心理学でつくる五感統合デザイン ”なんとなく良い”から科学的根拠へ
- 2025/6/30
- シンユニティ
- #特集_空間を体験に変えるしかけ, symunity-archive

特集:空間を体験に変えるしかけ
イベント会場で、なぜか足を止めてしまう空間がある。気がつくと時間を忘れて見入っている展示がある。そこには偶然ではない、緻密に計算された”しかけ”が潜んでいる。 空間デザインは今、単なる装飾から”体験”を創造する戦略的ツールへと進化している。”見せられる”受動的な体験を”見る”能動的な体験へと転換し、来場者を主体的に変える設計。一方で、心理学や脳科学の知見を駆使し、五感に訴えかけて来場者の心理状態を積極的にコントロールする科学的アプローチ。さらには、木や紙といった素材の温かさで感情記憶を呼び起こす手触り感の演出や、来場者が自然と笑顔になる遊びごころの仕掛けまで。 「これは何だろう?」という疑問が行動を促し、行動が体験を生み、体験が記憶として定着。人々の感情と記憶に働きかけ、その人たちにとって意味のある時間を創出する。 本特集では、最新事例とメソッドを紐解き、イベントの価値と開催意義を高める”空間デザイン”の本質に迫る。
心理学でつくる五感統合デザイン ”なんとなく良い”から科学的根拠へ
株式会社シムディレクト(シンユニティグループ)

(写真:「Chaotic Calm」『イマーシブテクノロジー EXPO2025』シムディレクトブース)
イマーシブテクノロジーEXPO2025の会場に設けられた、足元から壁面までLEDディスプレイで囲まれた円形の空間「Chaotic Calm」は、お茶を飲みたくなる空間づくりをゴールとして、心理学を活用して五感に訴えるシムディレクトの新しい取組みの初のステージであり実験場でもあった。
DMN・AWE・色彩心理 視覚に訴え心動かす
映像を使ったしかけの1つが、”デフォルト・モード・ネットワーク”(DMN)という概念だ。外部への注意が向いていない時に活性化する脳の働きで、自分自身について考えたり、過去の記憶を振り返ったりする際に働く。この状態をスローモーションの映像で意図的に誘発することで、「自分に足りないものは何だろう」という心理状態を作る。
一方で、大手化粧品メーカーも研究する、身体の炎症を抑え、心や身体、さらには社会へもポジティブな効果があるといわれる”AWE(オウ)体験”と呼ばれる効果も取り入れている。自然の荘厳さなど”畏敬の念”を抱く映像を見て自分が矮小に感じる、それにより外側に意識が向くという。内向きと外向きの意識を交互に刺激する。心理的な欲求を刺激してから、豊かさを訴求するような映像や湧き水やお茶の葉のシーンを入れて解決策を提示するという、行動経済学的なアプローチと記憶定着の向上するしかけも含まれている。
照明設計では色彩心理学の知見を活用した段階的なアプローチを採用している。序盤の緑色照明は心理的な癒し効果、心拍数を上げる効果のある赤色照明で感情を盛り上げて、クライマックスにつながる起承転結を想起させる。体験後のアンケート回答時には一番頭が働きやすい白色照明をあてる。実証データに基づいた演出効果を活用して来場者の集中力を制御する。
ソルフェジオ周波数と時間軸で変化する香り
「Chaotic Calm」は、15.1chの立体音響を備える。コンテンツの序盤で音が動き回るように演出し、来場者の空間認識を曖昧にして没入させる。続くシーンで流れる幻想的な音楽には”ソルフェジオ周波数”と呼ばれる、人間の心理状態にいくつかの音程を組合せて設計されている。オープニングでは、来場者がリラックスできるように、癒しで不安から解放されるという528Hzの音を使用するなど、単なるBGMではなく心理的な導線を設計するための要素として活用している。
科学的アプローチは嗅覚にも働きかける。今回の香りのテーマはBreath of Tea。第一線の調香師と相談しながら、お茶が飲みたくなる香りの構成を、安全性を担保するためお茶成分を使わずに制作。序盤は清涼感、中盤の植物のイメージ、終盤は静寂と余韻といったように、時間経過とともに香り構成のバランスが変わることで、ストーリーの展開と香りがシンクロする。
心理学教授の助言を得て科学的検証による改善を
この心理学的手法は心理学の論文や先行研究を参考に、舛井奈緒さんたちが映像演出・空間デザインの手法で具現化した。この取組みにおいて今回の出展は「なぜ、心が動いたのか?」を紐解く、実験の第一段階にある。
各シーンでどういう感情を抱いたか、没入したポイント、興味の度合いによって体感時間に変化があったか、お茶を飲みたくなったか、など来場者にアンケートをした。質問内容や分析方法について中央大学の心理学分野の教授の助言を得て進め、演出手法と感情・行動変容の相対関係の測定を試みている。
シムディレクトではこのフィードバックを活かし、改善と効果検証を今後も続けていく。心理学的アプローチの導入により、空間演出は感覚的な評価から科学的な考証可能な領域へと進化を遂げつつある。
株式会社シムディレクト(シンユニティグループ) プロデューサー 舛井奈緒さん
出典:月刊イベントマーケティング No.121(2025年7月31日)特集「空間を体験に変えるしかけ」












