開発された「オクタノルムシステム」と呼ばれるアルミ製フレームのユニットシステムで、特許が切れたことで各国のメーカーが類似製品を製造するようになり、「オクタパネル」「システムパネル」と総称されるようになったという。特徴は大きく3つ。ひとつはポールの断面が八角形になっていることで、45°単位の自由な壁配置や多角形ブースの構成が可能になる点。もうひとつは高さ2.7mという日本での標準規格。そして3つ目が、現場での木材加工や塗装が不要で、解体後もすべて回収して次の現場で再利用できるという環境面での優位性である。木工ブースが「完全自由設計」を可能にする一方でほぼすべて廃棄処分になるのに対し、システムパネルは規格の制約こそあるものの、施工スピード、コスト、廃棄物ゼロという点で優れている——という比較も示された。

続く岸本さんの実演パートでは、実際の施工の流れが5つの工程に沿って解説された。まず部材の搬入。フォークリフトやテールゲートリフターを使う場合もあれば、小規模な現場では車での搬入もあるという。搬入と同時進行で行われるのが「墨出し」と呼ばれる作業で、床に白いガムテープをL字に貼り、ブース一つひとつの大きさと位置を示す。これがないと、どこに何を立てればいいか分からなくなり、通路の面もガタガタになってしまうという。

墨出しが済んだところから、ポールを垂直に立て、フレームを順々につなげていく組み立て作業に入る。ポールは連結すればするほど壁が不安定になりやすいため、必要箇所には随時補強を入れる。アルミ部材を組み終えたところから板材(壁面)を入れ、最後に上部のフレームを固定する——という流れだ。ここで岸本さんが強調したのが、「わずか1ミリの床のガタつきが、後々大きな事故を生む」という点だった。柱の高さが2.7mにも及ぶため、床面での数ミリのズレが上部では数センチのズレにまで拡大してしまう。柱が歪むと、固定用の爪がうまく溝に引っかからず、仮止め状態のまま危険な形で残ってしまうこともあるという。また、システムパネルによる箱型のブースは、隣接するブース同士が支え合うことで強度を保つ構造になっており、一箇所でも人が寄りかかったり地震動が加わったりすると、連鎖的に崩れる危険もあると説明された。

事故防止のポイントとしては、「風による事故が一番多い」ことが真っ先に挙げられた。シャッター付近での搬入や、シャッター開閉時の作業には特に注意が必要だという。ほかにも、フォークリフトの接触、車両同士の事故、車両と作業者の接触といった車両関連の事故が現場で最も多いこと、長さ3〜4mにも及ぶ長尺の部材を運ぶ際は必ず2人で声をかけ合いながら作業することなど、実務に即した注意点が次々と示された。竹下さんは最後に、現地責任者が意識すべき3つのポイント——混雑時の動線管理と作業スペースの確保、働き方改革を踏まえたゆとりある工期設定、そして年々深刻化する熱中症リスクへの対策——を挙げ、「事故のない現場は、施工会社の技術だけではなく、主催者様、施設管理者様、そして施工に携わる全員の協力があって初めて実現します」と締めくくった。

床のわずかな歪みが上部で大きなズレになり、風という気をつけていても防ぎきれない要因が事故につながる——この2つの指摘は、後半の本編で繰り返し語られることになる「1ミリの油断が重大事故につながる」というテーマの、いわば伏線のように響いた。

開会——9回目という重みと、過去最多の協賛

15時、司会の開会宣言とともに、安全大会2026の本編が始まった。まず来賓として、大阪市経済戦略局立地推進部長の木下直樹さんと、同局国際経済拠点担当課長代理の青木紘美さんが紹介された。続いて主催者である一般財団法人大阪国際経済振興センターの役員として、理事長の長沢伸幸さん、常務理事でインテックス事業本部長の近藤秀樹さんら、そしてインテックス大阪運営共同企業体を構成する鹿島建物総合管理株式会社から、関西四国支社副支社長の菅野智博さん、営業部部長の奥一郎さん、支社次長の宗正真さんが紹介された。

開会の挨拶に立った長沢理事長は、まず参加者への感謝を述べたうえで、この大会の歩みを振り返った。インテックス大阪安全大会は2017年に初開催され、今年で9回目。協賛企業数は回を重ねるごとに増加を続け、今回は過去最高となる66社に達したという。展示会の主催者、施工会社、スタッフ会社、協力会社に加え、東京ビッグサイト、幕張メッセ、パシフィコ横浜、大阪国際会議場といった全国の常連施設が名を連ね、さらに今回新たに東京国際フォーラムと愛知スカイエキスポが協賛に加わったことも報告された。「皆様の安全への意識が年を重ねるごとに向上している結果、協賛企業者数が増加していると実感しております」という長沢理事長の言葉には、9年間の積み重ねに対する手応えがにじんでいた。

長沢理事長はこの後のプログラム——中央労働災害防止協会による講演、インテックス大阪によるヘルメット着用厳格化の説明、日展協安全対策委員会によるパネルディスカッション、日本ヘルメット工業会によるヘルメットの選び方講演——を順に紹介し、「安全・安心な展示会、楽しく素晴らしい展示会が全国で開催され続けることを祈念いたしまして」と挨拶した。

講演①「労働災害のない安全な現場をつくるために」——法改正がもたらす主催者の義務

最初の講演に立ったのは、中央労働災害防止協会 近畿・大阪安全衛生総合サービスセンターの閨一繁さん(参事・安全衛生管理士)。テーマは「労働災害のない安全な現場をつくるために」で、大きく3つの柱——主催者の安全配慮義務、混在作業場所における安全管理、そして設営・撤去でのヘルメットの必要性——に沿って話が進められた。

「予見できたか」が問われる時代

閨さんはまず、安全配慮義務の範囲を示す図を用いて説明を始めた。労働者の重大な過失にあたる部分を除き、事故災害がどこまで予見でき、想定できていたかが問われる時代になっているという。安全衛生法などの特別法、告示やガイドライン、社内の安全規定、そして「予見可能な危険」への対策——これらすべてが求められるなかで、展示会の主催者には安全配慮義務があり、安全管理責任者を選任して安全を最優先に管理する必要があると強調された。

もし重大災害が発生した場合、責任の重さは想像以上に大きい。民事責任では1億〜2億円規模の賠償例もあり、現場での安全配慮の度合いが金額を左右する。刑事責任では社長や担当者個人が問われることもある。そして最も痛手が大きいのが社会的責任だ。今はニュース報道だけでなくSNSで瞬時に情報が拡散し、企業の信用低下、場合によっては大企業の倒産にまでつながる事例があるという。だからこそ、主催者、出展者、協力会社など関係者全員による安全管理の徹底が必要になる、というのが閨さんの導入だった。

「作業場所管理事業者」としての主催者

続いて閨さんは、2027年4月に施行される法改正について説明した。混在作業場所(展示会場など)を管理する事業者は、法律上「作業場所管理事業者」と位置づけられ、今回のケースではこれが主催者にあたる。主催者には、労働災害を防止するための安全の措置や連絡調整が義務として課される。対象は主催者や出展者だけではない。出入り業者、運送業者、協力業者、外注先の個人事業主に至るまで、現場で働くすべての人が対象であり、雇用契約の有無は関係ない。「自社の社員だけ見ていれば良いという考えは通用しなくなりました」という一言が、この法改正の意味を端的に表していた。

ここから閨さんは、主催者と出展者、それぞれに求められることを3点ずつ整理した。

主催者について。1点目は、混在作業による災害防止のための連絡調整だ。定期的な巡視パトロールを行い、手ぶらではなくチェックリストを用いること。範囲が広い場合はエリアごとに複数人で分担すること。パトロールで特に見るべきは「不安全な状態」と「不安全な行動」——なかでもヘルメットの未着用は代表例であり、事故・災害のほとんどがこの2つに関係しているという。見つけた際は単に注意するだけでなく、理由を聞いたうえで作業従事者本人に納得してもらい、自覚を持たせることが大切だと閨さんは述べた。

2点目は、出展者に連絡調整担当者の選任状況を通知させ、これを把握すること。誰が担当か分からなければ誰に連絡すればいいかも分からない。一覧表を作り、会場マップに落とし込むことでより把握しやすくなる。可能であれば、そもそも混在作業が生じないようスケジュールや施工時間の調整を検討すること。それが難しい場合でも、出展者同士の作業が干渉しないよう調整することが望まれる。

3点目は、出展者のブース設置・撤去に用いる機械の持ち込み状況の把握だ。義務ではないが、電動工具の防爆仕様や自主検査の実施状況、フォークリフトや移動式クレーンの資格の有無などを確認することが望ましいとされた。特に重量物の運搬は死亡事故につながることもあるため、作業方法の確認が重要だという。

出展者に求められることも3点。現場の責任者(できれば正副2名)の選任、協力業者や個人事業主に依頼する際の人員確認と安全ルールの周知(事故の多くは出展者本人よりも協力業者や個人事業主で起きているという指摘は印象的だった)、そして機械設備の検査・点検の確認である。あわせて、インテックス大阪の利用案内から抜粋された実務上の心得——常に整理整頓を行うこと、熱中症など健康状態の把握、周囲への配慮、そして原則二人での作業——も紹介された。二人作業についても、声かけや意思疎通の不足が重大災害につながる例があるとして、事前の役割分担、指揮命令系統の明確化、そして相手の目を見て声を掛け合うという基本動作の徹底が求められた。

こうした安全対策は、令和に入ってからの法改正により個人事業主にも同様に求められるようになったという。かつては個人事業主に法律の適用がなく自己責任とされていた部分も、今は労働者と同じ水準の安全確保が求められる。構造規格や安全装置を欠く機械の使用禁止、フォークリフトや移動式クレーンの定期自主検査、そして高所作業やテールゲートリフター操作に必要な特別教育の受講——これらの確認も、主催者・出展者双方に求められる責務として説明された。

「多分大丈夫だろう」が生んだ事故

3つ目のテーマであるヘルメットの話で、閨さんは実際の労働災害事例を紹介した。展示用のブースを設営するため高さ3メートルほどのパネルを2人で組み立てていたところ、声かけや合図など意思疎通が不十分でパネルが外側に倒れ、それを支えようとした作業者が足をもつれさせて後ろ向きに転倒、床に後頭部を強打して脳挫傷を負った——という事例だ。この被災者は、形式検定を受けたヘルメットを実際に持参していたにもかかわらず、「多分大丈夫だろう」という理由で着用していなかったという。中には、この種の事故で寝たきりになり仕事ができなくなった例もあるとされた。

労働安全衛生規則では、事業者が労働者に保護具を着用させる義務があると同時に、労働者自身にも保護具を着用する義務が定められている。万一の際、労働者側にも過失相殺が生じうるという点も踏まえ、閨さんはヘルメットの必要性を3点に整理した。見た目のスマートさよりもプロとしての安全意識を持つこと。「これぐらいなら大丈夫」という油断が命取りになりうること。そして、イベントの成功はすべての人が無事であってこそ成り立つということ——たった一人の不安全な行動が、関わった全員の努力を無にしてしまうこともある。

講演の最後、閨さんはこう締めくくった。仕事における最も重要な業務は「家に無事帰ること」である。どれほど大切で華やかなイベントであっても、人間の命より優先されるものはない。大切な家族や仲間のもとへ、今日と同じ姿で無事に帰るために、現場に入るときはヘルメットを着用してほしい——。

講演②「ヘルメット着用の厳格化について」——9月から始まる3段階運用

続いてマイクを取ったのは、一般財団法人大阪国際経済振興センター インテックス事業本部(営業・催事運営担当)部長の長内克幸さん。この日の本題である「ヘルメット着用の厳格化について」が語られた。

混在作業という構造的な難しさ

長内さんはまず、インテックス大阪が9年前からこの安全大会を続けてきた背景として、展示会での作業が持つ独特な組織構造を挙げた。設営・撤去作業は「主催者作業」と「出展者作業」の大きく2つに分かれる。主催者作業は主催者自身が発注・管理するため比較的把握しやすい一方、出展者作業は出展者ごとに施工内容や体制、作業工程が大きく異なり、主催者が事前にすべてを網羅的に把握・管理することは「展示会の規模・内容にもよりますが、かなり困難」だという。

さらに、設営・撤去現場では主催者、出展者、装飾施工会社、電気工事会社など多数の事業者が同時に出入りし、それぞれが独自の施工計画と指揮命令系統のもとで作業を進める。床下で電気工事会社が配管作業をし、その脇で装飾施工会社がパネルを立て、隣接するパネルの上でまた別の電気工事会社が配線作業をし、その隣で出展者が展示物を並べる——こうした光景が日常的に同時進行するのが展示会場だ。混在しているのは作業工程だけでなく、そこで働く人材そのものでもある。隣同士で働いていても、経験年数も所属会社も、そしておそらく安全意識も異なる。だからこそ、現場全体を単一の組織として管理することが極めて難しい、というのが長内さんの現状認識だった。

2026年4月の労働安全衛生法改正により、混在作業場所における元方事業者等への措置義務対象が拡大されたことを踏まえ、長内さんは「主催者だけでなく、出展者、施工会社、協力会社、そして我々施設も含めて、全ての関係者が安全に対する共通認識を持ち、それぞれの立場で安全確保に取り組むことが重要」と語った。

そのための提案として、事前にできることが3点示された。ひとつは、出展者に対して安全面で信頼できる施工会社を選定してもらうこと。特に海外パビリオンや海外主催者によるB2Cイベントの設営時には、海外と日本国内の安全基準に隔たりがあり、日本の基準を逸脱した作業が行われるケースがあるため、注意を呼びかけた。2つ目は、出展者作業を把握し、安全に配慮したスケジュール調整を行うこと。今後インテックス大阪では、主催者に対して安全作業計画書の提出を求めていくという。3つ目は、施設マニュアル等で設営・撤去作業に常に危険が伴うことを伝え、出展者から施工委託先へ主催者の定める規定を正確に伝達してもらうことだ。加えて、現場での安全パトロールの徹底や、場内放送・サイン看板による継続的な注意喚起も必要だとされた。

青・黄・赤——3段階の着用レベル

いよいよ本題のヘルメット着用厳格化について、長内さんは毎年共有している動画事例から話を始めた。展示会設営初日、トラックからの荷卸し作業中に、木工パネルを高く積んだ台車がリフト上で斜めに傾いて地上に倒れ込み、それを支えようとした作業員が下敷きになったという事故だ。ヘルメットを着用していたため右足の骨折・全治2週間で済んだが、荷の重量や頭の打ち所によっては死亡災害につながってもおかしくない事案だったという。インテックス大阪ではこのほかにも、パネルの転倒、玉掛け作業中の落下、脚立からの落下など過去に何件かの大きな事故があったが、いずれも死亡事故に至らなかった要因のひとつとして、作業員がヘルメットを着用していたことが挙げられるという。

こうした背景から、インテックス大阪は9月からヘルメット着用の厳格化に踏み切る。ただし長内さんは、大前提として「作業現場に出入りする全ての人がヘルメットを着用する方が最も安全である」としつつも、インテックス大阪は試験や同人誌イベント、物販、就活イベント、握手会など危険性の低い利用形態も多く、全ての作業員に一律にヘルメット着用を厳格化することは現段階では考えていないと明言した。今後は現場の状況や利用者の意見を聞きながら、規定が安全な作業に本当に寄与するかどうかを検証し続けていくという姿勢が示された。

9月から試験運用として導入されるのが、着用レベルを「青(任意)」「黄(推奨)」「赤(必須)」の3段階に分ける仕組みだ。主催者は安全管理責任者と協議のうえ、現場の作業工程ごとにこの3段階を設定し、周知することが求められる。判断基準は、混在作業がなく危険性も低ければ「任意」、混在作業がありつつ危険性が低ければ「推奨」、混在作業があり危険性も高ければ「必須」というシンプルなものだ。

「任意」と判断する具体的な条件としては、危険性を伴う作業がなく平地での単独作業が中心である場合、安全区画が明確に区分されている場合、通路幅が確保され現場全体を見渡せるなど視認性が十分な場合、そして大規模な施工が終わり局所的な手直し作業のみが残っている場合——の4つが示された。

長内さんは、自社が共催する大阪国際ライフスタイルショーを実例に、設営から撤去までのシーンごとに着用レベルがどう移り変わるかを詳しく説明した。設営開始直後、線引きや一部配線作業のみが行われている段階は「任意」。ただし実際には基礎施工会社や電気工事会社の作業が中心となるため、各社の安全基準に基づき着用しているケースが多いという。車両の侵入が始まり備品搬入や壁面施工が進む段階では、視認性の観点からは「任意」でもよいところを安全側に判断し「推奨」に設定。出展者作業が本格化し、通路に資材や台車があふれ、出展者自身も少しずつ増えて混在が発生しやすくなる段階では「必須」。ブースの建て込みが完了し、局所的な手直しが中心になる段階では再び「任意」に戻る——というように、同じ展示会のなかでも段階に応じて基準が上下する運用イメージが共有された。

そして、最も強調されたのが撤去の時間帯だった。会期終了後、一斉に撤去が始まるこの時間帯は最も混在が生まれやすく危険性も高い。出展者の侵入のない場所からの区画撤去や車両侵入時間の管理など、事前に施工会社や警備会社と連携して混在作業をできる限り避けることが求められる。本格的な撤去が始まる段階は「必須」、撤去が進み視認性が向上してきた段階では「推奨」、最終の清掃段階に近づくと「任意」——という具合に、この時間帯だけでも段階的な運用が組まれている。「インテックス大阪において最も事故の報告が多いのが撤去の時間帯です」という長内さんの言葉は、この日繰り返し語られた「撤去=最大のリスク」という認識を象徴するものだった。

こうした運用を支えるのが、新たに導入される「安全作業計画書」だ。主催者と安全管理責任者が事前に作業内容を整理し、危険の洗い出しと安全対策の検討を行い、その計画を現場全体で共有することで、安全意識の向上と事故の未然防止を図る狙いがある。インテックス大阪は2026年9月からこの試験運用を開始し、2027年4月からの本格運用を目指すとしたうえで、長内さんは「制度をより良いものにするためには、現場の皆様のご意見が欠かせません」と、来場者への協力を呼びかけた。

パネルディスカッション「ヘルメットを被ろう」——三者三様の現場感覚

休憩をはさんだ後半、この日いちばんの見どころとなったのが、一般社団法人日本展示会協会安全対策委員会による「ヘルメットを被ろう インテックス大阪の取り組みと実現に向けて」と題したパネルディスカッションだった。登壇したのは、株式会社マッシュ代表取締役社長の渋谷紀之さん、RX Japan合同会社執行役員会場運営本部長の川村知哉さん、そしてインテックス大阪施設管理担当の永田伸幸さん。永田さんが進行役を務める形で議論が進んだ。

ヒヤリハットの現在地

冒頭、永田さんが投げかけたのは「展示会の運営・設営作業において、どのような危険な状況、ヒヤリとした状況があったか」という問いだった。まず答えたのは川村さん。よくある事故として真っ先に挙げたのは、ブースの壁が倒れるという事例だった。冬場や春先には、搬入中にシャッター周りでブースが倒れることが「3回か5回に1回の会期でやっぱりある」という。加えて、テールゲートリフターでの積み込み・積み下ろし時の荷崩れも非常に多いとし、実際にインテックス大阪の安全大会の資料映像として過去に使われた事故も自社の現場のものだったと明かした。

続いて渋谷さんが語ったのは、自社の成り立ちと、業界としての取り組みの歴史だった。マッシュは展示会施工の人材を派遣する会社であり、十数年前、東京・関東のある現場で、主催者側が「ヘルメットを脱いでやっていいよ」と言ってしまったことがきっかけで、実は死亡事故が立て続けに2件起きたという。この経験から、大阪で馴染みのある人材企業——ユニティー、サンアップ、ラインナップ、ムーブ、ハンデックス、ワンダーグループなど、合計16社——とともに「一般社団法人イベント展示会安全施工推進会」という団体を立ち上げ、「会場に入ったらずっとヘルメットを被ろう」という方針を10年近く貫いてきたと語った。

これを受けて永田さんは、インテックス大阪でも安全パトロールを実施しているが、脚立作業でのヘルメット未着用や天板作業での違反が今も何件か見つかっていると明かした。テールゲートリフターやユニックでの荷造り・荷上げ・荷卸し作業中に荷が崩れて下敷きになる事例もあり、ヘルメットを着用していたことで打撲や骨折で済んだケースはあっても、幸い命に別状はなかったという。この実体験が、9月からの厳格化検討の背景にあることが示唆された。

ブース施工と出展者作業、線引きの現実

議論はここから、施工者・主催者それぞれの視点による着用レベルの考え方へと移っていく。まず川村さんが提示したのは、作業を「ブース施工」と「出展者の製品搬入」の2つに分けて考える枠組みだった。壁の倒壊や荷崩れが起きるブース施工については「絶対的にやっぱりやったほうがいい」と、着用の必要性を強く肯定する一方、単に製品を置くだけの出展者作業については、時間帯や作業内容に応じて線引きすべきだという整理だ。

渋谷さんは、これを受けて施工者としての立場をより率直に語った。会場内では施工・撤去の間じゅうずっと被るのが理想だとしつつも、実際には出展者にどう被ってもらうかが難しい。特に撤去時、隣のブースがまだ作業中でも自分のブースが終われば撤去を始めてしまう出展者もおり、上での作業中に物が隣のブースへ落ちてしまうといったヒヤリハットも実際にあるという。撤去時間が限られ、皆が急ぐなかで「なるべくしてなるような事故」が起こりがちだと述べたうえで、渋谷さんはこう言い切った。

 「とにかく施工者さんはかぶりましょう、っていうことを強く言いたいですね」

日展協が実施したアンケートでは、ヘルメットを被らない理由として「危険性を感じない」「必要性を感じない」「格好悪い」という声が挙がっているという。渋谷さんはこれに対し、建築系の安全大会でよく使われる「寸を許せば尺まで」という言葉を引き、「まあいいか」という妥協が少しずつ広がっていくことが結局は事故につながると指摘した。

これに川村さんも同意を示しつつ、出展者が被らない理由をさらに掘り下げた。出展者が被らないのは「かっこ悪いから」ではなく、単純に「危なくない、危険性を感じてないから」だという分析である。ブースが倒れて出展者本人が下敷きになった例や、上から物が落ちて頭に当たった例は、自身の現場では聞いたことがない。荷崩れやブース倒壊の被害に遭うのはむしろ施工側だという実感から、施工の人には絶対に被ってもらう一方、出展者については製品搬入が始まる会期前日の午後や、撤去終了後1時間程度は「推奨」にとどめ、それ以降は「必須」とする——という、現実的な線引き案が示された。会社からの指示があれば比較的容易に着用率を高められる施工者と、そうした指示系統を持たない出展者との差が、そのまま議論の構造になっていた。

さらに川村さんは、こうした議論を単なる印象論で終わらせず、業界としての事故の統計を数字化していく必要性にも触れた。「危ない危ない」と言われていても実は事例が少ないのか、それとも自分たちが知らないだけで実際には多くの事故が起きているのか。会場側が把握しているであろう救急対応の件数なども含め、対策を打った結果が数字として現れるようにすることで、誰もが納得できるかたちで着用の普及を進めていきたいという。最終的な目標はヘルメットを被らせることそのものではなく、頭部における事故を減らすことだという言葉には、手段と目的を取り違えないための冷静な視点が感じられた。

出展者への啓蒙と、他施設の事例

議論は、撤去後1時間の搬出時間帯における車両規制の運用や、電気工事会社が照明器具を取り外す際の安全確認など、より現場に即した具体的な話題にも及んだ。永田さんの「照明を外す作業はすぐに人が入っている状態で行われているのでは」という懸念に対し、川村さんは、下に人がいる状態で電気屋が作業を進めることは通常ないという認識を示しつつ、もし実際にそうした事故事例があるなら現行の運用(撤去後1時間の設定)を見直す必要があるとも述べた。

渋谷さんはさらに、出展者に対する啓蒙の必要性を訴えた。テールゲートリフターでの積み下ろし作業には本来ヘルメット着用が義務づけられているが、施工者はこれを知っていても、出展者はその決まり自体を知らないケースが多いという。「先ほどの動画のような事故がいつ起きてもおかしくないな」という危機感を示し、こうした基本的なルールの周知を主催者や施設側にも呼びかけた。あわせて、出展者自身が搬出作業を行うケースは実際にはそれほど多くなく、多くは運送会社や倉庫会社に外注されており、そうした委託先の作業員はきちんと指導されて着用している実感があるという川村さんの見解も語られた。それでも渋谷さんは、予算の都合で出展者自身が作業を行うケースが一定数あることを安全パトロールの経験から指摘し、時間帯による「推奨」の運用と、脚立作業やテールゲートリフター使用時の「義務」を組み合わせることで、声かけのしやすさを確保していく方向性を示した。

「任意・推奨・必須」という3段階の周知方法についても議論は及んだ。川村さんは、3段階では現場での説明が難しくなるとして、実務上は「つける」か「推奨」かの2パターンに拡大解釈して運用しているという実情を明かした。永田さんはこれに対し、基本的にはヘルメットを着用してもらう方向に振っていくことが望ましいと応じた。

話題はさらに、東京国際フォーラムの事例にも及んだ。渋谷さんの記憶では、同施設は完全着用を実現している数少ない施設のひとつだという。「やっぱり施設さんでこうやって『ヘルメットをかぶりましょう』って、正直やっとここまで来たんだっていう思いがすごく強いです」と語る渋谷さんの言葉には、10年前にユニティーの担当者とともにインテックス大阪を訪ね、当時の安全担当者から「(大阪弁で)やらなあかんで」と言われたところから始まった、長い年月の積み重ねへの実感がにじんでいた。「永田さんともずっとお話しさせていただいて、施設さんでこういうふうに打ち出していただいたっていうのは本当にありがたいなと思ってます」という言葉で、パネルディスカッションは締めくくりに近づいていった。

最後に永田さんは、この議論の続きを今後の日展協安全対策委員会で話し合っていくとしたうえで、9月からの試験運用でいただいた意見や今後発生する課題を改善しながら、来年度4月の本格運用に向けて安全・安心を確保していきたいと述べ、進行を日展協安全対策委員会の梶原委員長へとつないだ。

梶原委員長挨拶——「着用率はまだまだ低い」という率直な課題認識

日展協安全対策委員会の梶原委員長は、まずこの日集まった多くの参加者の安全意識の高さに触れ、「非常に勇気づけられるものがあります」と語った。パネルディスカッションで示されたような、それぞれの立場での安全に向けた議論を、安全対策委員会は日々行っているという。

インテックス大阪とは2022年に初めてコラボレーションして以来、安全大会のたびに委員会での取り組みを重ねてきた。受付で配布された安全月間(9月)に向けたリーフレットの制作なども、その啓発活動の一環だという。2024年3月には搬入撤去のガイドラインを策定したが、それから相応の時間が経った今も、「自分の会社の現場を見ると、まだまだ着用率というのがすごく低い」と梶原委員長は率直に認めた。これをどう引き上げていくかが大きな課題であるとし、「皆様のお知恵を拝借しながら確実に歩みを進めていきたい」という言葉で挨拶を締めくくった。

講演③「展示会業界に即したヘルメットの選び方」——「着けたくない理由」を技術でつぶす

パネルディスカッションに続いて登壇したのは、一般社団法人日本ヘルメット工業会事務局の原工司さん。演題は「展示会業界に即したヘルメットの選び方」で、10分程度という短い持ち時間ながら、実務に直結する具体的な情報が凝縮された講演だった。

原さんはまず、ヘルメットには「墜落時保護用」「飛来・落下物用」「電気用(絶縁用)」の3つの検定区分があり、用途に応じて必ず検定品を使用するよう呼びかけた。似たような見た目の「軽作業用」ヘルメットは、あくまで頭を軽くぶつけた際の怪我を予防するためのものであり、高所作業などには絶対に使用してはならないという。統計データも示された。昨年、墜落・転落によって全国で186名、大阪府内でも6名が亡くなっており、そのうち高さ2メートル以下での死亡例も一定数あるという。亡くならないまでも、昨年1年間で2万人以上が墜落・転落により休業4日以上の負傷を負っているといい、「ヘルメットをかぶっていれば必ず守れるかというと、そういうわけではありません」と、打ちどころの悪さによる限界にも言及した。

続いて紹介されたのは、着用率向上のための具体的なアイテムだった。装飾に傷がつくのを嫌ってヘルメットを避ける人向けには、後付けのヘルメットカバーや、はじめからカバー付きの製品がある。作業証を首から下げる際に引っかかりやすい問題には、クリップ式のカードフォルダーが有効だという。汗取りパッドについても紹介があったが、原さんはここで一つ注意を促した。タオルや帽子をかぶった上からヘルメットを着用すると、ヘルメットがずれやすくなり、転落・墜落時に脱げてしまう危険が高まるという。ヘルメットはできるだけ直接頭にかぶることが推奨され、どうしても必要な場合はメーカーが推奨するインナーキャップを選ぶべきだとされた。

あご紐がただ固定されているだけでなく、動かないよう二重に押さえる「ずれ防止機構」がついた製品や、内装をラチェット式で締められる製品なども紹介された。ただし頭の形状によってはこうした工夫をしても完全にずれを防げるわけではなく、注意は必要だという。ヘルメットのサイズは外寸がメーカーごとに異なるため、細かい作業で装飾にぶつかりやすい場合は小型タイプを選ぶこと、庇(ひさし)付きのタイプは上方の視界を確保しつつ落下物からの保護にもつながることなど、選び方のポイントが次々と示された。

暑さ対策としては、ヘルメットに送風機能を組み込んだ製品も紹介され、原さんは「あくまでも熱中症対策用というわけではない」としつつも、暑熱対策として一定の効果があると説明した。電車移動者向けには、開いた状態で14センチのものが8センチほどまで折りたためる折りたたみ式ヘルメットも紹介された。収納バッグについても、工具箱と一緒に保管すると傷がつくため、専用の袋で養生することが勧められた。

最後に原さんは、日本ヘルメット工業会が行っているヘルメットのリサイクル事業についても触れた。工業会と契約したうえで佐川急便を使って回収し、家電や建材、セメントの原燃料として再利用しているという。興味のある事業者には、工業会への問い合わせを呼びかけて講演は締めくくられた。

安全標語の表彰——「これくらい」省いた手順が 事故を呼ぶ

原さんの講演に続いて行われたのが、安全標語の表彰式だった。今回インテックス大阪で作業に携わるすべての人の安全意識を深めようと募集された標語には、多くの応募と投票が寄せられた。

優秀賞には、サクラインターナショナル株式会社の今井雄彦さんによる「魅せる会場 支える安全 無事故でつくる展示会」と、株式会社大阪シミズの佐々木 崇さんによる「声かけがつなぐ気づきと無事故の輪」の2作品が選ばれた。

そして最優秀賞は、KDDIエンジニアリング株式会社の寺崎 雅史さんによる、次の標語だった。

「『これくらい』省いた手順が事故を呼ぶ」

この最優秀賞作品は、一年間のスローガンとして展示館などに掲出され、施設利用者に向けて現場での安全作業を呼びかけていく。

安全宣言——「安全はルールやマニュアルだけを守るものではなく、人が守るもの」

そして大会の最後を締めくくったのが、株式会社ユニティー代表取締役社長の林洋一さんによる安全宣言だった。ユニティーは、パネルディスカッションで渋谷さんが語った「10年前に2人でインテックス大阪を訪ねた」というエピソードに登場する、まさにその人材会社である。

林さんはまず、参加者への感謝を述べたうえで、この日の安全大会を通じて改めて感じたことを語り始めた。

> 「本日、安全大会を通じて改めて感じました。それは、安全はルールやマニュアルだけを守るものではなく、人が守るものだということです」

私たちの業界は、一つの現場に多くの会社、多くの人が集まり、一つのイベントや展示会を作り上げていく。特にインテックス大阪では、1000人を超える人々が一つの現場で作業をするイベントや展示会が数多く開催されている。しかし会社が違っても、目指しているものは同じだと林さんは続けた。お客様に喜んでもらえるイベントや展示会を成功させること、そして何より、関わるすべての人が無事に家に帰ること。そのために必要なのは、ほんの少しの気配りと一言の声かけ、そして「自分だけは大丈夫」と思わない気持ちだという。

安全大会はもうすぐ終わるが、安全への取り組みに終わりはない。今日学んだことを、今日ここで共有した思いを、明日からの現場でぜひ実践してほしい——そう呼びかけたうえで、林さんは安全宣言を読み上げた。

 「私たちは、安全をすべてに優先し、ルールを守り、仲間との声かけと確認を徹底し、互いを思いやる心を忘れず、事故・災害ゼロの現場作りに取り組むことをここに宣言いたします」

現場は一社では作れない。だからこそ、安全も一社では作れない。今日集まった皆と力を合わせて、安全で最高の現場を作っていきたいと林さんは語り、渋谷さんの言葉にも触れながら、「安全大会を開催している施設はインテックス大阪様しか存じておりません。インテックス大阪様が目指されている安全の一助となれるよう、我々も邁進してまいります」と結んだ。

「皆様、ご安全に」という決まり文句とともに、インテックス大阪安全大会2026は閉会となった。

過程そのものが語られた一日

ヘルメットをかぶるかかぶらないか、という二択の話ではなく、主催者・施工者・施設という異なる立場の人間が、同じ現場で同じ結論にたどり着くまでの過程そのものが、この日は語られていた。

法改正によって「作業場所管理事業者」としての義務を負うことになった主催者。10年近く前の死亡事故をきっかけに、業界団体を立ち上げてヘルメット着用を貫いてきた施工会社。そして、9年間の安全大会と9月からの試験運用によって、施設として一歩を踏み出そうとするインテックス大阪。それぞれの立場から見える現場の景色は異なっていても、目指す先——関わるすべての人が無事に家に帰ること——は同じだった。

「とにかく施工者さんはかぶりましょう」という渋谷さんの率直な言葉も、「危なくない、危険性を感じてないから」という川村さんの冷静な分析も、「安全はルールやマニュアルだけを守るものではなく、人が守るもの」という林さんの安全宣言も、立場は違えど根っこの部分ではつながっている。9月から始まる試験運用は、その積み重ねの続きにすぎない。着用率がまだまだ低いという梶原委員長の率直な言葉のとおり、この先も試行錯誤は続くのだろう。だが、この日語られた率直なやり取りの積み重ねこそが、次の一歩を支えていくはずだ。

 

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