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expo study meeting vol.02 「クリエイターが考える 2025未来社会のデザイン」イベントレポート

2025年の国際博覧会(以下万博)が大阪で開催されることが決まり、スタートした「expo study meeting」。大阪のデザイン事務所「株式会社バイスリー」、同じく大阪のWebコンテンツ制作会社「株式会社人間」の2社が主催するこちらの勉強会では、クリエイティブ業界を牽引するゲストや参加者とともに、万博がやってくる近い未来に向けた取り組みについて語り合っている。

 

2019年4月12日、心斎橋ビッグステップにて第2回目となる「expo study meeting vol.02」が開催された。

 

今回は、地域再生やコミュニティデザインに精通した服部滋樹氏(graf代表)、山崎亮氏(studio-L代表)が登壇。「クリエイターが考える 2025未来社会のデザイン」をテーマに、街づくりの観点から万博を考える内容となった。

 

服部滋樹

graf代表、クリエイティブディレクター、デザイナー。

1970年生まれ、大阪府出身。美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップ、デザイン会社勤務を経て、1998年にインテリアショップで出会った友人たちとgraf を立ち上げる。建築、インテリアなどに関わるデザインや、ブランディングディレクションなどを手掛け、近年では地域再生などの社会活動にもその能力を発揮している。京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科教授。

 

山崎亮

studio-L代表、コミュニティデザイナー、社会福祉士。

1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。著書に『ふるさとを元気にする仕事(ちくまプリマー新書)』、『コミュニティデザインの源流(太田出版)』、『縮充する日本(PHP新書)』など。

 

第1部「成熟社会に万博を迎えて」

―2025年、日本が迎える「超長寿社会」

第1部は「成熟社会に万博を迎えて」をテーマに掲げた服部氏・山崎氏による対談。

まずは、第1回目として1851年に開催されたロンドン万国博覧会から1970年の日本万国博覧会まで美術史とともに振り返ります。そして話題は大阪万博を迎える2025年、日本が抱える社会課題へ。

 

服部:山崎くんとよく近未来の社会の状況について話してるんですよね。今日は、万博が開催される2025年に社会がどうなっているのか、我々で仮説を立てながらその課題を明らかにしていこうと思います。

 

山崎:2025年、日本は超長寿社会なんですよね。

 

服部:山崎くんはこの間、東京で『おいおい老い展』を開催してましたよね。

 

山崎:厚生労働省補助事業として、福祉や介護のこれからについてもっと多くの人が考えるきっかけづくりに取り組みました。全国でワークショップを同時開催し、介護や福祉について学びながら「私たちならこんなことをする」と、マニフェストを掲げてもらったんです。それらを集めて、最終的に東京で展覧会を開催。4月からは各チームが実現に向けて動き出しています。

『おいおい老い展』のプロジェクトの中から「死」について楽しく語り合う「ソトバカフェプロジェクト」など、ユニークなアイデアが多数生まれた

 

―超長寿社会に求められる「デザイン」とは

 

山崎:これをやってみて、日本が今、世界に打って出ることができる領域ってここ(介護・福祉)だよなと実感しました。高齢社会を何とかしないと待ったなしの状態の中「どんなデザインで解決するんだろう」と、世界が日本に注目しているんです。でも、ここでデザインというと「おしゃれな高齢者施設を作ろう」とか考えちゃうんですけど、全く違うんですよ! 「そもそも高齢者をひとところに集めるのはおかしい」というのが本来デザイナーが持つべき感覚で、社会の課題を鋭く見つけて解決するのがデザイナーの役目なんです。たとえば、在宅医療・訪問看護・ヘルパーといった仕組みを集約した拠点を地域に置く。そんな風に、仕組みそのものをデザインすることに力を発揮しないと、デザイナーは小手先の道具に使われてしまいます。

 

服部:確かに、そうなりがちだよね。

 

山崎:1970年の万博以降、デザイナーは企業のデコレーター的存在に変わってしまったんですよね。今、世界のデザイナーもそうなってきているので、2025年には「日本は違うんだ」と、「いのち輝く未来社会のデザイン」とはこういうものだというのを示さないといけないんじゃないかなと思っています。

 

服部:山崎くんは5、6年前から医療や介護のことを言ってるでしょ。前に、高齢者が増える一方でAIに仕事を取られていくという話をしてたじゃない。

 

山崎:そうそう。

 

服部:皆さんご存知だと思いますけど、これから病院のベッド数がどんどん足りなくなっていくんですね。かといって、若い世代が少なくなる中で病院を新しく建てるのは効率が悪い。

 

山崎:一人当たりのベッド数が多い県ほど医療費がかかってるんです。医療費が2割負担だとすると4割は税金、4割は医療保険ですから、お医者さんにかかる度に税金と保険のお金を引き出すことになります。自分たちの地域に病院を作れば作るほど、病院にかかる人が増えるという調査結果もあるんですよ。だから「病院が足りないなら作ればいい」っていうのは、国の財政と保険の仕組みを破綻させる方向に進む結果になってしまうんですよね。

 

―1970年に思い描いた「便利な社会」というファンタジー

 

服部:夕張市の例で、運営できなくなった病院のベッド数を減らしたら「健康にならなければ」と街中でお年寄りたちが歩き出したという話があったよね。水道局も運営できなくなったから各家庭で井戸を掘ったら井戸水を飲んで健康になった、とか。

 

山崎:意識が変わりましたよね。そうそう、キューバは今、オーガニック野菜の産地になってるんですよ。アメリカの経済制裁で何も輸入できなくなって、仕方ないから自分たちが出したものを肥料にして、育てて食べたものをまた出して…っていうのを繰り返していたら、オーガニック野菜の市場が出来上がっていたらしいんです。でも数年前にアメリカとの経済交流が復活したので、今後はどうなるかわからないですね。便利になるとか、進歩するとか、前の万博の時に夢見ていたことを突き詰めた結果をひと通り見て「そっちじゃないかもしれない」というのが今、少し見えてきていますよね。だから今回はそこからシフトした新しい未来像を見せなければいけないなと。

 

服部:キューバには畑もなかったわけでしょう。道路を剥がして、その下にある土で栽培を始めて。こういう「便利な未来社会」というファンタジーとは正反対のことがこれからも起こるっていうことを、どれだけリアルに感じているかが大事じゃないかな。最近、コンビニが薬局の役割を担い始めたりしてるけど、前に僕たちは「コンビニがナースステーションになる」っていう話をしてたんですよね。多分コンビニは今後もっと増えるので、ローカリティを高めるために、今のフランチャイズという仕組みから、周囲の人口や年齢のバランスを見て運営を考えていくという風に変わっていくだろうと。それが進んでいくと、病院のベッド数が足りない中でコンビニがナースステーションの役割も果たすだろうと考えています。

 

 

―未来社会の働き方はどうなる?

山崎:ドイツの調剤薬局では今、調剤をロボットに任せる仕組みが始まっているんです。処方箋を読み取って、大きなボックスに入った約3000種類の中から薬を出してきてくれる。「これとこれはセットで渡すことが多い」というようなことを自己学習で学ぶから、ボックスの配置などが効率的になっていって、仕事のスピードが早くなっていく。薬剤師の仕事は何かというと患者とのコミュニケーションで、その人がお医者さんに言えなかった悩みを把握して医者と情報共有したりするんです。こういう風に人間とロボットの役割分担が明確になっていって、生身の人間を劣悪な環境で働かせることはだんだんと成り立たなくなっていくだろうと思います。

 

服部:そういう世界が目の前に来ている、じゃあ2025年がどうなるか。第2部では「万博をターゲティングするなら?」という話を始めていきましょう。

 

山崎:素晴しいまとめだ(笑)

 

第2部「万博とコミュニケーションデザイン」

―万博を背負う行政の今

 

第2部では服部氏・山崎氏が主催者や参加者からの質問に答える形で「万博とコミュニケーションデザイン」をテーマに話した。

第2部では株式会社バイスリーの吉田氏(写真左)・栗原氏(写真右)、株式会社人間の山根氏(写真中央)が登壇

 

山根:第1部では海外の事例だったり最新のAI技術だったり、いろんなお話をしていただきましたが、行政はどんな取り組みをしているんでしょう? 民間企業が街づくりのために活動している一方、それがどこまで行政に伝わっているのかなと気になりました。

 

服部:さっきの「コンビニがナースステーションに」っていう話なんて、5年前ならそんな仮説が本当に形になるなんて思ってもみなかったけど、今は実際に計画が練られて実施もされ始めている状況でしょ。デザイナーにとって「未来はどういう風になるだろうか」と仮説を立てることってすごく大事だと思うんですよね。それと社会のムーブメントがマッチする瞬間がきっとあるはずなんです。

 

吉田:昔と今で行政のあり方や関わり方に変化はありますか?

 

服部:きっとこういう場にも興味を持って来られてると思いますよ。

 

山根:山崎さんは行政との関わりも深いと思うんですけど、有識者会議の雰囲気とかはどんな感じなんですか?

 

山崎:ちゃんとした感じですよ。もちろん「こういう方向に持っていきたい」というのはあるでしょうけど、万博に反対だった僕を呼ぶぐらいですから。反対というのは、今の時代「最先端を見せる万博」みたいなものはもうだめで「僕らが超長寿社会で何をしているのか」を示すくらいしか成り立たない、というのが僕の意見だったんですが、そういう発言も全部議事録に載せるし、公開もしているし、とても健全な委員会だったと思います。

 

―参加型のアクションが未来社会を変えていく

 

吉田:今日来てくださってる方は僕らと同じく、万博に関わることのできるきっかけがないか模索しているはずなんです。

 

山根:でも、窓口がないですもんね。

 

山崎:どんどん参加型に変えていった方がいいと思うんですけどね。愛知万博はそれがうまくいったケースなんですけど。素人の方がたくさん集まって、最終的に環境に対するそれぞれの意識がものすごく変わったんですよね。まさにこの勉強会でも参加型を実行していると思いますよ。

 

山根:僕たちも今回初めて万博について勉強してみて、どんどん頭が良くなってるような気がします。

 

一同:(笑)

 

服部:僕からもひとつ、山崎くんに質問したいんですけど、山崎くんは社会課題をどうやって発見してるんだろうっていつも思っていて。

山崎:誰か偉い人が教えることを見たり聞いたりするより、普通の人が集まって、調べて、発表してみることが課題発見に繋がっていくんだと思います。そしてそれを繰り返していくうちに、進め方・考え方というプロセスの部分がクリエイティブになっていく。そういうチームがいろんなところにできていくというのが、万博にとっても非常に重要だと思います。

 

服部未来の輪郭みたいなものを多角的に見ることが大事ですよね。この勉強会もそんな風に成長していくよう、今後も期待しています。

 

最後に、株式会社バイスリーの代表・吉田氏が「いろんな方の意見を聞きながら、この勉強会をバージョンアップさせていきたい」と締めくくった。

 

勉強会後は前回同様、交流会が開催され、ゲストの服部氏・山崎氏、参加者同士で楽しく交流を深める様子が見られた。

「expo study meeting」の試みはまだ始まったばかり。万博について知りたいという方はぜひ、参加してみてはいかがだろうか。

(取材・記事=山森佳奈子、写真=西畑将大)

 

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樋口陽子

樋口陽子

樋口陽子  月刊イベントマーケティング 編集長 MICE 研究所「イベントは体験提供の場」として、イベント現場で体当たり取材を行っている