古謝玄太氏当確——沖縄県知事選2026、17日間の選挙戦を、イベントとして読み解く

古謝玄太氏当確——沖縄県知事選2026、17日間の選挙戦を、イベントとして読み解く

接戦予測からゼロ打ちで、古謝氏が玉城氏を破る

沖縄県知事選挙は9月13日、投票締め切りとなった午後8時と同時に、報道各社が新人・古謝玄太氏(42)の当選確実を一斉に報じた。いわゆる「ゼロ打ち」——投票箱が閉まった瞬間に、開票作業を待たずに当確が打たれる形での決着である。任期満了に伴う第15回の知事選は、告示日の8月27日に過去最多となる6人が立候補を届け出ており、現職で3期目を目指した玉城デニー氏(66)と、元那覇市副市長の古謝氏による事実上の一騎打ちという構図が、17日間にわたり全国的にも高い注目を集めていた。

本稿では前半で今回の選挙戦の顛末を整理し、後半では月刊イベントマーケティングらしい視点から、選挙戦という17日間の営みを一つの「イベント」として——告示という開幕から、街頭演説やSNSでの発信、そして投開票という締めくくりまでを——読み解いてみたい。選挙をイベントの枠組みで語ることには違和感を持つ向きもあるかもしれない。だからこそ最初に断っておきたいのは、本稿の目的は特定の候補者や政策を評価することではなく、あくまで「人を動かし、意思決定を促す17日間の設計」として選挙戦の構造を眺めることにある。

ことには違和感を持つ向きもあるかもしれない。だからこそ最初に断っておきたいのは、本稿の目的は特定の候補者や政策を評価することではなく、あくまで「人を動かし、意思決定を促す17日間の設計」として選挙戦の構造を眺めることにある。

選挙戦の顛末——一騎打ちを制したのは、新人だった

告示日の8月27日、立候補を届け出たのは、現職の玉城デニー氏(66、無所属、立憲民主・共産・レキオ・社大・いのち・社民が支援)、新人で元那覇市副市長の古謝玄太氏(42、無所属、自民・公明県本部・維新・国民民主・参政・保守が推薦)、会社代表の兼島俊氏(48)、医療法人会長の末吉正広氏(73)、会社代表の比嘉隆氏(49)、政治団体「琉球独立党」代表の屋良朝助氏(74)の6人。1972年の本土復帰以降、最多の立候補者数となった。

もっとも実質的な争いは、県政の継続を掲げる玉城氏と、県政の刷新を訴える古謝氏の一騎打ちに収れんしていた。米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設への賛否、物価高騰対策、沖縄振興のあり方などが主な争点とされ、共同通信社が投開票の1週間前に実施した電話調査では、両氏が横一線で並ぶ情勢と伝えられていた。同調査で有権者に「次の知事に最も力を入れてほしい政策」を尋ねたところ「経済・観光・雇用」が46%で最も多く、「普天間基地の移設・米軍基地問題」が26%で続いた。経済を重視する層の7割は古謝氏、基地問題を重視する層の8割は玉城氏への投票意向を示していたとされ、政策的な争点が支持構造とほぼ重なる形になっていたこともうかがえる。回答者の1割弱は、最後まで投票先を決めかねていたという。

期日前投票は8月28日から9月12日までの16日間で34万7170人が利用し、8月26日時点の選挙人名簿登録者数117万6321人の29.51%に達した。これは前回2022年(29.92%)とほぼ同水準である。当日午後6時時点の投票率は25.56%で、前回同時刻を2.74ポイント上回るペースだったと県選挙管理委員会が発表している。離島の渡名喜村では期日前投票の利用率が5割を超えたとも報じられた。選挙戦の最終日となった9月12日夕方、古謝氏は那覇市泉崎で、玉城氏は那覇市おもろまちで、それぞれ最後の「打ち上げ式」に臨み、支持を呼びかけている。

選挙戦の期間中には台風18号が接近し、一部市町村でポスター掲示場の設置が告示前日までに完了しないという運営上のトラブルも発生したが、9月4日夕方の時点で全市町村での設置が完了した。また、玉城氏を装ったなりすましメールが出回るなど、誤情報や中傷の拡散が「宮城県知事選の3倍」の投稿量に達したとする報道もあり、SNS上の混乱も今回の選挙戦の特徴の一つとなった。

そして迎えた投票日の9月13日午後8時、投票締め切りと同時に、NHKをはじめとする報道各社は古謝玄太氏の当選確実を報じた。開票作業がまだ始まってもいない時点での確定的な報道、いわゆる「ゼロ打ち」である。古謝氏は1983年生まれの42歳、那覇市出身。地元の私立高校から東京大学に進み、総務省に入省してキャリアを積んだ後、2022年に沖縄へ戻り、同年7月の参議院選挙に38歳で挑戦して27万票余りを獲得したものの落選。同年12月に那覇市副市長に就任し、今年2月に辞職して今回の知事選に初挑戦していた。3期12年続いた「オール沖縄」勢力による県政から、保守系推薦を受けた新人への交代という結果になった。なお、開票作業による確定得票数や最終投票率などの詳細な数値は、確定次第あらためて追記したい。

選挙を「イベント」として読み解く

ここからは、この17日間の選挙戦を一つのイベントとして、6つの角度から眺めてみる。

「投票」という締め切りに向けた、逆算の17日間

選挙戦は、告示という「開幕の合図」から投開票という「動かせない締め切り」までが厳密に区切られた、期間限定のプロジェクトである。この構造は一般的なイベントと驚くほど似ている。告示日には各候補が第一声を上げ、以降は連日の街頭演説、個人演説会、そしてSNSでの発信を積み重ねながら、投開票日という一点に向けてすべてが収れんしていく。

ただし、一般的なイベントと決定的に異なる点も多い。まず「参加」が権利であり義務でもあるという性格を持つこと。来場するかどうかを自由に選べる展示会とは異なり、有権者は「参加しない」という選択もまた一つの意思表示として社会的に意味を持つ。また、締め切り後に何が起こるか——つまり当選者が誰になるか——によって、その後の県政運営や住民生活に直接的な影響が及ぶという点も、通常の企業イベントにはない重みである。

制度面から見ても興味深い。公職選挙法上、選挙運動として使えるツール(選挙カー、ポスター、ビラ、個人演説会など)は厳格に定められ、実施できる期間や数量にも上限がある。いわば「ルールブックが極めて厳密に定められたイベント」であり、主催者(この場合は各陣営)の裁量で自由に演出を変えられる範囲は、企業イベントに比べてはるかに狭い。この制約の中でいかに有権者の関心を引きつけるかという工夫にこそ、選挙戦特有のイベント設計の妙がある。

6陣営、17日間、143万人が有権者という規模

規模感を数字で捉えると、今回の知事選は6陣営が同時並行で展開する、県内最大規模の「同時多発イベント」と言える。有権者数は沖縄県全体で140万人規模に上り、投票所は各市町村に分散して設置される。期日前投票だけでも15日間で27万人超が利用しており、これは投開票日当日とは別枠で常時稼働する”来場者受付”が15日間続いていたことを意味する。

一般的な展示会が数日間の会期に来場者を集中させるのに対し、選挙戦は17日間という比較的長い期間をかけて、有権者との接点を積み重ねていく設計になっている。街頭演説は日々異なる地域を回り、離島を含む県内各地に足を運ぶ動線が組まれる。これは、限られた予算と人員の中で、県内全域という広大な「会場」を隅々までカバーしようとする、移動型イベントとしての性格を色濃く持っている。

「お金のかからない選挙」という制度設計

選挙運動の費用は、公職選挙法に基づく「選挙公営」という制度によって、一定の範囲が公費で負担される。選挙運動用自動車(いわゆる選挙カー)の使用や、ポスター・ビラの作成にかかる費用は、供託金没収点を超える得票を得た候補者に限り、あらかじめ定められた上限額の範囲内で自治体が業者に直接支払う仕組みになっている。これは、資産の多寡によって立候補や選挙運動の機会に差が出ないようにするための制度であり、いわば「イベント運営の最低限のインフラは公費で保証する」という発想に近い。

一方で、陣営が独自に投じる労力やコストも大きい。個人演説会の会場確保、ボランティアの動員、SNS運用、事務所運営など、候補者の資金力や組織力によって差が出る部分は依然として多い。加えて、選挙期間中には違法な事前運動用ポスターやのぼり旗の撤去命令が今回367件に上ったと報じられており、これは2022年の前回選挙(告示前101件)の3倍以上という規模だった。ルールの範囲内で最大限の露出を狙う陣営側と、それを監視する選挙管理委員会との間の緊張関係も、この種のイベントならではの費用構造の一部として捉えることができる。

県・市町村側が負担する開票作業や投票所運営などの執行経費も見逃せない支出である。数百カ所に及ぶ投票所の設営、開票作業に従事する職員の人件費、期日前投票所の運営など、選挙という「イベント」を成立させるための行政コストは、候補者側の選挙運動費用とは別建てで、県民の税金によって賄われている。

陣営の外側にいる、もう一つの当事者たち

選挙戦を「誰が設営しているのか」という視点で見ると、実はイベント業界に連なる専門業者が、思いのほか広く関わっていることが見えてくる。

投票所・開票所の側では、投票箱や記載台、投票用紙の読取分類機・計数機といった機材は、多くの自治体が独自に調達しているわけではない。この分野では東証プライム上場の株式会社ムサシが「投票用紙分類・計数機器で圧倒的シェア」を持つ選挙機材の専門メーカーとして知られており、自治体の有権者数に応じた機材構成や投開票所のレイアウト設計までを一括して提案している。会場そのものは小中学校の体育館や公民館といった公共施設が使われることが多いが、体育館の床を保護するブルーシートや案内サイン、記載台を並べるレイアウトの設営には、什器レンタルや会場設営を手がける業者が関わるケースもある。なお、投票箱・記載台を児童会選挙などの体験学習用に無償貸し出ししている自治体も多いが、これは本番の選挙で使う機材とは別枠の啓発用備品であり、実際の投開票を支えているのはムサシのような専門メーカーからの調達・リース機材である。

陣営側の選挙運動を見ると、街頭演説で使う選挙カーについては「選挙カー専門」を掲げるレンタル会社が全国に存在する。看板・音響機材・LED照明を一体化した専用車両を貸し出し、公費負担の申請書類作成まで代行するなど、公職選挙法や道路交通法を熟知した選挙専業のサービスとして確立されている。一方、出陣式や決起集会、個人演説会の会場設営——テントやステージ、音響・映像機材、看板の設置など——は、必ずしも選挙専業の会社が担っているわけではなく、一般的なイベント設営会社やレンタル什器会社が、他の展示会・式典と並ぶ一メニューとして「選挙事務所用品」を扱っているのが実情である。つまり、イベント業界が選挙に関わっているのは事実だが、それは選挙専用に特化した会社(選挙カー・選挙機材メーカー)と、汎用のイベント設営業がスポットで請け負う部分とが混在した構造になっている。

運営スタッフの面でも役割は明確に分かれる。投票所の受付や開票作業に従事するのは、自治体職員や選挙のために臨時雇用された人員であり、公的機関側が用意する人員である。対して、街頭演説の音響オペレーションやステージの設営・撤去、当日の会場整理などは、陣営が契約した業者のスタッフや、後援会のボランティアが担う。同じ「選挙イベント」の中でも、投票所側は行政が、陣営側の演出は民間の陣営・業者が、それぞれ独立して支える二重構造になっている点は、選挙という制度ならではの特徴だろう。

解散という号砲、満了という予定調和

もう一つ、選挙戦を「イベント」として捉えるうえで見逃せないのが、準備期間の長さがまったく異なる二種類の選挙が存在するという点である。

沖縄県知事選のように、現職の任期満了に伴って行われる選挙は、告示日・投開票日が数カ月から1年以上前の時点でほぼ確定している。今回の知事選も告示日8月27日・投開票日9月13日という日程は早くから見通されており、会場の確保や機材の手配、臨時職員の採用といった準備を、行政・陣営双方が十分なリードタイムを取って進めることができた。

対照的なのが、衆議院の解散に伴う総選挙である。衆議院の解散は「首相の専権事項」とされ、解散の時期そのものが直前まで公にならないことが多い。解散から40日以内に総選挙を行うことが定められており、公示は投票日の少なくとも12日前と、法律上の期限そのものが極めてタイトである。2026年1月に行われた衆院解散・総選挙では、1月23日に解散、27日に公示、2月8日に投開票という日程が組まれたが、これは解散表明からわずか2週間余りで全国の投票所・開票所を稼働させなければならないことを意味する。

この準備期間の違いは、イベント運営の現場に直接的な影響を及ぼす。投票所として使われることの多い小中学校の体育館や公共施設は、平時は地域のスポーツ大会や学校開放事業、少年野球の練習試合などに利用されている。任期満了による選挙であれば、こうした既存の予約と投票所としての利用日を早くから調整できるが、解散による急な選挙では、既に予約が入っているイベントや部活動の大会が投票日と重なってしまうケースが生じやすい。民間が運営する体育館などでは、既存の予約が入っている場合に選挙管理委員会側が施設を通じてキャンセルへの理解を求める調整を行う必要があるとされ、実際に2026年1月の解散総選挙をめぐっては、日程の唐突さから既にイベントの中止が決まる事例が報じられ、受験シーズンと重なったことによる混乱を懸念する声も専門家から上がっていた。

つまり、同じ「投票所の設営」という作業であっても、任期満了型の選挙では数カ月がかりで丁寧に会場調整ができるのに対し、解散型の選挙では、既存の地域行事や施設利用を強制的に押しのける形で、短期間に全国一斉の会場確保を行わなければならない。これは、イベント業界における「予定されたレギュラーイベント」と「急遽差し込まれる緊急対応イベント」の違いに近く、後者では会場側・施設利用者側との調整コストや軋轢が、前者よりもはるかに大きくなる構造だと言える。

告示前、どこまで「準備」が許されているのか

任期満了型の選挙のように開催日が早くから見通せる場合、陣営はいったいどこまで事前に動けるのだろうか。ここには公職選挙法上、明確な線引きがある。

公職選挙法は、選挙運動を「立候補の届出があった時から投票日前日まで」に限定しており、それより前に行う選挙運動、いわゆる「事前運動」を禁止している。この規定の狙いは、各候補者の運動開始時期をそろえ、資金力や組織力の差による不公平な先行スタートを防ぐことにある。ただし、これはあくまで「選挙運動」の禁止であって、「政治活動」そのものを禁じているわけではない。政治活動とは、政策や理念を広めたり、特定の候補者を支持・推薦したりする目的で行う活動のうち、投票を直接呼びかける「選挙運動」に当たらないものを指し、告示前であっても自由に行うことができる。

具体的には、政策説明会や講演会の開催、後援会報の発行・配布、後援会への加入呼びかけ、候補者選考会への参加といった活動は、いずれも「政治活動」として告示前から継続的に行うことが認められている。実際、今回の知事選でも、新人の古謝氏は3月23日の時点で出馬を正式表明しており、それ以降、告示日の8月27日までの約5カ月間、立候補予定者としての講演会や集会を重ねてきたと見られる。現職の玉城氏についても同様に、任期満了のかなり前から support団体による集会や後援会活動が続けられていた。任期満了型の選挙では、いわばこの「政治活動としての期間」こそが、実質的な準備期間として機能していることになる。

もっとも、この境界線は明確な日数で区切られているわけではなく、活動の「態様」によって判断される点に注意が必要だ。同じ講演会であっても、投票依頼の文言が含まれていたり、開催の時期・場所・対象が不特定多数に対して行われていたりすると、実質的な事前運動とみなされるリスクが生じる。告示直前の時期になるほど、この境界は取り締まり当局によって厳しく見られる傾向があるとされ、陣営側も表現や運営方法に慎重さを求められる。

数少ない明確な期間制限の一つが、個人の政治活動用ポスターの掲示規制である。公職選挙法上、任期満了日の6カ月前から投票日までの間は、候補者予定者の氏名を表示するポスターの新規掲示が禁止されており、今回の沖縄県知事選でも令和8年3月29日(任期満了日の6カ月前)以降、この規制が適用されていた。実際に県選挙管理委員会は8月10日時点で、この規制に抵触するポスターやのぼり旗として合計367件の撤去命令を出しており、これは前述の「陣営が最大限の露出を狙う動き」と「制度上の規制」がせめぎ合う、告示前ならではの攻防だったと言える。

まとめると、任期満了型の選挙では「講演会・集会・後援会活動」という形の政治活動を、法律上の明確な日数制限なく、数カ月単位で積み重ねることができる。これは、イベントで言えば「本番に先立つプレイベントやティザー展開を、何カ月も前から自由に企画できる」状態に近い。ただし自由と言っても無制限ではなく、ポスター掲示のような一部の項目には明確な期間規制があり、また表現内容によっては告示前でも事前運動と判断される可能性が常につきまとう。準備期間の長さそのものは確保できても、その使い方には常に一定の緊張感が伴う、という点が実務上のポイントだろう。

一票という、最も分かりやすい成果指標

イベントの効果測定という観点で見ると、選挙戦ほど成果指標が明確なイベントは少ない。最終的な「成果」は当選か落選かの二択であり、その判定材料となる得票数は一票単位まで公開される。これほど厳密で、かつ関係者以外にも完全に検証可能な形で成果が可視化されるイベントは、他の分野にはなかなか見当たらない。

投票率もまた重要な指標である。今回は期日前投票の利用率が前回とほぼ同水準で推移しており、当日の投票率がどこまで伸びるかが最終的な”来場率”を左右する。一般的なイベントであれば、集客施策の巧拙が来場者数に直結するように、選挙戦においても、争点の分かりやすさや陣営の発信力が、最終的な投票率や票の動きに影響を与えると考えられている。

そして今回、この「成果測定の速さ」を象徴していたのが、投票締め切りの午後8時と同時に報じられた古謝氏の当選確実、いわゆる「ゼロ打ち」だった。実際の開票作業は締め切り後に始まるため、この時点で一枚の投票用紙も数えられていない。それにもかかわらず報道各社が当確を打てるのは、投票日当日に行われる大規模な出口調査によって、勝敗を統計的にほぼ間違いなく判定できるだけのデータが積み上がっているからである。イベントに例えるなら、来場者アンケートの集計を待たずに、会場を出る瞬間のインタビューだけで満足度スコアを確定させてしまうようなものであり、選挙という「イベント」が、いかに精緻な事前・当日調査の裏付けの上に成り立っているかを象徴する場面だったと言える。もちろん、ゼロ打ちはあくまで統計的な推定であり、確定した成果指標である得票数そのものは、この後の開票作業を経て初めて明らかになる。

もう一つの効果として見逃せないのが、選挙結果が確定した瞬間に生じる「政策の実行フェーズへの転換」である。イベントであれば余韻を残して終わるところ、選挙は当選が確定した瞬間から新しい任期がスタートし、選挙戦で語られた公約が検証の対象になっていく。イベントの「その後」が、これほど長期にわたって継続的に検証され続けるという点も、選挙特有の性格だろう。

沖縄から全国へ、そして世界へ広がる注目

沖縄県知事選は、一地方選挙でありながら全国的な注目を集める数少ない地方選挙の一つである。米軍基地問題という日本の安全保障政策に直結するテーマを抱えているため、結果は県内にとどまらず、国政や日米関係の文脈でも報じられる。今回の選挙戦に関するSNS投稿の分析では、投稿の9割が県外から発信されており、なかでも東京からの発信が3割で最多だったと報じられている。これは、当事者である沖縄県民以上に、県外の関心層がこの選挙を注視し、発信していたことを示すデータであり、地方選挙としては極めて特異な構図と言えるだろう。

このような全国的な注目度の高さは、選挙戦を「発信すればするほど拡散される」環境に置く一方で、なりすましメールのような偽情報が入り込む余地も広げる。今回も現職候補になりすましたメールが出回り、陣営側が「悪質なデマ」として注意を呼びかける事態が起きている。関心の高さと情報の混乱は表裏一体であり、影響力の大きさが、そのまま情報の健全性を脅かすリスクにもなり得るという点は、現代の選挙戦、そして大規模イベント全般に共通する課題である。

第一声の場所選び、そして「歩く」という演出

選挙戦の演出面で象徴的なのが、告示日に行う「第一声」の場所選びである。今回、古謝氏は那覇市泉崎という都市部の中心地で第一声を上げ、玉城氏は本部町備瀬という地方の地域で第一声を上げたと報じられている。この対比は偶然ではなく、それぞれの陣営が「誰に向けて、どのような物語を語り始めるか」を象徴的に示す最初の一手として、場所選びに意味を込めていることをうかがわせる。

選挙戦の演出は、企業イベントのような映像美や音響効果に頼るものではない。むしろ候補者自身が県内各地を練り歩き、有権者と直接言葉を交わす「街頭演説」と「個人演説会」という、極めてアナログな手法が中心になる。地元紙が「歩く民主主義の声」と題した連載を組んでいたことも報じられており、候補者が自らの足で有権者のもとへ足を運ぶという行為そのものが、選挙戦における最大の演出装置になっていることがわかる。

一方で、近年は動画コンテンツやSNSでの発信も演出の重要な一部になりつつある。地元メディアが「動画でわかる」と題した特設ページを設け、各候補の第一声や政策アンケートを動画で発信する試みも見られた。街頭という現実の舞台と、SNSという仮想の舞台を組み合わせながら、限られた17日間でいかに有権者の記憶に残るかを競う構図は、演出という観点からも、現代の選挙戦らしい二重構造を浮かび上がらせている。

イベマケ視点でのまとめ

選挙戦を一つのイベントとして眺めると、そこには制度によって厳格に縛られた運営の枠組みと、その枠組みの中で最大限の効果を引き出そうとする各陣営の工夫とが同居していることが見えてくる。会場は県内全域、期間は17日間、成果指標は一票単位まで可視化される得票数——これほど条件が明確でありながら、演出の自由度は極めて限定されているという点は、通常の企業イベントとは対照的な設計思想と言える。

それでも、告示という開幕の合図、街頭演説という地道な接点づくり、SNSでの拡散という現代的な拡張、そして投開票というクライマックス、という一連の流れそのものは、イベント設計の基本形と驚くほど重なり合う。結果がどちらに転んだとしても、この17日間がどのような設計のもとに組み立てられていたのかを振り返ることは、選挙という制度そのものへの理解を一段深めることにつながるはずだ。開票結果が判明次第、本稿の前半をあらためて更新したい。

田中力 MICE 研究所 代表 展示会 イベント集客は、来場者数、来場者の質、滞留時間という 集客3D理論を展開。

田中力㈱MICE研究所 代表取締役/月刊イベントマーケティング副編集長

投稿者プロフィール

田中力 ㈱MICE 研究所 代表取締役 月刊イベントマーケティング副編集長。2015年の創刊以来、イベントマーケティング・展示会関連の取材・編集・企画にも関わる。海外の大学卒業後、貿易・物流・小売に関わり、バイヤーのサポートとして海外展に多数参加。2016年からは自社でイベント関係者向けのカンファレンスBACKSTAGEも主催。近年はイベント業界の人材課題を解決する就職フェアも実施。

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